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採掘権

『転生貴族の万能開拓』の書籍2巻が5月6日に発売です。

店頭には4月30日に並ぶかと思います。

Amazonで予約できますのでよろしくお願いします。



「……ノクト様」


「アルトン、マルゴ、バッツ……」


 壮年の男性の後ろには見覚えのある若い男性たちがいた。


 その三人の採掘人は俺の顔を見るなり気まずそうにしている。


「ノクトの知り合い?」


 俺が名前を呼んだからか、隣にいるベルデナが尋ねてくる。


「前に住んでくれていた領民たちさ」


 正確にはメトロ鉱山の採掘をしてくれた採掘人たちだ。


 そりゃ、そうだ。ビッグスモール領から逃げ出して一番に繁栄しているのは隣領だ。


 そちらに移住をした元領民がいたとしてもおかしくないだろう。


「ノクトとメアを置いて逃げた人たちだね! 許せない!」


 俺がそのように説明すると、ベルデナが怒りを露わにする。


 ベルデナの怒気を当てられた彼らは、気まずさもあってかかなり委縮していた。


 ベルデナは領民としては初期組だ。どうして領地に領民が少ないのか、俺たちが苦労しているのか知ってくれている。だからこそ、怒りも大きいのだろう。


「あの時は領地としての破綻が目に見えていた。彼らの行動を咎めることはできないよ。領主として俺が不甲斐なかっただけさ」


「それでも頑張ろうとしていたノクトやメアだけを置いて――」


「ベルデナ、もういいんだ」


 なおも非難の言葉を吐こうとするベルデナを俺は止めた。


 それ以上の言葉をぶつけても誰も幸せにならない。


 元領民であった彼らも罪悪感を抱いているのか俯いている。


 これ以上言葉をかけても彼らが戻ってくるわけでもないし、そう簡単に戻れるような状況でもない。


「三人ともそっちの領地では生活はできているか?」


「はい、なんとか……」


「そうか。それならよかったよ」


 知り合いだとは思えないようなよそよそしい会話だ。


 でも、それでもいい。彼らが新しい場所でちゃんと暮らせているのであればそれだけで満足だ。


 最初に彼らを見た時は、少しの怒りや悲しみといった感情が湧いていた。


 だけど、俺よりも強い感情をぶつけてくれたベルデナのお陰で大分冷静になれた。


「……おいおい、こりゃマナタイトじゃねえか!」


 どこか気まずい空気が漂う中、採掘人のリーダーが壁にあるマナタイトに気付いた。


 そりゃ、そうだ。これだけ通路を明るく照らしているんだしな。


「まさかこんな所に大量にあるなんてよぉ!」


 しかも、どうやらマナタイトについては相手側も知っているようだ。


 その口ぶりからすると、ハードレット領側の鉱山ではマナタイトが僅かに採れるのかもしれない。


 そんな彼がここまでの驚きの声を上げるということは、ここはマナタイトの豊富な採掘場らしい。


「厄介なことになりやしたね」


「まったくだ」


 ここは領地の中間地点。そこで貴重なマナタイトが産出された。


 マナタイトほどの貴重な資源をハードレット家がみすみす逃すわけがない。


 ここで先に見つけたからなどと主張しても、相手は黙っているはずはないだろう。


「ひとまず、ここのマナタイトについては互いに情報を持ち帰るだけにしないか? ここがどの領地の採掘場なのかハッキリさせてからでないと問題になる」


「いや、でもここは――」


「領主でもない君にそれが断定できるのか? これは領主と領主の問題だ。君が出しゃばってもいい結果にはならない。証拠品として少量を渡すからそれで満足しておけ」


 大量のマナタイトを前にしてリーダーが渋るので、少し強めの言葉で脅す。


 あまり身分で脅すような言い方はしたくないが、この問題は現場の判断だけでしていいものではない。


 資源の取り合いで険悪になったり、戦争になるというのは今世でもよくあることだ。


 面倒ないざこざを起こす前に、さっさと話し合う方が互いに傷もない。


「……わかりました」


 さすがに領主同士の問題になると、手に負えないと思ったのか目の前の男性も引き下がってくれた。


「これがここで採れたマナタイトだ」


「助かります」


 とりあえず、採掘人のリーダーである彼にマナタイトを三つほど渡しておく。


 マナタイトの採掘場がありましたと報告しても、現物がなければ彼も報告のしようも信憑性もないだろうしな。


 現物資料がないと苦労するのは前世で痛いほど味わったし。


「今日はこの辺りで戻ることにしよう」


「そうですね。俺たちもそうさせてもらいます」


 互いに現場に残っても揉め合いにしかならない。


 採掘道具を片付けて引き返すと、相手も同じように来た道を引き返した。


 チラリと後ろを確認すると元領民たちも同じようにこちらを見ていた。


 ただでさえ、隣領地は有力貴族の治める土地だ。それでありながら元領民たちも住んでいるとなるととやりづらいことこの上ないな。


 これから間違いなく起きるであろう問題を考えると、頭が痛くなる思いであった。




 ◆




 メトロ鉱山から帰還した四日後。


「ノクト様、先ほどハードレット家の使者の方からお手紙が……」


「もう返事が来たのか」


 デミオ鉱山から帰還して屋敷に戻った俺は、すぐにハードレット家に手紙を書いた。


 内容はメトロ鉱山のマナタイトの件だ。


 互いの領地の中間地点にあるマナタイトの採掘権について話し合うために。


「今回はいつになく反応が早かったですね」


「マナタイトによる利益はハードレット家にも見過ごせない問題なんだろうね」


 手紙を渡してくれたメアの顔は実に不満げだ。無理もない。


 正直、ビッグスモール領に住んでいた者でハードレット家にいい印象を抱いている人は少ないと思

う。


 大森林は強力な魔物が跋扈する場所であり、そこに面しているビッグスモール領はいつもその被害に悩まされていた。


 父さんや兄さんはハードレット家に何度か救援要請を出したことがある。


 過酷な開拓地に面している場合は、領主同士助け合うのが暗黙のルールだ。


 しかし、ハードレット家は具体的な戦力を出したことは一度もなく、最低限の物資だけを送り付けるだけであった。しかも、その物資すらも送ってくれないことも多かった。


 そのようなことをすれば、あっという間に社交界などで噂が広まり、他の貴族たちから良く思われなくなるもの。


 しかし、生憎とビッグスモール家の人間は社交界などに出る暇もなく、相手の立ち回りも上手かったためにそのようなことになることもなかった。


 ハードレット領からすれば、ビッグスモール領は大森林からの魔物を防ぐ、実に都合のいい防波堤だろう。


 これでいい感情を抱けというのが無理だ。


 正直、俺もハードレット家のことは好ましく思っておらず、できるだけ関わりたくない。


 しかし、マナタイトの産出における利潤は領地の運命を左右するほどのものであり、関りたくないなどと言っている場合ではなかった。


 しっかりとビッグスモール領の発展のためにも話し合う必要がある。


 普段はこちらから手紙を出しても知らぬ存ぜぬをしているハードレットだが、マナタイトの件にしては異例の動きの早さを見せている。


 それだけあちらにとってもマナタイトの採掘権は重要ということなのだろう。


 メアから手紙を受け取った俺はペーパーナイフを使って丁寧に封を開けて、中に入っている手紙に目を通した。


「いかがでした?」


「……明日の昼にハードレット家の屋敷で話し合いをしようだとさ」


 長々と形式ばった文章が書かれているが、簡単にまとめるとそのような内容だった。


「明日ですか!? いくら隣領で身分に差があるとはいえ、ノクト様にあまりに失礼です!」


「確かに軽く見られているね」


 ハードレット家の位は辺境伯爵。大してビッグスモール家は男爵の位だ。


 ハードレット家がこちらを呼びつけることに文句はないが、こちらも同じ貴族であり領主だ。


 身分差があれど、こちらの日程も尋ねずに明日に来いというのはあまりに失礼な話である。


 メアが憤るのも無理はない。


 とはいえ、ハードレット家が失礼なのは今に始まったことではない。


 このような対応を予期していたので、ここのところはスケジュールも緩めていた。


 前からそういうことをしてくる領主だと知っているので、特に取り乱すことはない。


「とにかく、交渉の段取りが決まって良かった。明日に向けて準備をすることにするよ」


 馬車の用意、護衛の選定、揃えておくべき資料とやることはたくさんあるからね。








コミカライズもうすぐ始まります。

今少しお待ちくださいませ。

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[良い点] 書籍2巻発売!コミカライズ決定! コミックの作家が当たり作家なら両方買おうと思います。 原作を一話から読ませていただいておりますが一定水準の面白さがあるので期待大です。 [一言] ★★★5…
[気になる点] 口封じに始末して、魔物にやられたように偽装しちゃえばよかったのでは?
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