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ウィルが住む鋼鉄の小屋で最終試験が行われた。合格条件は対戦者のニノに認めてもらうだけ、どう戦うかは全てソウジ本人次第。ニノに訓練を受けて数ヶ月が経過しソウジは別人になった。外見は肉の塊のような筋肉で覆われ顔つきも引き締まり10歳以上若返っていた。
雑草だらけの殺風景な庭に出て渇ききった地面を踏みソウジは大きく背伸びしながら現れる。裾が破れ腰回りを紐できつく締めた汚れが目立つズボンと上は裸の格好で肩の可動域を確かめるように回す。
「調子よさそうじゃないか父上」
出会った頃と変わらずタンクトップを着込み鍛え上げた肉体を見せるニノの前に立ちソウジは笑う。
「感謝してるぜ。お前さんのおかげで充実した毎日だったよ、肉体が変われば中身も変わるもんだな。腐った老人から若者になった気分だよ」
「まったく息子以上に馬鹿だな。薬物で命を削ってまで息子に会いにいくなんて理解に苦しむ」
「楽しみでよぉ~馬鹿息子がこんなお父さん見たらどんな顔するかってな。へへ夏休みが明日の小学生みたいな気分だ」
二人は会話を交わしながら近づく。距離が縮むごとに口数は減り最初に仕掛けたのは木刀を持ったニノだった。無造作に振り下ろすが速く鋭い。長物の木刀が残像で消えるように景色に溶け込みソウジの視界を鈍らせていく。
「ハッハー!! お薬のおかげで目も反応も上がってるぜ!!」
齢58歳の老人ソウジは歓喜で震え上がっていた。強いというのはこんなにも楽しいと笑いが止まらない。ニノの振り下ろしを見事に避けると同時に踏み込み懐へ拳を突き出す。
「甘い」
一撃を木刀の柄で叩き落としソウジの顔が固まる。拳速には元々自信がありドーピングで数段上がっているはずだが、それを虫でも払うかのように叩き落とされた。
「本当に俺の娘かよ……才能に溢れすぎてるだろ」
拳を勢いよく叩き落されバランスを崩した一瞬に木刀は入り込んでくる。横から顔面を狙った一振りの音がソウジの耳に響く。避けれるタイミングではなく咄嗟に鍛え上げた太い腕を盾代わり使うと衝撃が走る。
体が横に流され骨が折れたのような痛みを耐えながら今度こそ返しの一撃をニノの腹に叩き込むと飛ぶ。鍛え上げ女らしさを捨てた肉体が数秒飛んだ。
「いってぇええ……が、もらったぁ!!」
ニノが強烈な一撃で唾を吐いた瞬間に銃弾のようなタックルで捕らえる。腰に両手を絡ませ地面に叩き付けて行く。即座に上に乗り上げ拳を迷いなく振り抜いた瞬間に有利だったはずのソウジの体が固まる。
「あ、あが」
ソウジの考えは古い。馬乗りになり上から拳を雨のように降らせれば勝てると思っていた。しかし現実は下から足が伸び首を絞め肘関節も極められ苦痛の声を漏らすだけの状況になっていた。
「ニノォ~異世界の住人のお前が……なんでこんな事を」
「体術の全ては私の本当の父親、まぁ初代魔王とテツから教わっててな」
ギチギチと嫌な音が響き、数秒もあれば肘が破壊されかねないと足腰を立たせ踏ん張る。後は背中の筋肉を盛り上がらせ鍛え上げた溢れんばかりの力でニノごと持ち上げた。
「な!!」
驚いたニノを勢いよく地面に叩き付けると極められた関節技の軸がずれた瞬間に腕が抜け同時に首も開放された。ニノの対応は速く即座に腕を交差させ防御したがソウジはお構いなしに上から拳を叩きつけていく。
「どうだニノ!! 俺は合格か!!」
体力の続く限り砲弾のように重い拳を振り下ろす。馬乗りになられたニノは自身の腹の横にあったソウジの膝を勢いよく押すと重心が崩れ、片手をソウジの脇腹に滑り込ませ一気に横に転ばす。
二人が一回転するように転がると立場が逆になっていた。ニノが馬乗りになりソウジが下。指を鳴らしながら首を捻ると拳を横に鉄槌を作り一気に叩き込む。
「ガッ!! がああああああ」
防御しながら体を持ち上げ左右に振りニノを叩き落そうとする。体の強さなら自分の方が勝ってると気付くが、ニノは器用にバランスをとり鉄槌を叩き込んでいく。
やがては防御の隙間に拳が入り込み。顔がバスケットボールのようにバウンドしする。それでも懸命に反撃をするソウジだが……5分が経過した所でニノがソウジの上から立ち上がり一息つく。
「ハァハァ、ギリギリ合格だ父上、ドーピングのせいで強気な姿勢はいいがその分隙も多い。まぁ使えるレベルまでにはなったか」
顔が変形するほど殴られケチャップが張り付いたような血だらけのソウジが言葉もなく倒れていた。体では勝っていても技術面での敗北。




