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城内を駆け抜け下へと降りて行くと兵士達の死体が目に付く。喉元を斬られ甲冑を剥ぎ取られる者や体の一部を斬り落とされている。ソウジは未だ見慣れず視線を落とすと前方を走っていたニックの背中にぶつかる。



「ボスは下がっててください」



前方に死体を漁っている魔王軍の傭兵達がいた。数は二人と混乱を利用し忍び込んだのか王の首狙いかはわからないがニックは剣を片手に手招きしていく。



「ヘヘこいよ同業者!! 相手してやる!!」



傭兵の一人が腰から短剣を抜くとニックと向かい合う。残された一人も背中から両手剣を抜くとソウジを睨む。



「お爺さん、装備も武器も与えました。傭兵の一人くらい倒せないこの先やっていけませんよ」



背中から威圧するようにシゼルが声を掛けるとソウジも静かに頷く。傭兵の装備は両手剣と軽装備の甲冑。機動性と攻撃力を同時に使う装備を見てソウジも構える。


通路は大人二人分には十分すぎるほど拾くニックは既に離れ敵と打ち合っていた。深呼吸し息を整え傭兵を見据えると違和感を感じはじめた。


これから人間一人を殺すかもしれないのに心は恐れでもなく怒りのように燃え上がらず静かだった。集中してないわけではない。何も考えられずただジッと敵を見据えていく。



「よう爺さん、その立派な甲冑置いてけや、それで命くらいは」



傭兵に何を言われても答えずただ待つ。呼吸は正常、心拍数も上がった気がせず緊張で筋肉が固まってる様子もない。まるで全てを見透かしたようなソウジの瞳に傭兵は動く。


両手剣のリーチの長さと威力で横から振り払う。体重も乗せ速さも十分、見ていたシゼルが危ないと叫ぶほどにソウジは微動だにしない。刀身が顔の横を通過し両断しようと瞬間に消えた。



「クッ!!」



腰を下げ頭の上で刀身の空振りと傭兵の焦りの声を確認すると膝のスプリングを縮ませ一気に伸ばす。その速さは人間とは別物だった。体全てが動くが残像だけを残しソウジは空気を破裂させていく。



「チェヤリャアアアア!!」



がら空きの腹に拳を振り抜きスプリングで強化した一撃は触れた瞬間に傭兵を吹き飛ばし残ったのは軽装備の破片だけ。老人の腕力と機動性を遥かに超えた力放った直後、予想以上の結果にソウジは動けなかった。



「あのウィルとか言うジジイ。とんでもないもん作ったな……痛い」



スプリングの強力なエネルギーに体がまだ耐えれなく一撃で足腰や肩に痛みを感じているとシゼルが笑顔で肩を叩く。



「すす凄いよお爺さん!! 何今の!! もう一回やって」



「こら興奮するな。今は逃げる方が先だろ、ニックは……あ」



ニックは相手の胸に剣を突き刺しケタケタ笑いながら懐を探っていた。金目の物を発見すると強引に奪い死を待つだけの傭兵を地面に蹴り飛ばし強奪した物を懐に入れていた。



「ヒャハハやるな爺さん~横目で見ていて体が砲弾みたいに動いてたぜ」



「あぁそのおかげで一回使っただけで体中痛い。シゼル地下はどっちだ」



案内され走ってる中ソウジは思い出す。命のやりとりの戦いだったが体が自然と合理的に動いた。技術があっても戦いの素人にはありえないと思い理由を探すが思い当たる事は一つしかない。


代々受け継がれていたという格闘術を無理矢理教え込んだ父親だ。催眠術にでもかかったように体が勝手に動き、考えるより先に決められていたかのように拳を放てた。



「ここを抜ければすぐです!!」



上階からホールまで戻ると景色が少し変わっていた。瓦礫だらけは変わらないが扉を何人もの兵士が抑えこんでいた。扉は外側から巨大な力で打ち付けられ揺れ、抑えている兵士も突かれるたびに後方へ押されていく。



「おいニック、あれどーゆ事だ」



「あちゃ~あーなってるって事は~ボスどーゆ事っすか」



「……城門が破られました。もうこの城は終わりです」



ソウジは初めて国が終わる瞬間に立ち会う。

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