4章
樹木の枝に腕を組み高笑いをしている女を見てフェルの顔が怒りに歪む。肩まで伸びた黒髪を揺らしシゼル動揺と思うほどの鍛え上げた腕が重ね女はひたすらに笑う。顔にはシワが深く刻まれ目元は垂れ始め年齢は40を越えてるいる中年女は見下し見下ろしただ笑う。
「私の前に現れた以上殺される覚悟はありますねニノ」
「ふははは!! 何を言う馬鹿者め、私はその老人を迎えにきただけだ」
服装は皮の服。武具らしい物はなくヒラヒラと舞わせるだけでの服を着ていた。帯を締め素足を晒し歳相応の老け具合の顔に反比例し鍛えた上げた肉体を見せ付けるように笑い続けていく。
「ニノ、貴方と交わす言葉はもう思いつきません」
怒りから無表情へと変え顔を凍りつかせるように固めると地面を蹴り枝の先まで飛び出す。その豪脚から生み出される爆発力で重力を感じさせない跳躍でニノに迫っていく。
破壊された腕をかばう事なく残った腕を一振りし憎きニノへの一撃を放つと次の瞬間には鼻が折れたフェルの顔は横から殴り込まれ口を大きく開けていた。
「あ……ニノ…」
横からのカウンターを空中で炸裂されバランスを失った時ニノは構える。枝というバランスが悪い上で脚を左右に開き打ち出す拳の体重を乗せ、全身を捻り加速を生み出し威力のみを追及した一撃を叩き込む。
「相変わらず感情的な奴だなお前は。攻撃動作が大きい!! 出直してこい!!」
上空から一気に叩き落とされ地面に激突すると跳ね上がり大の字に倒れたフェルが次に見た物は落ちてくるニノだった。膝を突き立てフェルの腹めがけ自身を鉄球のように重くし目標に向かい撃ち出す。
体内の臓器が破裂する感触を味わいながら落下してきたニノの一撃を受けると悲鳴ではなく口から血を吐き出しニノの顔に浴びせる。
「が――…ああああああ!!」
それは獣ではなく竜の怒りの咆哮だった。膝を落としたニノに向かい横から力任せの一振りの拳を当てるとニノは防御するが勢いよく飛ばされ受身を取る暇なく体を何度も地面に叩きつけていく。
「ニノォオオオ!!」
呼吸をするだけで喉が痛み腹部からの激痛を耐え抜き立ち上がり転がっていったニノに近づくと地面の砂で汚れ転がり格箇所が千切れ肌を露出させたニノが立っていた。
「相変わらずの怪力と丈夫さだなフェル。竜とは本当に化物だな!! 悪いがお前のような怪物と真っ向から戦うつもりはない」
ソウジと戦ってる最中他に気を回してなかったせいかフェルは近づいてた集団に気付かなかった。森の影から何人もの男達が現れフェルを囲むようにジリジリと円を狭めていく。
「テツに伝えておけ。私という妻を持ちながら他国の女を陵辱し浮気した罰はその命で払ってもらうとなハハハハハ!!」
男達が手に持ち槍を構え一斉に投げ出した瞬間フェルの危険察知はようやく働くが回避行動に出る前に槍が脚に刺さる。動きを止められ的になり体に何本もの槍が突き刺さる。腹を貫通し背中から切っ先が出る槍が数本。
脇腹に勢いよく刺さる槍もあるがフェルは咄嗟に顔を守り絶対の守りの自信のある体で槍を受け止めた。彫像のように固まり顔を守ったフェルを見て男達が近づこうとした瞬間に手が上がる。
「そこまでだ今は引くぞ。こんな事でくたばったら苦労しないからな、近づいてみろ。手の届く範囲なら殺されるぞ……まぁしばらく動けまい」
倒れ呼吸が乱れ言葉を失ったソウジを持ち上げると瀕死の状態のフェルを放置し一気に駆けていく。無数の槍で貫かれ地面に貼り付けになったフェルは怒りの声を上げ両手を開くと同時に空へ吼えた。
「あの糞女ぁあああああああ!!」
かつて共に学園に通い戦った戦友は好敵手になっていた。出会えば互いの部下を数え切れないほど失い、血塗れの二人になっていく。




