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坑道での遭遇

『異世界ではじめる二拠点生活』の書籍1巻が発売されました。TSUTAYA、アニメイト、メロンブックス様で買うと特典小説もあるのでお得です。

小説には書き下ろしが三万文字以上あります。何卒よろしくお願いします。


 休憩も兼ねて昼食を食べ終わった俺は、本来の目的である採掘地点の調査を行うことにした。


「ベルデナ、畑を耕す時と一緒だからな? ちゃんと加減するんだぞ?」


「わかってるよ!」


 ベルデナが調査のためにツルハシを手にするが、俺としてはちょっと不安だ。


 何せここは鉱山。ベルデナのパワーで思いっきりツルハシを振り下ろせば、一発で壁が崩壊するかもしれない。


 いざという時は即座に縮小スキルで穴を塞げるように待機しておく。


 ベルデナがツルハシを持ち上げて壁に打ち付ける。


 すると、ツルハシと岩がぶつかる硬質な音が響き渡った。


 普通に削れているようで一気に穴が空いたりはしていない。


「ほら、大丈夫でしょ?」


 ベルデナが振り返ってどや顔をした瞬間、採掘した壁がガラッと崩れ落ちた。


 畑の時のようにクレーターができたり、さっきのように地面が割れるようなことはなかったが少々ヒヤリとした。


「……もうちょっと加減したら大丈夫だよ、きっと」


「本当に頼むよ?」


 さすがに鉱山の中で生き埋めにはなりたくない。


 しばらくベルデナを見守っていると、次第に普通に採掘できるようになったのでひとまず安心する。これなら大丈夫だろう。


 ベルデナの方が大丈夫っぽいので、俺も自らツルハシを手にして移動。


 少し離れたにある採掘地点を掘ってみる。


 すると、壁の中から灰色の石や漆黒の石が出てきた。


 これらの鉱石は以前も領地で輸出するのを見たことがある。


 鉄鉱石や黒鉱石だ。それらの鉱物は主に武具から、家庭用のフライパンや鍋なんかにも利用される。硬度もあって熱にもある程度強いので非常に使い勝手がいい。


「うん、資料に描かれている通りの鉱物が採れるみたいだな」


 他にも細々とした鉱石が採掘されるが、概ね資料通りにものだ。


「ベルデナ、そっちはどうだい?」


「灰色の石や黒い石がいっぱい出てくるよ」


 ベルデナの方に戻って声をかけると、こちらでも同じように採掘されていた。


「こっちの方では銀も少し出てきましたよ」


「こっちは赤鉄鉱が出てきました」


 鉱石を資料と照らし合わせているとリオネやグレッグ、団員たちが採掘した鉱物を持ち寄ってくる。


「どうやらまだまだ鉱脈はあるみたいだね」


「そうですね。掘れば掘るだけ出てくるような感じです」


 鉱物資源の枯渇なんかも心配していたが、短時間でこれだけの採掘量を見る限り、その心配はいらなさそうだな。


「よし、この調子で他の場所も調査していこう」




 ◆




「ノクトー! こっちの方ですごい綺麗な石が出てきたよ!」


 採掘地点から採れる鉱石を確認し続けていると、ベルデナがやけにテンションが高そうに言ってきた。


 綺麗な色をした石? 宝石のことだろうか?


 メトロ鉱山では宝石や水晶も発掘される。しかし、この資料ではこの辺りにそのようなものが採れるとの記述はない。もしかして、新しい鉱脈にでも当たったのだろうか。


 そうだとしたら大変嬉しいことである。


「わかった。見に行くよ」


 作業をひとまず中断して俺はベルデナに付いていく。


 しかし、歩けど歩けど中々ベルデナの言う綺麗な石とやらにお目にかかることができない。


「……ベルデナ、綺麗な石はどこにあるんだ?」


「えーっと、もうちょっと奥だよ」


 この反応を見る限り、かなり奥のような気がする。


 というか、この先には地図にも採掘地点があるとは記されていない。


 彼女は好奇心を発揮して随分と奥まで進んで採掘したようだ。


「これ以上はグレッグたちと距離が離れ過ぎることになる。一旦、皆と合流してから行こう」


「わかった」


 ひとまず、やってきた道を引き返してグレッグやリオネ、団員たちを招集。


 ベルデナが奥で地図や資料にもない採掘ポイントを発見したっぽいことを説明し、確認しに皆で移動することに。


 今度は全員でベルデナに付いていく。


 いくつもの道を曲がって奥へ奥へ。ベルデナの案内する先はかなり入り組んだ道をしており、道幅も少し狭いな。


「……結構、複雑な道をしているけどよく覚えられたわね」


「そう? 一度通った道なんだから忘れないよ?」


 野生の感覚とでも言うのだろうか。ベルデナにとってはこの程度道は複雑でもないようだ。


 それもそうか。元は広大な山の中で暮らしていた彼女だ。


 四方を木々に囲まれていた山で暮らしていた彼女にとって、この程度の道は複雑でもないんだろうな。


 俺だったら絶対に迷う自信があるや。


「にしても、大丈夫かな?」


「大丈夫だってノクト! 帰り道はちゃんと覚えているから!」


 俺の呟きで誤解したのかベルデナが唇を尖らせながら言う。


「いや、違うんだ。この鉱山はうちの領地とハードレット領に横たわるようにしてあるんだ。あまり奥に進み過ぎると……」


「隣領に入ってしまう可能性があるわけですかい?」


「そういうこと」


 俺が懸念したいたことをグレッグが言ってくれたので頷く。


「大丈夫だよ、ノクト! もう、着いたから!」


 ベルデナのそんな明るい声を聞くと、ちょっとした広めの通路に出てきた。


「うわあ、綺麗……」


 通路の光景を見た瞬間に、リオネの口から感嘆の声が漏れる。


 俺たちのやってきた通路の壁には、淡い青色の光が灯っている。


 思わず近づいて確認してみると、空色のグラデーションがかった鉱石のように見えた。


「……見たところ光石ではないね」


 光石とはまた違った幻想的な光だ。


 正直、俺の知識では鉱石なのか宝石なのかよくわからない。


 しかし、とても綺麗な色と光を宿している。


 それが壁のいくつもの場所に埋まっているので、天然のイルミネーションのようになっていた。


「……これ、もしかするとマナタイトかもしれません」


 幻想的な光景に見惚れていると、リオネがそんなことを呟く。


「それって魔力の親和性や伝導率がとても高い鉱石のことか?」


 マナタイトという言葉は聞いたことがある。


「はい、魔力との相性がとてもいい鉱石で、マナタイトを使った武具なんかはとても魔力の馴染みがいいんですよ。杖の材料にすれば魔法に威力が向上し、剣にすればとても丈夫で切れ味が増し、時には魔法を放つこともできます」


「確かにこれはマナタイトかもしれませんね。俺も知り合いの冒険者が使っていたので見覚えがあります。それを材料にした武器は綺麗な空色をしていましたから」


「まさか、そんなすごいものが採掘できるなんて知らなかったよ」


 リオネやグレッグの言葉を聞いた俺は驚愕する。


 マナタイトは産出量も少ない貴重な資源だ。それが採掘できるとなると莫大な利益が見込める。それだけでなくマナタイトによる武具が生産できて、領地の戦力も向上するだろう。


 たとえ、それが少量であっても俺の拡大スキルを使えば、とんでもない量になるに違いない。


 なにせ良質な欠片さえあれば、拡大することができるのだから。


「ノクト、前から人の気配がする!」


 そんなことを考えていたがベルデナの声で現実に引き戻された。


 そして、その情報に戸惑う。


「魔物じゃないのか?」


「うん、魔物じゃない。人だよ!」


 念のために確認するとベルデナから力強い断言が返ってきた。


 ビッグスモール領からやってきた人間は俺たちしかいない。他に誰かがついてきているというのもあり得ないし、洞窟の奥の方からやってくるというのも不自然だ。


「こんなところを盗賊が根城にしているなんて聞いたことがありませんね」


 グレッグの言う通り、メトロ鉱山に盗賊なんて聞いたことがない。


 というか、このように魔物が徘徊していてはおちおちと休むこともできないだろう。


「とにかく警戒だけはしておいて様子見をしよう」


 万が一、盗賊なんかでなければ大変なことになる。


 とはいえ、向こうも攻撃しようと近づいている可能性はあるので警戒は最大限だ。


 こちらから動くことなく待ち構えていると、前方からコツコツと足音が響く。


 それに微かに話し声らしくものも聞こえてきた。


「この辺りってビッグスモール領との境界線だろう? 採掘しにきていいのか?」


「別にいいだろう。境界線ってだけで採掘しちゃいけないってわけじゃねえしな」


 などと呑気な会話をしていることから、相手がこちらに気付いている様子はない。


 その会話の内容からして、もしかするとハードレット領の採掘人なのかもしれないな。


「そちらにいる者たち。害意がないのであれば所属を明かせ」


 牽制の意味も込めて声を上げると、前方から途端に慌てた気配がした。


 こちらが先にここにいたのだ。下手に出てやる必要はない。


「お、俺たちはハードレット領の採掘人だ! 害意はねえ! そっちはどうなんだ?」


「俺はノクト=ビッグスモール。ビッグスモール領の領主だ。メトロ鉱山の調査のために仲間と伴ってやってきている」


「隣領の領主様だって!?」


 こちらも名乗りを上げるとリーダーらしき壮年の男性が驚いた声を上げた。


 このような鉱山の奥に領主がいるとは思わないだろうしな。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 少しずつだけど、着実に話の展開が動いていく点。 話の展開をこれ以上スピィーディーにすると開拓物語じゃなく単なるサクセスストーリーになってしまうので、話の展開の勧め具合のさじ加減が秀逸な辺り…
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