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光石


 リオネの思わぬ特技に助けられた俺たちは、扉を破壊することなく、無事に小屋に入ることができた。


「うわっ、埃っぽい!」


 扉を開けると真っ先に小屋の中を漂っていた埃のお出迎えだ。


 一番に入ってしまったベルデナが咳き込む。


 扉を開けることによって気流が流れ込んでしまったせいだろう。


 一旦外に出て、こもっていた埃が外に流れるのを待ってから入った。


「よかった。道具はしっかりと残っているみたいだ」


 室内には採掘に必要なツルハシやスコップ、ブラシ、ヘルメット、ロープといった細々とした採掘道具が置かれていた。


「中は意外と広いですね」


「多分、休憩所も兼ねていたんだと思うよ」


 物置小屋にしては広く、休憩できるようにイスやテーブルなんかが置かれていた。


 ずっと鉱山の中にいては採掘人たちも気が休まらないだろうからな。


「使えそうな道具は持っていこう」


「そうさせてもらいます」


 そのように言うとグレッグをはじめとする皆が動き回って、使えそうな道具を確認していく。


 ツルハシは人数分持っているが、タガネやロックハンマーはあまり数を揃えていないしな。


 この辺りの採掘道具は借りていくことにしよう。


「ノクト! 光ってる石がある!」


 採掘道具を物色しているとベルデナが裾を引っ張ってくる。


 ベルデナが指さす方を見ると、箱の中で発光している石が積まれていた。


「これは光石だね」


「光石?」


「その名の通り光を放つ石さ。それがあれば暗いところでも明るくなるんだ。屋敷にもいくつか置いてあるんだけど気付かなかったかな?」


「……普通に蝋燭の光だと思ってた」


 まあ、さすがに光石を剥き出しで設置していたら見た目が悪いので、ランプのようなもので包んでいたりする。


「でも、この光る石があれば、夜になってもずっと明るくできるね!」


「そうしたいのは山々だけど結構貴重だからね。ここにたくさん置いてあるけど、暗い鉱山の中を照らすために使うものだから」


 一般家庭に普及できるだけの量はないので、それなりに貴重だ。


「じゃあ、ノクトがスキルで大きくすればどう?」


「……それは試したことがないね。気になるから少しやってみようか」


 他の皆も気になるのか、俺が光石を持って外に出ると付いてきた。


「拡大」


 光石を地面に置くと、俺はスキルをかける。


 すると、手の平くらいの大きさだった光石が小屋ぐらいの大きさになった。


 形が大きくなろうとも光石は変わらぬ光を放っている。


「わあ、明るいね」


「暗い夜でもこれ一つ置いてくれるだけで心強いですね」


「防壁門にも設置しておいてもらえると警備がしやすそうです」


 確かに街灯などがないビッグスモール領は夜になってしまうと真っ暗だ。


 田舎ということもあって、時折動物や鳥の声も聞こえてきて何とも不気味な雰囲気になる。


 領民が多く住んでいる中心地や、防衛の要である防壁門の辺りに設置するのはいいかもしれないな。


 このスキルがあれば、光石を大量に設置する必要もないし。


 しかし、大きさの割には光の強さが弱いな。


「光源を拡大」


 今度は大きさではなく、光の強さを拡大する。


 すると、ほのかな光を宿していた光石が強い光を放ち出す。


「うわあっ! 眩しい!」


 ベルデナだけでなく全員が思わず目を背けるような強さになってしまったので、俺は光源を少し縮小。


 すると、前世の蛍光灯くらいのちょうどいい灯りになった。


「目がチカチカするー」


 一番近くで見ていたベルデナはもろに強い光を間近で見てしまったようだ。


 堪らず瞼をくりくりと触っている。


「ごめん、ちょっと明るくし過ぎた」


「……ビックリしました。領主様のスキルって大きさ以外のものも変えられるんですね」


「まあね。こういった応用もできるのさ」


 リオネはまだ俺のスキルを目にする機会が少ないからか、単純に驚いているようだった。


「しかし、明るいですね。これ一つ置いておけば夜でも昼のようになる気がします」


「そこまでする気はないけど、さっき言ってくれた防壁門には設置するつもりではいるよ」


「ありがとうございます。大変助かります」


 そのように言うと、グレッグが深く頭を下げた。




 ◆




「縮小」


 小屋から拝借した光石や採掘道具に縮小スキルをかけた。


 小さくなったそれらを各々のカバンやリュックに収納していく。


 こうすれば大した荷物にもならず動き回ることができる。


 特に採掘道具なんかは結構重いからな。縮小して持ち歩くととても楽だ。


「さて、必要な道具の確認も済んだし鉱山に向かおうか」


「うん!」


 道具を豊富にしたところで俺たちは、小屋を出て鉱山の中に入る。


 資料を確認すると、この入り口から入るのが一番採掘ポイントに近いはずだ。


 鉱山の中はとても暗い。が、進んでいくと通間隔で壁に設置されている光石のお陰でほのかに明るくなっているのがわかった。


「狭くて薄暗いね」


 ベルデナの声が反響して坑道内に響き渡る。


「ああ、設置されている光石の数にも限りがあるからね。魔物の警戒は頼むよ、ベルデナ」


「任せて!」


 これだけ視界が悪いとどこに魔物が潜んでいるかわからないので、気配に敏感なベルデナに先頭を歩いてもらい、その後ろにグレッグ、俺、リオネという順番で歩く。


「わっ、ここだけ急に暗くなってる」


「設置されていた光石がなくなってしまったのか、それとも元々設置していなかったのか。不便だから一つ光石を置くことにするよ」


 リュックから光石を取り出すと、目の前にある壁がちょうど良く凹んだ。


 光石を壁に置きやすいようにリオネがやってくれたのだろう。


「ありがとう」


「いえいえ」


 礼を言ってから凹み部分に光石を設置。


 光石一個の光源だけでは頼りないので、少しサイズと光源を拡大する。


 すると、真っ暗だった坑道が大分明るくなった。


「これがあるだけで大分進むのが楽になりますね」


「数に限りがあるけれど、危ないと思ったところには設置していくよ」


 暗さというのはそれだけで脅威だ。


 しっかりと視認できれば神経をすり減らす必要もない。


 そうやって俺たちは坑道の中を進んでいく。


 コツコツと俺たちの足音が静かな坑道内に響く。


 通路は狭く、大人二人 が両手を広げられるかといったところだ。


 魔物と遭遇したら派手に動き回ることはできないだろう。


 魔物との遭遇は避けられないとは思うが乱戦のようにはなりたくないものだ。


「道が三つに分かれてるよ?」


 そんな風に考えていると前を歩いているベルデナが足を止めた。


「……ここは右の道だね」


「わかった」


 しっかりと地図で現在位置を把握して指示を出す。


 地図がないとこういう時にどこに進んでいいのか全くわからないので、本当にこういう資料があって助かった。なければ、ベルデナの勘を頼りに闇雲に進むところであった。


 きちんと地図を残すように指示してくれた父さんか兄さんに感謝である。


「前から魔物っぽい気配がする!」


 そのまましばらく進んでいると、ベルデナが魔物の気配をとらえた。


 俺だけでなくグレッグやリオネ、二人の団員がそれぞれ武器を構える。


「数はわかるか?」


「多分、三つ!」


「よし、ここで迎え撃とう」


 三体の魔物であれば十分に対処できる魔物だ。


 ちょうど今いる場所が開けているので、俺たちは前進することなく迎え撃つことにした。


 しばらく待っていると、ベルデナの言う通り前方から三つの影が見える。


 遠いので微かな輪郭しか見えないがサイズは小さいように思える。


 目を凝らしてジッと見ていると、壁に設置されている光石の光で姿が露わになった。


「アイアントか!」


 こちらに近寄っているのは灰色をした大きな蟻型の魔物だ。


 鉱山によく生息する魔物で鉄を捕食し、硬質化した体を持っているのが特徴だ。


 生半可な攻撃では通用しない体を持っており、機動性も高いので厄介だ。


「リオネ、魔法を頼む」


「はい、撃ちます!」


 頼む前に既に魔法を準備していたらしい


 地面の土が盛り上がって槍の形となる。


「アースジャベリン!」


 リオネが槍を振るうと完成した三つの槍が一直線にアイアントへと突き進む。


「拡大」


 空中を突き進む途中で拡大をかけてやると、槍は更に大きくなる。


 これには俊敏なアイアントも堪らず直撃。


 しかし、当たったのは二体で一体には躱されてしまった。


 本当なら躱せないくらいの大きさに拡大したかったが、あまりやり過ぎると崩落の可能性もあるからな。


 逃れた一体が機敏な動きで近づいてくる。


「ベルデナ、頼む」


「任せて!」


 ベルデナに素直に任せると、彼女はガントレットを打ち付けて走り出した。


「とりゃああああああっ!」


 そして、接近してくるアイアントを真上から拳で撃ち抜いた。


 巨人族の一撃にアイアントの背中がひしゃげ、あっという間に潰れた。


 そして、その衝撃はアイアントだけにとどまらず、地面にまで広がっていく。


「わわっ! なんか地面が割れそう!?」


「縮小、縮小、縮小!」


 これには俺も慌てて亀裂に縮小をかけていく。


 すると、蜘蛛の巣状に広がっていた亀裂はあっという間に小さくなった。


「危ねえ。今、別の意味で肝が冷えましたぜ」


 グレッグも大量の汗をかいていた。


 危うく地面が崩れるところだった。咄嗟にスキルをかけた俺の判断を褒めてほしい。


 ホッと息を吐いていると、グレッグと団員たちがストーンジャベリンに直撃したアイアントたちを調べにいく。


「そっちのアイアントはどうだい?」


「こっちも見事に一撃ですね」


「それならよかった」


 どうやら見事に魔物を倒すことができたようだ。


「ベルデナ、鉱山は外と違って崩れやすいから気を付けてくれ。ここで壁や天井なんかが崩れたら生き埋めになっちゃうからね」


「うー、難しいけど皆に迷惑をかけたくないし頑張る」


 そのように注意するとベルデナはしょんぼりと顔を俯かせる。


 とはいえ、ベルデナにも悪気はなかったし、一撃でアイアントを倒してくれたんだ。あまり責めるばかりというのも可哀想だな。


「でも、いい一撃だったよ」


「えへへ」


 軽く頭を撫でてあげると、ベルデナは俯かせていた顔を上げて笑った。


 ちょっと甘すぎるかもしれないが、彼女は今まで一人で生きてきたのだ。


 ゆっくりと色々なことを教えていってあげたい。


「しかし、俺たちの出番がなかったですね」


「手を出す暇もありませんでした」


「まあ、接近されることなく戦闘が終わるっていうのは良いことだから。でも、もしもの時は君たちも頼りにしてるよ」


「「は、はい!」」


 俺が聞いているとは思わなかったのだろう。団員の二人に声をかけると、彼らは姿勢を正して頷いた。






『異世界ではじめる二拠点生活』

3月30日に書籍1巻が発売です。

よろしくお願いします。


https://book1.adouzi.eu.org/n0995gk/

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[一言] 大きくして削って大きくして削って……たくさん取れる! しかも光を大きくすれば灯台みたいな使い方も……いやいらないか。
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