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準備完了


「おーい、領主様。頼まれた通りにお役人さんの屋根を作ってきてやったぞ」


 陣の作成をしていると、ローグとギレムが戻ってきた。


 見届け人であるレベッカが過ごしやすいように指示をしたのだが、もう終わらせてきたようだ。


 簡易的な屋根作りとはいえ相変わらず作業が早い。


 小さな模型を持っていって拡大スキルでも使ったんじゃないかと思うような早さだ。


「ありがとう。ローグとギレムは吊り橋の設置に戻ってくれ」


「わかった」


 そのように頼むと、ローグとギレムは吊り橋作業に戻る。


 疑似戦争の陣の作成では、まずリオネとジュノとセトに土魔法で地面を沈めてもらった。


 後はオークキングとの戦いのように、そこに俺のスキルをかけただけ。


 深さを一気に拡大してやり、俺たちの陣を囲むように堀を作成したのだ。


 さすがに魔力やスキルの消費具合で一気にというわけにはいかない。


 今日作り上げたのは前面 部分だけだ。後ろ部分は変わらずに平坦。


 しかし、準備期間には四日もの時間がある。


 リオネたちの魔力が回復した明日に、後ろ部分を沈めてやればいいだろう。


 今回の戦いでは戦力が二倍もあるのだ。その上に向こうは豊富な資金で有名な傭兵や冒険者を雇っている。


 まともに戦っては勝ち目がない。なので、陣の周囲に深い堀を築き、吊り橋を二つかけることで敵の侵入経路を制限するのだ。


 いくら人数差があろうとも一度に侵入できる数に制限があれば、数の利も生かせない。


 前面による堀の作成が終わると、今度は陣地の中央部分に石造りの模型を設置してもらう。


 ただの小さな土管のように思えるが、これは疑似戦争が始まる前に用意していた俺たちの陣だ。


 こうして事前にコンパクトなサイズで作り上げることによって、当日設置して拡大するだけで速やかに作り上げることができるのだ。


 拡大して作り上げたのは縦に長い塔のような要塞。


 これは前世にもあった要塞の高射砲塔を参考にしている。


 材質はほとんどが石造りなので遠くから魔法を当てられた程度ではビクともしない。


 後に内側から硬度を補強するつもりだし、俺も拡大スキルで硬度を引き上げる予定だ。


 俺たちの陣は見た目以上の硬度を誇っているので敵も驚くだろうな。


「事前に聞かされてはいましたが、こうして一瞬で堅牢な陣が出来上がると驚きますね。さっき頂上から敵陣を眺めてきやしたが、向こうは大慌てでしたよ」


 拡大した要塞を見上げているとグレッグがやってきて愉快そうに笑った。


「それはいい眺めだね。俺も休憩時間に登ってみようかな」


 開戦前からずっとニヤニヤとしながら眺めてきたり、あからさまな挑発の言葉を飛ばしてきた奴等もいた。


 そうした奴等が俺たちの要塞を見て、慌てて奮起する様子は爽快そうだ。


「正直、この要塞を攻めることになるライアンたちが可哀想でならないですよ。何せ防壁を突破しても……」


「……それ以上は大きな声で言わない方がいい。さっき上から見ていたら、敵の人間がこっちの陣地ギリギリまで斥候を出していたから」


 グレッグが話そうとしたところを止めたのはリュゼだ。


 どうやら彼女は不審な輩が寄ってこないか警戒していてくれたらしい。


「マジか。すみません、つい楽しくなって浮かれちまいやした。他の奴等にも大声で騒がないように注意しておきます」


 リュゼの忠告を聞くと、グレッグは緩ませていた表情をすぐに引き締めて要塞の中に入っていった。


 こういうところの切り替えがスムーズなのが実にグレッグらしい。


「敵陣の様子はどうだった?」


 グレッグに尋ねようと思ったのだが、作業に戻ってしまったために改めてリュゼに尋ねる。


「……魔法使いが必死になって石を積み上げている。最初よりも明らかにペースを上げて、陣作りに力を入れている」


「もう少し油断させて陣の設置を緩めた方がよかったかな?」


「……私たちの戦略は守りに徹するもの。堅実に守りを固めればそれでいい」


「それもそうだね」


 敵を意識して俺たちの準備時間が減ってこちらも苦しくなっては意味がない。


 速やかに組み上げることによって、守りを固めることができるのだ。こちらの利点を潰してまでやることではない。


「……それに向こうは明らかに無理をしている。このままのペースで行くと開戦に支障が出るレベル」


「あー、あちらの領主はプライドが高そうだからね」


 明らかにこちらのことを下に見ているノルヴィスは、ビッグスモール領よりも貧弱な陣になってしまうことに耐えられないのだろうな。


「相手の陣が強固になるのは厄介だけど、それだけ相手が消耗するなら問題ないね」


 俺たちの戦術は基本的に攻めるのでなく、守りだからな。


 堅実に強固な守りを作り上げていこう。


「……こういう建物を見ると故郷を思い出す」


「リュゼの故郷ではこういう民家が一般的だったのかい?」


「……大きな樹木を切り抜いてそこで生活していた。材質は違うけどこんな感じ」


 そのような生活をしていたのか。木の中に住むってなんかファンタジックでいいな。


「よかったら。木を拡大して故郷のような家を作ってみようか?」


 ビッグスモール領の中にはリュゼの思うような大木はないかもしれないが、俺がスキルで拡大してやれば、同じような家を再現できるはずだ。


「……街の中に作る必要はないけど、森にそんなところを作ってくれると嬉しい。気分転換に休憩できる」


 そのように提案すると、リュゼは控えめながらも嬉しそうに笑った。


 表情の乏しい彼女の中で一番の笑顔だった気がする。


 顔立ちが整っているリュゼが微笑むと威力は倍増だな。


 それだけ親しみのあった住処を作ってもらえるのは嬉しかったのだろうか。そうだとしたら俺も嬉しい。


「わかった。疑似戦争が終わってひと段落ついたら作るよ」


「……だったら、早く終わらせる」


 新しい休憩所が早く欲しいのか、リュゼは表情を引き締めて要塞の中に戻った。


「さて、俺もやれることをやっておこうか」


 防壁の拡大、要塞の強化、吊り橋の設置、堀作りなどなど。まだまだやることはたくさんある。俺は準備期間の間、陣のあちこちを動き回って準備に邁進した。




 そして、準備期間を終えた五日目。俺たちの疑似戦争が始まる。





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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤバいな戦いが始まる前に終わってるwww
[良い点] これが本当のつり橋効果★ってヤツかな?
[一言] 敵さんがボコられる未来しか見えない。w
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