坑道での戦闘
3月29日にはAランク冒険者のスローライフのコミック4巻が発売です。よろしくお願いします。
アイアントと遭遇した後は、進むにつれてちょくちょくと魔物と遭遇することになった。
現在は十字路の地点でゲイブバットという蝙蝠型の魔物と交戦中だ。
「ちっ、ふわりふわりと飛び回りやがって面倒だな!」
グレッグや団員が連携をとって相手しているが、相手は翼を活かしてその攻撃範囲から逃れているようだ。
「あたしが天井の土を少し落とすから、その隙に斬りこんで」
「わかった!」
これにはリオネが加勢することに決めたようだ。
彼女が杖を振るうとゲイブバットの真上にある少量の土が落ちる。
これにはゲイブバットも驚いて、落下してくる土から逃れるように低空を飛行。
そこを逃さずグレッグや団員が突撃し、ゲイブバットを切り裂いた。
「あっ、外した!」
「なにやってんだ!」
「すみません!」
これで仕留めきれたかのように思ったが、一人の団員が攻撃を外してしまったようだ。
まあ、まだ彼らは経験も少ないみたいだし大目に見てあげるべきだろう。
「気にするな。失敗しても皆でカバーする」
「はい!」
勿論、失敗は咎めるべきであるが、それは本人がよくわかっているだろう。
失敗した彼が委縮しないように励まし言葉をかける。
「ノクト! 右と左から蜘蛛みたいな奴が二体ずつきてる!」
すると、またしてもベルデナから魔物がきているとの情報が。
やはり奥に進むにつれて魔物が増えているようだ。
今までであれば主要な道に魔物がやってこないはずだが、採掘人がいなくなって活動範囲を広げたのだろうな。
蜘蛛のような魔物というと、恐らくマッドスパイダーであろう。
「右の二体はベルデナに任せる。左は俺がやるよ」
「わかった!」
グレッグやリオネたちは前方にいるゲイブバットの群れに忙しい。
ここれは俺とベルデナで対処して速やかに殲滅するべきだろう。
左の通路に向かうと、その先には紫色の体表をした大きなマッドスパイダーがいた。
僅かな光石に照らされる中、赤い複眼が不気味に輝いている。
マッドスパイダーたちは八つの脚を巧みに使って、シャカシャカと近づいてくる。
蜘蛛はあまり得意ではないので寒気がするような光景ではあるが、ビビッてはいられない。
鞘から引き抜いた剣を構えて手前側にいるマッドスパイダーに剣先を合わせる。
「拡大」
剣に拡大をほどこすと、刀身が射出されるような勢いで伸びてマッドスパイダーを貫いた。
串刺しにされたマッドスパイダーは緑色の血液をまき散らして、ぐったりと倒れた。
そのまま伸びた刀身をもう一体のマッドスパイダーに寄せるように持っていく。
「まあ、さすがに当たらないか……」
すると、相手は跳躍することで伸びた刃を回避。それと同時にこちらに飛び掛かってきた。
俺は瞬時に剣に縮小をかけて刀身を元のサイズに戻す。その勢いで突き刺さっていた刃も抜けて、俺は空中を飛んでいるマッドスパイダーをそのまま縦に切り裂いた。
真っ二つの体がドサリと地面に落ちる。
「お見事」
ゲイブバットの群れは片付いたのか、後ろではグレッグが労いの言葉をかけてくれた。
「ありがとう」
「すみません、領主様。俺のせいでお手を煩わせて」
礼を言うと、頭にこぶを作った団員が泣きべそをかきながら謝ってくる。
ゲイブバットへの攻撃を外した団員だ。
「次は攻撃を外さないように頑張ってくれ」
「うう、領主様は優しい」
彼にはきちんと叱ってくれる人が傍にいるからな。
俺まで責め立てる意味はそこまでないだろう。次は失敗しないように頑張ってほしい。
「ノクトー! こっちも片付いたよ!」
「ああ、ご苦労様」
ベルデナの方を見ると、地面で潰れているマッドスパイダーが二体いた。まるで、ケースに収められる昆虫標本のようだな。
「ちゃんと加減もできて偉いな」
「うん! 今度は地面を割らなかった!」
普通は拳で地面を割るなんて無理だと思うんだけど、そこには突っ込まないでおこう。
◆
十字路で戦った魔物の素材をいくつか回収した俺たちは、そのまま地図の通りに坑道を進む。
「ねえ、ノクト。まだ目的の場所につかないの?」
長い坑道の調査に少しの飽きと焦れったさが出たのか、前を歩くベルデナはそのように尋ねてくる。
「いや、もうすぐだよ。ほら、この道の先に開けた場所があるだろ?」
「本当だ!」
そんな風に話している間に、ちょうど先が見えた。
その先は開けた採掘地点になっており、俺たちの目標地点の一つだ。
採掘地点では光石がしっかりと設置されているからか、ここからでも明るい光が見えている。目的地が見えると自然と皆の足が早くなるもので、駆け足気味になって向かう。
坑道を抜けると、そこは広々とした空間が広がっていた。どこか鍾乳洞を思わせるような雰囲気。
採掘をしていたからか様々な場所に光石が設置されており、補強するような足場があった。
広間の中は坑道よりも数段明るくて視界はハッキリしている。
「ここが以前採掘をしていた場所の一つだね。ひとまず、周囲に魔物がいないか確かめよう」
見たところ視界には魔物がいないが、近くに潜んでいるかもしれない。
それぞれが散らばって周囲の状況を確認してみる。
「こっちの方は魔物がいないよ」
「こっちも同じです。それらしい痕跡はありませんでした」
「そうか。なら、ひとまずは安全だね」
狭い坑道の中を警戒しながら進むのは神経が磨り減るからな。広々とした明るい場所で落ち着けることができるのは嬉しい。
「ねえ、ノクト。お腹が空いた~」
ホッとしているとベルデナがお腹を鳴らしながら言ってきた。
坑道の中にいるので時間の経過具合がわからないが、結構な時間が経過しているはずだ。
ベルデナにそう言われると、急に俺の胃袋も空腹を訴えてきた。
「そうだね。調査の前に休憩も兼ねて昼食にしようか。それでいいかな?」
「賛成です。実は俺も腹ペコでした」
「あたしも」
どうやらお腹が空いていたのは俺たちだけじゃなかったらしい。
満場一致で承認が得られたので、俺たちは昼食を食べることにした。
地面に座るための布を敷き、そこに全員で座るとそれぞれが食料を取り出す。
「ノクト、早く早く!」
「そんなに慌てなくてもお弁当は逃げないよ」
勿論、俺とベルデナの弁当は同じでメアから渡されている。
俺はリュックの中からバスケットを二つ取り出した。
「…………これが私たちのお弁当? 小さくない?」
バスケットの蓋を開けたベルデナが呆然とする。
中にはぎっしりとサンドイッチが入っている。様々な具材が入っており、とても彩りが綺麗だ。
しかし、バスケットのサイズは子供用でとても大人が食べるには足りない。
特に普通の人よりも多く食べるベルデナでは間違いなく足りないだろう。
「そんなに絶望しないでくれよ。荷物にならないために小さくしているだけだから」
あまりにベルデナが悲しそうな顔をするので、俺はバスケットとサンドイッチに拡大をかける。
すると、バスケットがちょっとしたテーブルほどの大きさになった。当然そこに詰まっているサンドイッチもかなり大きくなっている。
「どうぞ」
「うわーい!」
ベルデナはサンドイッチを両手で掴んで頬張る。
「美味しいー!」
すかさず満面の笑みを浮かべるベルデナ。
その美味しそうな香りに釣られて、俺も自分のサンドイッチを手に取る。
サンドイッチとは思えぬずっしりとした重み。
パンの間には太いベーコンやレタス、チーズ、マスタードソースが入っている。
それを思いっきり頬張ると口の中でそれらの具材と混然となって広がった。
パンの風味と香ばしいベーコンの肉汁、濃厚なチーズ。そして、それらを優しく包み込んでくれる水気の多いシャキシャキレタス。
なんて贅沢で食べ応えのあるサンドイッチなのだろうか。
サンドイッチというのは片手で食べながら気楽に作業を平行できる料理でもあるが、これは両手で支えないと食べることができないくらいのサイズだ。
サンドイッチとしての意義がなくなっている気がするが、美味しいので気にしないことにしよう。
ベルデナと巨大サンドイッチを頬張っていると、ふと視線を感じた。
「「…………」」
チラリと視線を向けると、こちらを羨ましそうな顔で見る仲間が四人。
彼女らの手元を見ると、黒パンやビーフジャーキー、ドライフルーツと如何にも携帯食料といったものが並べられている。
そうだよな。普通は荷物にならず保存が効くように、そういった食材になるよな。
こんな豪勢な食事が食べられるのは気軽にサイズを変えられる俺のスキルがあってこそだ。
「……よかったら、皆も食べるか? サンドイッチはたくさんあるし」
「「ありがとうございます!」」
俺が勧めてあげると、グレッグやリオネたちが嬉しそうにサッドイッチに手を伸ばすのであった。




