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上階へ登っていき廊下を走り抜けていくと扉が片方だけなく、もう片方も武器で貫かれた扉の前まで辿り付くとシゼルは蹴破り中に進入する。部屋の中は変わらず血の匂いと床は瓦礫だらけ、壁には国家の印が刻まれた旗がかけてあったが無残にも燃やされている最中だった。
「よぉ悪いな、俺らの方が早かったな」
顔に大きな傷があり背丈は180を越える男が両手に王と王妃の首を持ち玉座に座り酒を飲んでいた。その姿は汚らしい傭兵がよく似合う。城内で手に入れたのか銀色に輝く甲冑を着込み王冠をわざとらしく被っていた、
「貴方は馬鹿ですね」
「あぁなんだぁ姉ちゃん~負け惜しみは醜いぜ」
「その二つの首を持って逃げればよかったものを余裕ぶって残るなんて……その首を持っているという事は全傭兵を敵に回すんですよ」
シゼルが大剣を抜くと男も玉座から立ち上がり盾と剣を抜く、二つとも使い古され乾いた血がこびりつき年季を感じさせる盾と柄の部分が磨り減っている剣を見てシゼルがニックに指示を出す。
「ニックいつも通りに、お爺ちゃんは……しばらく休んでていいですよ」
体力の底をついてた状態で走り続け声も出せないソウジは片手をなんとか上げて答えると呼吸を整えていく。男が立ち上がると部下達数人が他の部屋から出てきてその数10人。
対するシゼルは戦力の全てを退路確保のために残してきてニックと二人。数の上では勝負にならないが大剣を背負い飛び出す。
「うぉおりゃあああ!!」
狭い室内では長物の大剣は障害物に当たり振り回せないがシゼルは別だった。障害物に当たろうと障害物ごと斬り目の前傭兵を粉微塵にしていく。玉座で余裕ぶって腕を組んでいた男の顔が変わっていく。
横殴りに大剣を振っただけで部下が3人殺され体の一部が男の顔を通過し玉座に叩き付けられていく。大剣を振り回し壁に刀身が当たろうと速度は低下せず石で詰まれた壁を削りながら振り抜かれている。
「滅茶苦茶だな」
離れていた場所で見ていたソウジは恐ろしい反面悲しさもあった。成人もしてない女の子があれほどの強さを手に入れるのにどれだけの戦いを繰り返したと思うと。真っ当な人生ではないのは確かだった。
「ヒャアアアア!! ボスが凄すぎて出番がこねぇぜぇ」
猿のように手を叩き喜ぶニックの言う通りだった。シゼルを中心に傭兵達が解体させ床も削られ壁も叩き壊されていく光景は奥で見ていた傭兵の頭領を震え上がらせていく。
「待った!! 待て待て!!」
男が声を張り上げ両手を前に出すとシゼルの大剣は止まり10人いた傭兵達は全て肉の破片と化していた。
「俺達は傭兵協会だ!! 協会に手を出すって意味わかってんのか」
「あぁ~あの傭兵同士で仲良しごっこしてる集団かヒャハハハ」
「そ、そうだ!! 協会は仲間の死を許さず必ず報復にくるぞ!!」
銀色の髪を掻き分け頭をボリボリとかきながら目を細め溜息をつくシゼルが近づく。
「貴方も傭兵の端くれでしょ、傭兵がそんな事言うなんて恥ずかしいと思わないんですかね。仲間が報復にくるから待て? そんな脅し文句初めて聞きましたよ」
「協会は100人はくだらない数がいるんだぞ!! おい待て!!」
大剣を勢いよく振り抜くと男は盾で防ぐが装着していた腕から激痛が走り骨が折れた感触に男が悲鳴を上げる。二つの首を奪いニックに渡すと背を向け男を無視していくと叫ぶ。
「てめぇら!! 覚えていろよ!! この借りは必ず返すか――…っ」
男の言葉を止めたのはニックの投げナイフだった。額に突き刺さり一撃で決めたニックの腕はとてもアルコール中毒な上に薬物を使用しているとは思えない。
「お爺さん立てますか? さぁこんな場所立ち去りましょう、あぁ~全身が生臭くて気持ち悪いなぁ」
「ヒャア!! ボスいつも汗臭いから大差ないぜ!!」
「……ニック貴方は優秀な部下です。だけどその口の聞き方だけは直してくださいね」
一瞬シゼルから恐ろしい殺気が出て肩を借りてるソウジは全身鳥肌が立ったがニックは変わらなかった。
「ウヒャアアアア!! ボスが怒った怒った~図星を突かれて怒ったぁああ」
「はぁ、部下選び間違えました」
城門まで戻ると部下達が退路を確保していたが、その先は来た時変わらず傭兵達の海。敵兵も王を殺された事を知らずに必死で戦う中をシゼルは馬に乗り大剣を振り回し傭兵と敵兵の海を切り裂いて進んでいく。
「どうでしたお爺さん初陣は」
シゼルの後ろに乗っていたソウジは無言で大量の汗が吹き出し目が泳いでいた。馬上での特有の揺れと疲労の限界が重なって我慢ができなっていく。
「オ、オアアァアアアアア!!」
「ちちちょっと!! 後ろで吐かないでください!!」
「爺さんが吐いたぞぞぉおお~傭兵共に汚物を撒き散らしながらの退却とか面白すぎるだぁああアハハハハハ」
ソウジは初陣を生き残った。




