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屍の山に立つのは一人の少女。美しい銀髪は腰まで伸び森林を駆け抜けるわずかな風で宙を泳ぐ。真っ白のドレスを着込み幻想的で美しい少女だが両の拳は血で染め上げられ純白のドレスも返り血で美しさを失っていた。


小柄な少女におばさんという言葉は似合わず10代にしかみえない。大量殺人をしたとは思えない美しい顔にまで返り血をつけ振り返るとソウジは心底怯えてしまう。人間ではなく何か恐ろしい正体すらわからない者に体中を掴まれている感触が支配していく。



「もういいでしょシゼル。傭兵遊びも終わりにしなさい」



「何言うんですかおばさん。私は本気です」



まだ息がある部下がシゼルに向かい手を伸ばした瞬間に頭を踏み抜かれ動かなくなるとフェルはわざとらしく溜息をつく。



「貴方が必死に掻き集めた傭兵達もたいした数もいなく弱く……よくそれで父親のテツさんに挑もうと思いましたね」



「お父さんだって最初は酷い物だったと聞きましたが」



「確かに酷かったですが思い出すだけで心が躍り共に歩んだ冒険は痛快でした。しかしシゼル貴方にはそんな事は無理です」



ただフェルが語ってるだけの行為でソウジとニックは固まる。野良猫が虎にでも出くわし動けなくなった。



「貴方の母親の馬鹿女は大嫌いですが、貴方を幼少の頃から鍛え多少の情もあるので話合いで解決したいです、戻ってきなさい」



「戻ってまたお父さんの暴君に付き合えと? 幾多の国を滅ぼしては優越感に浸る毎日を送れと言うのですか」



「その通り!! 本当に他者をを踏みにじり徹底的に痛めつける快楽は癖になります。シゼル、貴方もテツさんの血を継いでるならわかるはずです」



ソウジは動く。声も出すのも苦痛だったが目の前には会ったばかりで日も浅いが可愛い孫娘がいると気合を入れて一歩を踏み出す。



「ニック!! シゼルを連れて森の中を走り抜けろ!!」



「え……おいおい爺さんどーした!!」



「シゼルはお前らのボスなんだろ!! ごちゃごちゃ言わず行け!!」



その意見に当然反対をするであろうシゼルに近づきウィル特性の介護式甲冑のスプリングで腹を殴り抜く。筋肉の塊のシゼルの足が浮き不意をつかれたせいか呼吸すら怪しくなる。



「いいかシゼルが何を言おうが安全な場所まで運べよ!! しばらく動けない一発お見舞いしたから後は運ぶだけだ!! ニック頼むぞ」



「爺さんらしくないぞ。そんなに格好をつけてんだよ」



「お前もらしくないじゃないかニック。いつものふざけた笑い声はどーした」



互いに顔を確認し合うとまだ多少暴れているシゼルを無理矢理ニックが担ぎ背中を向けていく。



「……え~……ヒャハハハ!! 爺さんこんなんで死んだら笑い者もいい所だぜ~生き残る算段はあるんだろうなぁ」



「昔から一度は言ってみたかったんだ。ここは俺に任せて先に行け!!」



ニックが全力で走っていく背中を見送ると振り返る。そこには腕を組みニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべたフェルが立っていた。



「中々の茶番で見てて面白かったです。しかしわからない、老兵よ。お前はシゼルにそこまでの恩や忠義があるんですか?」



「あるさ。恩や忠義なんて物より大切なもんがな」



ニックに言われた通りだった。格好をつけたかった。孫の前で少しでもいい格好をしたくて自分の命を投げ捨てる行為に及んだ結果が目の前の化物である。


本当にろくな父親ではなく子供を捨て糞みたいな人生だったが知らぬ間に孫が出来て少ない時間だが共に歩んだ。その時間だけでもソウジにとっては宝物のような時間だった。



「それでどーするんですか」



「少し格好つけすぎたからな。どうせなら最後まで格好をつけるさ」



日光が枝の隙間を縫うように降り注ぐ森林の中ソウジは挑む。勝算なんてない。ただ孫のためにと自分を奮い立たせ拳を握り立ち向かう。








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