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上階からの階段を降りてくる男がいた。その男は長年国を運営し領土も広げ人望もあり立派な王だった。ただ正義感が誰よりも強かったのが国を滅ぼす元になってしまう。
世界を焼き払うかのように好き勝手暴れ回る魔王が許せなかった。家族も立派な王に従い必ず勝利をと挑んだ結果は正義など何の役にも立たなかったという現実だった。
大切な国の人々を蹂躙され王宮も破壊され尽くされた王は王妃と息子を引きつれ面影を失ったホールに立つ、剣を握り締め王族の煌びやかな衣装を泳がせていく。
「おいあんた何やってんだ」
ソウジは決意を固めた王の肩を掴むと睨まれ一瞬怯えにも似た感情を覚える。眼光は鋭く覚悟を決めた人間の眼をしていた。
「俺が言うのもなんだが馬鹿な考えはよせ!! おいシゼル、せめて雇い主である王様ぐらい逃がしても罰は当たらんだろう」
「おい傭兵。貴様誰に向かって口を聞いている、貴様ら根無し草と違いは私は何十年とここを守ってきたのだ。それを逃がせと言うか」
「あのな!! 気持ちはわかるが死んだら全て終わりだろうが!! それにあんた家族まで巻き込んで何してんだ!! 奥さんと息子まで道連れは酷いだろ」
ソウジが叫ぶように説得した瞬間に剣の切っ先を顎先に突きつけられ動きが止まる。
「妻も息子も承知している。魔王の頭を下げるくらいなら最後の一人まで戦い抜き倒れてしまう方が誇りが守れる」
「はぁ!! あんた家族の命より誇りをとるってのかよ!! 俺は偉い事言える立場じゃないが……そんなんが王様なら酷い国だなここは」
「お爺さんそこまでです」
兵士が必死に抑えている扉に亀裂が入り破られるまで時間がない事を察したシゼルが無理矢理ソウジを引っ張る。
「殺しを生業にしてきた薄汚いお前達と誇りについて語る事などない……さぁ魔王軍に我らが誇りの刃を見せてくれようぞ!!」
その言葉を最後に王と護衛の兵の姿は消えていく。地下の入り口まで到達した三人は潜り薄暗い地下の中を進んでいく、灯は壁に一定の距離で用意され道も単純な一本道だった。
「納得できねぇ!! そりゃ俺は息子を捨てたどうしようもない親父だが……あの王様の行動は納得できねぇな!!」
「あのですねお爺さん!!」
シゼルが額に血管を浮かべ丸太のように太い腕で壁を殴りソウジの言葉を止めていく。
「私達は魔王を倒すために戦っているんです!! だから傭兵団を作り資金を集めて汚い仕事もします。いちいち国が滅んでそこの王族と口論するなんて何を考えてるんですか!!」
「お前は何も思わなかったのかシゼル!! 自分の妻と子供に死ねというような戦いをさせたあの大馬鹿野郎に!!」
「――…えぇ何も思いません。あぁまた国が滅びましたかくらいです。だいたい王族なんて物はあんなもんですよ。無駄に高い誇りで命を失うか命乞いして殺されるかだけです」
シゼルの表情は人間を見る目ではない。道端の石でも見るような無関心な瞳をしていた。普段は人間臭く表情豊かに見えたが本性が少しだけ見てソウジは悲しさを感じた。
他人がどうなろうと微塵も気にもせず。優しさの欠片もない冷酷な人間が出来上がっている。ソウジはそれ以上何も言えず黙ってついていくと出口が見え進んでいく。
「やれやれ喧嘩は簡便してくださいよボス。仲間でそーゆ空気俺苦手なんで」
「だってお爺さんが余りにも甘い事言うんでぇ~」
「まぁ爺さんボスこーゆ人なんで仕方ないぜ。たぶん俺が死んでも涙の一つも流さないし仲間も知った上でついてきてんだからよぉ~わかった?」
年甲斐もなく剥れ顔を作りブツブツいいながらシゼルの背中を視線でつつきながら出口を出ると森の中に出る。
「ボス逃げろ!!」
ニックの初めて焦る声が聞こえソウジの背中から大量の汗が出て一瞬で冷えてしまう。森林の中に広がるのは先に逃げたはずの傭兵団の大量の死体。森林の緑は赤に染められていた。
「久しぶりですね、テツさんに言われて様子を見にきましたよ」
「フェルおばさん」




