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薬物を投与して始めに変わったのは肌だった。渇いた砂のようなザラザラした肌から鏡のように輝き張りがある肌に変わりソウジは鏡の前で驚愕した。次に鍛えれば鍛えるほど筋肉の量は増え続け成人どころかオリンピック選手並みに増幅していく。



「ハァハァ」



そして体力作り。これが一番時間がかかると思っていたが走れば走るほど異常に体力はつき、最初は1キロも走れなかったが1ヶ月走り込むと20キロを走破しソウジの成長スピードは狂気のように加速していく。


筋肉の質も変わり、ゴムのように伸び縮みし鋼のように硬いと日本人では到達できない理想的な肉体に変わって行く。



「ふむ今日も20キロぴったりだな父上」



「ブハ!! はぁ~……しかしこの歳でこの体に体力とは化物になった気分だな」



ニノが考え出したメニューを3ヶ月こなしたソウジの姿は面影は消え筋肉の塊と無尽蔵に近い体力を手に入れた。食事の量も何倍にも増してエネルギーの補給も桁違いになる。



「しかし異世界にしてはやけに科学的なトレーニングと食事だったな」



「ふむ、テツから学んだ事だ。部下達全てにやらせて強化させていたぞ」



走り終わり地面に置いてあった甲冑を身につけニノの前に立ち呼吸を整えていく。体と体力は問題ないが最後の課題が戦闘技術、多少戦いの技術があっとしても敵だらけの戦場では役に立たない。



「では父上今日も手加減なしで行くぞ」



少し大きめのズボンに皮で出来たタンクトップのニノが肩に木刀を乗せ軽く飛んでいるとソウジが動く。甲冑は胸と腰だけ守る軽装と機動性重視。多すぎる筋肉は重く動きを鈍らせる事はない。逆に瞬間の爆発的な速さを生み出しニノに向かい拳を投げ込む。



「スピードも威力も上がっているな。ここまでは合格点だが狙いが単純すぎる」



拳を連打しけん制のジャブで固めようとするが一撃も当たらない。ニノは肩に木刀を乗せたまま頭だけで避けていく。上は当たらないと下の腹に狙った瞬間に木刀が肩に叩き込まれていく。


いくら驚異的な体を手に入れたとしても痛みが変わらず、何よりニノの一撃は丸太のように太く鍛え上げられた腕の外見通りに重い。女の身でありながら男以上の筋量から生み出される一撃はソウジに膝をつかせた。



「倒れるな!! 敵だらけの場所で倒れれば死を意味するぞ!!」



活を入れるように下から蹴り上げると両腕でガードするが無理矢理立たせられる。ソウジは息一つ切らさず体調も問題ない。ランニングで体は温まり調子がいいはずだがニノ相手だと不調にすら思えるほどに手も足もでない。



「懐かしいな。父上よ、テツもこうして何度も私が鍛え上げたんだぞ」



「糞!! え、あ~息子はどうだった? 俺と違い優秀だったか」



捕まえてしまば寝技に引きずり込めるが木刀の懐は深く。素手の技術に特化したソウジには難しい。武器も教えられたが結局どれも上手くいかず一番まともだったのが素手。



「酷いもんだった。それに比べ父上、貴方は十分どころかテツより遥かに強い。覚えもいいし吸収力もある、だが所詮は人間。テツは今は悪魔のような肉体を手に入れて人間ではないだろうな」



頭の中で何度もニノを倒す戦術を練っているが空振りを誘うか一撃でもまとも入れなければ崩せない。空振りを何度も誘ったが乗ってはこない。経験の差が出て勝負にすらならないと積極的に前にいくしかない。


体を丸め左右に振り的を絞らせない。頭以外になら覚悟さえすれば一撃は耐えられると自分に言い聞かせ目標に向かい踏み込む。



「親子だな。テツも昔そーやって丸まって何度も私に挑んできたぞ」



「ハッハー!! この肉体でなら勝てるぞニノ」



「やれやれドーピングのしすぎで少し頭に血が上りすぎだぞ」



筋肉は速さを生み力を授けてくれた。年齢から考えられないほどに踏み込んだ後の駆ける速度は上がりソウジは自身の能力に酔いしれていたが……景色が歪み吐き気が込み上がってきた。



「おぉお……おえええええええ!!」



胃の中の物が全て食道を通し上がり全て吐き出す。鼻から血が噴き出しソウジの見る景色は万華鏡のように歪んでいく。全身から大量の汗が吹き出し全て吐き終わると倒れ数秒痙攣し意識を失った。



「お~い、ウィルいつものだ」



継ぎ接ぎだらけの小屋から杖をつきながらウィルが出てくると汚物の上に倒れたソウジを見て溜息を漏らす。



「たくこんな事してたらいつ死んでもおかしくないのによくやるな親父さんは」



「本人が承知の上でやってるからもう何も言えないな。ウィル、ソウジの体の具合はどうなんだ」



地面に腰を下ろし杖で何度かソウジのをつつきながら答えいていく。



「生きてる事が不思議なくらいにボロボロだな。臓器やら神経やらいろいろ限界まで痛めつけたからな当然っちゃ当然だな」



「……もしテツを早めに倒したとして回復の見込みはあるのか」



「ヒヒねぇよそんなもん。この爺さんは間違いなく死ぬだろうな」



理想を越えた最強に近い肉体を手に入れた代償はソウジの命だった。



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