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まだ顔の傷が塞がらず唇は切れ、目元は紫に腫れ上がっていたソウジはニノに連れられ丘にいた。見晴らしはよく雲一つない晴天、上は気持ちのいいくらい晴れ晴れとしているが下を見ると見慣れた殺し合いがあった。


植物はなく亀裂の入った地面を100人単位の人間が戦い血を流し喚き散らしていた。ソウジは渡された皮の軽鎧を着込み背中に2本の剣を背負い腕を組む。横では銀の輝く甲冑と身の丈以上の大剣を片手に持つニノが笑う。



「ウハハハ見ろ父上!! 人間とは愚かな者だな、月日がどれだけ流れても戦ってるもんだな」



「あ~確かに酷いなあれ、てかその剣なんだよ、大きすぎるだろ」



柄も太く刀身は人間の幅と同じほどにある大剣。剣と呼ぶにはあまりにも巨大、無骨で無機質。ただの鋼鉄の塊にしか見えない剣を誇らしく天に向かい上げるとニノは笑う。



「こいつは私の母上の形見でな。魔剣とまで呼ばれた化物剣よ、それより見えるか」



ニノが指を指した方向を見ると銀髪を返り血に染めながら敵のど真ん中で戦うシゼルの姿があった。近くではニックも戦い傭兵団達がいた。



「どうやら娘は待ち伏せに合い囲まれているようだ。どうにか出来ない数ではないが厄介なのが一人いる、あそこだ」



敵陣最後尾に一度見たら忘れない巨漢の女オルガいた。集団の中でもその巨大さが目立ち何かを吼えながら指示を出していた。



「あの女は厄介だ。それでだ父上、あの筋肉女を殺そうと思うんだが」



「俺達二人でか!! いくらニノが強いからって無茶だろ、あの数を見ろ!!」



オルガの前には何枚にも張られた魔王軍の壁がありシゼル達も近づけない。



「正面からなら難しいだろ。ならば横から父上と二人で奇襲すれば問題なかろう」



「いや、お前頭おかしいだろう」



「テツに会いにいって殴るんだろ? このくらいで弱音を吐くようじゃ無理だな……それに私は強いんじゃない、超強いんだ!!」



丘の頂上から飛ぶと落ちるように滑りオルガめがけ突進していく。蟻の大群に巨大な玉が激突するように道を強引に切り開く光景は見ていたソウジを震わせていく。



「娘もぶっ飛んでるが母親がそれ以上とはな、はぁ~やるか」



注射器を一本だし腕の血管に打つと頭の中が弾けたように覚醒する。自分の顔が蕩け出したかのように意識が捻じ曲がり見ていた景色の色が変わる。青一色になりグニャグニャと曲がり脳内が意志を持つように暴れだす。



「スゥ~……はぁ~~!! あぁ気持ちいいなぁ」



体内の血液が血管内で荒れ狂い勝手に手足を動かすように高揚していく。何度も薬物を投与していく内にこの感覚の虜になりソウジは快楽の海に溺れていく。首を何度か傾け骨の音を鳴らすと上を見ていた視線を下に戻し背中から剣を抜く。



「アッー!! ア!! あああああああ」



わけのわからない事を叫び丘から飛び降りニノが通った後を駆け落ちていくと近付くにつれ死体の数と殺され方が見えてくる。まるで大型肉食動物に食い千切られたように甲冑ごと体の一部を失っていた。


魔王軍の中を一人斬り進み、あまりにも巨大な魔剣を振り回し人間が次々に弾かれていく。雑巾を絞ったように体を捻じ曲げられ飛び、上半身と下半身が別々に飛ばされていく。



「オルガァアアアア!!」



叫び声で大気は震え、聞くだけで魔王軍の足は止まり、かつて母と共に戦場を駆けた魔剣を存分に奮い、たった一人で虐殺を繰り返していく。大量にいた魔王軍の数など問題にならない。



「ハハ!! ニノォオオ!! 待ってくれよぉおおお」



薬のせいで気分が高まり戦場の独特の空気でトリップは更に強くなり薬物ジャンキーのソウジは進む。ニノが取りこぼした魔王軍の兵士が恐怖が抜けず腰を抜かしていると迷わず剣を突き立てた。


殺人の罪悪感よりも薬の効果が遥かに上回り斬り抜く。次にきた敵も斬り倒し、ソウジは両手に握り締めた剣で人間の命を虫のように払いながらニノを追っていく。





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