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人の海を掻き分けてシゼル率いる傭兵団は進んでいく。敵兵と戦っている者もいれば傭兵同士で死体から剥ぎ取った金目の物を奪い合う者、そこは人間が欲望のままに動く戦場だった。
先頭をいくシゼルは片手に槍を振り回し邪魔になる敵兵傭兵を突き殺していく。目に入る物全て壊しいく姿は素手でソウジと戦った姿とは別物。傭兵として本業の姿になり突撃していく。
「爺さん、甲冑ぐらいちゃんとつけろよ」
ニックに指摘され古臭く色も薄くなっている甲冑を揺れる馬上で眺めると上から被さればいい形に気付き装着していく。
「ヒャハハ!! 案外似合うな~そうしてると歴戦の猛者みたいだぞぉ」
馬上で器用に酒を飲みながら片手に持った剣で馬上から敵や傭兵も確認せず斬り殺していく姿は完全に薬物を投入した快楽殺人者。
「まだ城門まで距離あるぞぉ~……あぁ固まってるわ」
敵と傭兵達の塊が見え進路を邪魔している。その数は壁にさえ匹敵しシゼル率いる傭兵団の人数からして避けれない。誰よりも先に気付いたシゼルは馬から飛び降り背中に背負っていた大剣を抜く。
身の丈と同等の大きさを誇る大剣を両手で握り締め下半身を捻り上げ力を溜めると同時に巨大な剣とは思えない速さで切り裂く。
敵も傭兵も吹き飛ぶように斬られ空中で解体されていく。近くで見ていたソウジはその一振りに震え上がる。女とは思えない筋肉も体中の傷も全て物語るような圧倒的強さがあった。
「ヒョオオオオ!! ボスはいつでも派手だねぇ」
二撃目で横から払うように振ると数人纏めて吹き飛ばし傭兵団が一気に雪崩れ込む。
「爺さんここからは歩きだ!! お互い死なないようにな~ヒャアアアアア」
ニックはケタケタ笑いながら敵だらけの中に剣を持ち突っ込んでいく。残されたソウジは盾を見て装着の仕方に迷い裏側を見てバンドに腕を突っ込む。グリップまで手が届くと力強く握り格好だけは剣と盾の戦士になる。
「なんだこれりゃ」
馬上から降りて見る景色は切り落とされた腕や足と傭兵達の声で充満している地獄だった。鼻は血と腐敗の匂いで刺激され耳は金属音で塞ぎたくなる。どこから敵が襲い掛かってくるかわからない状況で足だけが進む。
止まったら殺されると判断し死のマラソンが始まっていく。円形の盾は金属製のため重いが弱音吐いていられない。数メートル先では命のやりとりが何十という規模で行われているのだから。
「ハァハァ……くそ、本当にどうしたもんか」
言い慣れている愚痴も上手く出なく走り続けるとソウジの順番が回ってきてしまう。横から突然現れた男が何か言いながら斬りかかってきた瞬間に剣で受け止めるが一撃目で折れてしまう。
「くそぉおおおお!!」
相手は待ってくれない。再び斬りかかってこられたが武器はない。相手の装備はソウジより遥かに立派な甲冑と剣と盾まで揃っている。誰も助けてはくれない……残っているのは盾だけ。
グリップを力強く握り振り下ろされた剣を受け止めると重い。何度も盾の上から叩かれ腕と肩の骨が痛めつけられ腰まで落とされていく。
「おい、嘘だろ」
それは死への予感だった。名前も知らない甲冑の男に殺されていく予感に恐怖で言葉が出ない。思う事は「死にたくない」の一点。盾で防ぎながら相手を観察する事しか出来ない。
何度も何度も叩かれ続けていくとタイミングが少しづつわかってきた。怯える体に気合を入れ相手が剣を振り上げる瞬間を待つ。
「……糞ったれが」
数秒にも満たない瞬間に自分の命を賭ける事に唾を吐きたくなり待つ。振り下ろした瞬間に盾を全力で横から薙ぎ払うと相手の剣は大きく弾かれていく。大きな隙を作る事に成功したが攻撃手段の剣は折れている。
ならばと一瞬で捻り出した答えは盾での攻撃。仰け反っている相手の頭部めがけ鋼鉄の盾を振り抜くと鈍い金属音と共に頭がおかしな方向に曲がっていく。
「ハァハァ、やっちまった」
血の混じった泡が兜の隙間から流れ出しているのを確認すると殺しの烙印を推されてしまう。罪の意識で涙が出そうになったが次の瞬間に吹き飛ぶ。上から降ってきた死体が転がり先を見るとシゼルが暴れていた。
敵の中心に突っ込む大剣を振り回してる姿が迷っていれば殺されると知らせソウジを動かす。剣を失い死体から立派な剣を拾い上げようと瞬間に迷う。
「剣なんて扱えねぇよな……なら」
剣ではなく盾を拾い上げ残った片手に装着すると不思議な戦士が出来上がる。両手に盾を装備した老兵。




