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日光を浴びながらフェルは輝いていた。銀髪を反射させ拳の血液を燃やすように輝かせ構えた。オルガともシゼルとも違う構え、ガードを下げて拳は常に打ち出せるように力を抜き発射台に乗せていく。
「そいつもテツに習ったのかい」
「えぇ一番センスがいいと褒められました」
踵を浮かせステップを刻むと一呼吸つき一気に踏み込んでくる。鋭い切っ先のようなジャブが飛んでくると分厚い手甲で防ぐが体が後方に下がる。けん制のジャブの威力ではない。痺れる腕の奥でソウジは震え上がる。
「格好をつけてくださいよ老兵さん!!」
正確に打ち抜き速く重い。人間が思い描く理想の拳だった。速さを重視すれば重さは失われるはずだがフェルの拳は外見からは考えられないくらい重い。ソウジには受けるしかない。年齢につれて下がった反応速度では避けれないと思い耐える。
「グッ!!」
耐えてもジャブの連打はやまず、その重さで動けなくなる。このままではいい的だとタイミングを覚える。早くしないと手甲が砕かれてしまうと思うような凶悪の拳を体に覚えこませていく。
フェルが刻む打撃音は正確でリズムもいい。まさに天才だと受けてわかる。奥歯を噛み締め何発も耐えてる内に体が答えてくれた。
「時間稼ぎですか!! いつまでも耐えれると思わないでください!!」
亀のように固まるガードをこじ開けようと体重を乗せたストレートで腕の間をぶち抜く右を放り込むとソウジの体が揺れ出す。わずかに左に揺れフェルの拳を頬にかすめると同時に体を捻る。
膝から腰に力を伝え全身を捻じ切れるほどに回し死の一撃を避けたソウジはカウンターの体制からアッパーを炸裂させていく。
「まだもう片方が残ってるはずだ!!」
まだ使ってない腕のスプリングを発動し脳を揺らされ焦点が合ってないフェルの顔に渾身の一撃で貫く。小柄な体が森林の中を転がり枝にひっかかり植物を巻き込みながら飛んでいく。
「ふぅ~……はぁ」
膝に手をつき汗を垂らし呼吸を整えるが乱れていく。地下から全力で走り打撃を受け続け体力は底をつき始めていく。スプリングの威力と隙だらけの所へ殺すつもりで貫いた一撃。相手がどんな化物で倒したと確信するがその希望は砕かれた。
「こんなに綺麗にもらう事なんてテツさん以来ですよ。貴方その技術どこで学んだですか」
鼻から下は血で染まり形も捻り曲がり美人が台無しになったフェルが平然と森林の奥から歩いてくる。汗を拭いながら顔を上げたソウジの顔には絶望ではなく笑いが張り付いていた。
「お前さん何者だい。 本当に人間かよ」
「私は誇り高い竜族です」
「へ……フフ、ハハハハ!! 竜ときたか~……ククアハハハ!!」
異常なほどの腕力にありえないタフネス。真っ当な人間ではないと思ったが竜と聞いて笑えてしまう。ソウジにあったのは恐怖ではなく驚きと歓喜だった。
「もし本当に竜ならお前を倒せば英雄にでもなれるのかい」
「そうですね悪名高い魔王のテツさんの本妻を倒したなら英雄ですよ」
「待て、じゃお前がシゼルの母親か」
その言葉を言った直後にフェルの顔は怒りに染まる。先程までの丁寧な戦い方とは変わり荒々しく腕力と速さに物を言わせ腕を振り回していく。だがそれだけで十分な脅威になりソウジも下手に手を出さず回避に専念していく。
「あの馬鹿女と一緒にしないでください!! テツさんの子供を宿しながら裏切り去っていった女を!!」
ソウジは戦っていた。誰にも知られず報酬もなく名誉もなにもない。そんな相手が竜。森林の中で丁寧にフェルの拳を見極め命を削り紙一重の攻防の中踊っていく。
ソウジとフェルは息の合ったダンスのようにくっつき地面を滑るように移動していく。防御の次は回避と老体には辛いが最大の好機が訪れていくる。
「一撃でも触れればその老体を粉々にします!!」
大振りの力任せのフックが横からくる。これが最後だと気力と体力を振り絞りフックの内側に入ると同時に肘でフェルの顔面を削る。ダメージは蓄積され膝が崩れた瞬間に頭を掴み上げ地面に叩き付けた。
顔を地面に擦りつけ背中に乗ると片腕を掴み上げ逆方向に一気に捻り上げていく。首には膝を抑え付け間接とは逆方向に腕を捻り上げていく。
「竜でもその体じゃ人間と構造はたいして変わらんだろ!!」
肩が外れる鈍い音と肘関節が破壊される音が同時に響くと二人だけの森林に声が響いた。
「あぎゃああああああ!!」
透き通るような綺麗な声からは想像できないフェルの激痛の声。




