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初めて感じる感触だった。間接を破壊し靭帯を断裂させ骨を折るという全ての感触が手に残りソウジは気持ちの悪さに一瞬力を緩めるが膝で抑えつけている頭部から呻き声が聞こえ更に力を入れる。



「やってくれたなぁああ人間!! 殺してやる!!」



口調まで変わり片目で睨みつけてくるその顔は美少女ではなく獣だった。剥き出しの刃のような歯に背中から音がし漆黒の羽が服を貫通し生えてくる。尻尾も股の間から出現しくるとソウジは更に膝を押し付け破壊しつくされた腕に痛みを送る。



「無駄な抵抗はよせ!! お前が竜だろうがなんだろうが構造が人間ならこの状態からは抜け出せないぞ!!」



「このぉおお……まったく驚きですね」



怒りを一瞬で冷ますかのように冷静になると大きく息を吐く。



「テツさんと同じ世界からきたんですね。こんな技こっちにはありませんよ。ふぅ~……っ!!」



体力の限界がきて大量の汗を落としながら必死に抑えこんでいると見ている景色が上がっていく。何事かと思いフェルを見下ろすと背中が浮上してきた。何をしているかは直感でわかったがありえないと呟いた。



「老兵、貴方は技は一流です。技術では私より遥かに上、しかし悲しいですね。その体では一流の技は半分以下の威力です」



フェルは残った片腕一本を地面に突き立て自身の体とソウジの体を少しづつ持ち上げていく。



「ふざけるなよ……竜ってのはなんでもありだな」



「老兵。たかだか人間の身でありながらここまで追い詰めた事を誇りに思いなさい、敬意を持って葬りましょう」



腕を伸ばしきるまで持ち上げた後に大きく畳み、腕立て伏せのような状態から一気に跳ね上げた。空中に飛び上がりソウジし掛けていた間接技は意味を無くす。


フェルは空中で体を半回転させ上に乗っていたソウジを視界に捉えると膝蹴りを叩き込む。脇腹に突き刺さり甲冑は砕け散り矢のようにソウジは飛んでいく。



「しばらくこっちは使えませんね」



肘の部分が腫れ上がり肩から下が左右に揺れ安定を失った片腕を抑えながら吹き飛び転がっていき樹木に激突し、背中からもたれるように倒れたソウジに近づく。



「ハッハッ!! アァアア……ッ」



言葉が出ず膝蹴りを食らった脇腹を抑え目蓋を閉じ痛みに耐えるソウジを見てフェルはしゃがむと坊主頭を掴み上げ体ごと持ち上げた。



「ここ数年で一番苦戦しました。苦しまず殺してあげましょう」



「……きか、テツは……」



微かに言葉を出すソウジの言葉に耳を傾けると命乞いではなくフェルが驚く言葉を出す。



「テツは元気にしてるか」



「はぁ? まぁテツさんは毎日好き勝手やって本当に楽しそうですよ」



その言葉を聞くとソウジは苦しみの表情から悲しげな笑みに表情を変え死の覚悟を済ませていく。



「ヘヘ、本当にどうしようもねぇ人生だったな……最期がこんな所でこんなんじゃ酷いにもほどがあるな……お嬢ちゃん頼みがある」



「一応は聞いてあげます」



「テツに一言すまなかったと伝えてくれ。それ……だけでいいや」



全身の力を抜き目蓋を閉じゆっくりと深呼吸をし死への旅路と恐怖と戦う。ここからの逆転は不可能だった。体力切れの老体と生き物としての性能が違う竜。戦う前から決まりきっていた結末を受け入れたソウジの耳に最期の音が響く。



「ふはははは!! 久しいなフェル!!」



その音は拳を振り抜く音ではなくやたらとテンションの高笑いだった。



「本当に久しぶりですね……ニィイイイノ!!」



 








 

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