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3

盾は両方肘から手の甲までの長さ、重さは金属製にしては軽い。面積は大きくないが体を守るには十分な丸型。特に装飾はなく無機質な金属がそのまま使われたような盾を持ちソウジは確認を終える。


何度か振り回すと体が流されるわけではなく足腰も安定している。深呼吸し再び走り出すとさすがに速度は落ちるが自分にあっている武装があるのは助かった。


剣など扱えるわけもなく強度も高くない。盾は金属の塊という利点があり鈍器以上の攻撃力を誇り上手く使えば攻守一体という思い付きだけで選んだ。



「ハァハァ……何やってんだ俺は」



年齢58歳、妻子もいたが逃げられ細々と誘導員で暮らしてたはずなのに今では戦場の中を走り抜けていた。足元には血だらけの武器や防具と死体が転がっている。



「がぁあああああ!!」



獣のような傭兵が襲いかかってくると装備は片手に手斧だけ、もう片方の腕は切り落とされ正気を失い手斧を振り下ろしてくる。先程の動きを再現するように盾で手斧を弾くと同時に今度は二個目の盾を顔面めがけ振り抜く。


顔の形が変わると同時に首も曲がり無残に倒れていく様にソウジは震えた。殺しの恐怖より勝ったという優越感に喜ぶ自分に震えてしまう。



「ヒャハハハ爺さん生きてるかい」



相変わらずのふざけた笑い声で現れたニックは皮の甲冑を全て真っ赤に染めて腰には死体から剥ぎ取った金品をブラさげていた。



「盾が気に入ったのかい、その装備おかしいぞ」



「う、うるせぇ剣なんかよりも丈夫で使いやすいんだよ」



先頭のシゼルが鬼のような前進を続けているがピタリと止まる。先には城門前に固まっている敵兵の壁。装備が明らかに違う、重武装で盾を地面に突き刺し腰を落として待ち構えていた。



「ゼェゼェ……ハァハァ」



立ち止まった瞬間にソウジの呼吸はおかしくなり足が前に進んではくれない。これだけは避けて通れない、年齢通りの体力切れ。大量の汗と重力を感じるほどの体の重さ。



「俺も爺さんほど歳食っちゃいねぇが~やっぱり若いもんには体力で負けるから~これよこれ!!」



ニックが隣で懐から注射器を出すと腕に打ち出す。その数秒後には目がギラギラと輝き出し鼻息が荒くなり競走馬のようになった。



「おいニックお前なに打ったんだ!!」



「ハァ~こいつは気分を高め体力まで高くなっているような気分になる……お薬だよぉおおおお」



「お前そんな体に危ないもん――…おい!!」



シゼルを追い越しニックは単身で重装備の山の中へ飛び込んでいく。上から降っていくように戻り込むとニックを中心に重装備の敵兵が次々に倒れていく。



「お、おいシゼル!! ニックの奴どーなってんだ」



「おぉ!! 生きてましたかお爺さん」



全身返り血で笑顔で喜ぶシゼルが不気味だったが、人間離れした速さで野生の獣並で動くニックの変わり様が気になる。



「ニックの奴は変な薬打つといつもあーなんです。味方に被害はないし何より戦闘力が上がる分にはいいから気にはしてないです、さて私達もいきますか」



ニックが開いてくれた重装備の穴にシゼルが飛び込むとそこから先は暴風のように大剣を振り回し内部から崩壊させていく。血が竜巻のように舞い上がり、その中でニックは片手剣一本で重装備の隙間に滑り込ませて殺していく。



「たった二人でやっちまったのか」



父から武術を学んでいたがソウジが見た物は武ではない。単純な暴力だった。ニックは長年の経験で身につけた勘と動きで、シゼルは力に物を言わせた虐殺。



「お~い城門開いたんでいきますよぉ~」



「ウヒャアアアア!! いくよぉおおお」



ニックが猿のように飛び跳ねて喜ぶ横でまだ死体の一部がついた大剣を掲げるシゼルの姿はソウジからしたら悪魔に見えた。城門から先は本当の地獄じゃないかと錯覚するが後戻りはできない。



「ハァ……ハァ!!」



体が重く速度は落ちるが止まったら死の状況が体を進ませていく。普段から筋トレはしてたおかげで盾を振り回す筋肉だけはまだ生きていた。


城門を潜り扉を一枚破るとホールに出る。内部は柱が何本も立ち青色の絨毯まである高級感漂っていた姿はなく、破壊つくされていた。柱は倒され絨毯は踏み抜かれ曲がり血で色を変えている。



「先客がいるみたいです」



上階へ繋がる階段を登りながらシゼルが舌打ちをする。ソウジもなんとなくわかってしまう。先客はどう考えても傭兵、つまり餌の奪い合いがこの先で待っていると。


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