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ドラゴンの目撃情報


「うーん、お酒の手配はできたものの肝心の従業員はどうしたものか」


 ローグとギレムに酒場のことを念押しされたので、ひとまずピコにお酒を仕入れてもらうように頼むことができた。


 ローグとギレムの張り切りようからして、設計が済めばすぐに建築にとりかかるだろう。


 酒場が出来上がるのも時間の問題だ。


 早急に酒場のマスターと従業員を確保しなければいけない。


 メアに酒場を運営したい人がいるか、聞いてくれるように頼んだが志願者はいるだろうか。


 酒場なら夕方からの開店になるので、やってくれる人がいるかもしれないが、昼の仕事を終えて夜も働くとなると中々にきついものだ。


 今や大体ここに住んでいる領民のほとんどは己の役割を持っている。


 移民してくれた人の中にはようやくここの生活に慣れてきた人もいるだろうから、無理に勧誘したくはないな。


「いっそのことラエルに頼んで外から引っ張ってみるか?」


「……領主様、ちょっといい?」


「おおっ! びっくりした!」


 考え事しながら歩いていたので、突然すぐ傍から声をかけられて驚いた。


 声をかけてきたのはエルフ族のリュゼだ。


 エルフ族の中では珍しい旅人で、うちの領地を気に入ってくれたのか住んでくれている。


 この時間であれば採取か狩りに出ていることが多いのだが、どうしたのだろう?


「リュゼ、少し顔色が悪いけど大丈夫か?」


 表情の変化が乏しい彼女であるが、顔色が優れないのは俺でもわかった。


「……平気。それよりも相談したいことがある」


「わかった」


 もしかすると、相談したい内容が顔色の悪さと繋がっているのかもしれない。


 そんな予感がした俺はそれ以上尋ねることはせず、人気のない木の下に移動。


 ここなら周囲に誰もないし、相談内容を聞かれることもない。


「それでどうしたんだ?」


「……もしかすると、ドラゴンが襲ってくるかもしれない」


「なんだって!?」


 リュゼからもたらされた情報に俺は思わず驚きの声を上げる。


 ドラゴンといえば、魔物の中でもトップランクの危険度を誇る魔物だ。


 全ての攻撃や魔法を弾く頑丈な鱗に身を包み、巨大な翼をはためかせて空を飛ぶ。


 強靭な牙や爪は全てのもの切り裂き、口から吐かれる炎は鉱物すらも溶かす。


 出現すれば領地の力を総動員して立ち向かうべき魔物だ。


 そんな魔物が突如襲ってくるかもしれないと言われれば動揺してしまう。


「……森でいつも通り採取をしていたらドラゴンが飛んでいるのが見えた。山に降りていったから、あそこに巣を作ったのかもしれない。いずれ、この領地を襲ってくるかも」


 リュゼがそう言って、山の方を指し示す。


 それは以前ベルデナが住んでいた場所だ。


 あの辺りは巨人族であるベルデナが住んでいただけあって場所も開けている。


 大きな洞窟だってあるし、巨体を誇るドラゴンが巣にしてしまってもおかしくはない。


「それはワイバーンなんかじゃないんだな?」


 この異世界では空を飛ぶ魔物は割とたくさんいる。


 ワイバーンやホロホロ鳥を何倍も大きくしたトマホークといった鳥型もいる。


 パニックになったが故に、そういった形状の魔物と見間違えるといったことはたまにある。


 しかし、リュゼの冷静に首を横に振った。


「……間違いなくドラゴン。過去に何度か見たことがあるから見間違いじゃない」


 人間よりも何倍もの時間を生き、経験を積んできたリュゼがそう見間違うこともないか。


 一緒に森の調査や狩りにも行ったことがあるので、彼女の視力が桁外れにいいことも知っている。


 リュゼがそう言うのであれば、恐らく見間違いではないのだろう。


「くそ、大森林の魔物の次はドラゴンか……」


 ようやく領地に人がやってきてくれたというのに、ここにきてのドラゴンか。


 ついこの間にオークキングを倒したというのに、次々と降りかかる災難が嫌になる。


「……どうする?」


 舌打ちしたくなる衝動を堪えて深呼吸をする。


 俺がやるべきことは感情をさらけ出して、地団駄を踏むことではない。


 領主である以上、領地を守るためにやるべきことがある。


「ひとまず、ドラゴンが本当に巣を作ったのか確かめようと思う。自警団にもドラゴンを見かけたことを共有して、厳戒態勢をとってもらおう」


 話を聞く限り、リュゼは山に登ってドラゴンを目にしてはいない。


 まずはドラゴンが本当に山に巣を作ったのか、存在しているのか確かめないと。


 思考を整理する意味も兼ねてしっかりと言葉に出す。


 真っ先にやるべきことを口にすると、気持ちがスッと落ち着いた気がした。


「……調査には誰が向かう?」


「案内役としてリュゼとベルデナと俺かな」


 あくまで調査だ。戦闘を想定しているわけではないので少人数が望ましいだろう。


 リュゼはドラゴンの目撃者として勿論、斥候としても頼りになる。


 そして、ベルデナは山に一番精通していることや、単純に戦闘力としての期待もある。


 あまり彼女だけに負担を背負わせたくないが、いざとなればドラゴンに対抗できるのは彼女しかいないと思う。


 仮に大人数で向かってもドラゴンを刺激することになるし、それで勝てる存在でもないしな。


 後は候補としてグレッグやリオネたちいるが、彼らにはいざという時に自警団の指揮をとってもらいたい。


 仮にドラゴンと入れ違いになっても、彼らがいれば領民を逃がしてくれそうだ。


「……わかった、グレッグに伝えておく」


「頼んだ。それが終わったら準備して広場にやってきてくれ」


 俺がそう言うと、リュゼはしっかりと頷いて走り去った。


「さて、俺はベルデナに声をかけるか」


 俺もやるべきことをやらないとな。


 もしものことを考えると、時間がいくらあっても足りない。


 確かベルデナは畑づくりを教えてから、ずっとそれにハマっていたはずだ。


 今日も朝食の時には畑を耕しに行くと言っていた。


 俺は彼女がいるであろう空き地へと走り出した。




 ◆




 空き地方面にやってくると、そこには堂に入った姿勢で鍬を振るっているベルデナがいた。


 少し前まで空き地だったのに、いつの間にかしっかりとした畝がビッシリとできている。


 想像以上の数の畑が既に出来上がっていた。


 ベルデナは俺の気配に気付いたのか振り返る。


「ああっ、ノクト! もう来ちゃったの? できれば、もうちょっと畑を作ってから見せたかったなー」


 俺がやってくるなり少し悔しそうにするベルデナ。


「……いや、既に十分過ぎるくらいの畑ができているよ」


「ええ? 本当? えへへ」


 素直な感想を告げると、ベルデナが嬉しそうにする。


 だだっ広い空き地が一転して畑地になっている。一体、どんな速度で開墾していったのやら。


 苗や作物を植えてしまえば、領地でも有数の畑地になってくれそうだ。


「頑張ってくれてありがとう。その頑張りをたくさん褒めてあげたいところなんだけど、ちょっと今はそれどころじゃなくてね」


「……何かあったの?」


 俺の真剣な表情で察してくれたのか、ベルデナの柔らかな表情が引き締まった。


 周囲に誰もいないことを確認した俺は、ドラゴンが山で見かけられたことを説明する。


「あー! それってもしかしてアイツかも!」


 ドラゴンのことを聞いて、ベルデナが予想外な言葉を口から漏らした。


「ベルデナ、何か知っているのかい?」


「山に住んでいる時、ちょいちょい遠くで飛んでいたんだよね。たまに近づいてくるから岩とか投げて追い払っていたんだ」


「そうなのかい?」


「もしかしたら違うかもしれないけど、私が追い払ってた奴のような気がする! ずっと私の山を狙ってたし!」


 またしても、守護神ベルデナの伝説が出てきた。


 ドラゴンを岩で追い返すって……改めて巨人族のパワフルさはすごいと思った。


 父さんや兄さんが生きていた頃にドラゴンがやってきていたら、間違いなく領地経営はパンクしていただろう。


 しかし、過去に追い払うことができていたのか。


 ベルデナが元の姿になって戦ってもらえば、追い返すことができるかもしれない。


 その時はきっと大怪獣バトルが繰り広げられて、領地も無事で済むとは思えないけど。


 でも、またしても彼女にだけ負担をかけるのはどうなのか。


「うみゅっ!?」


 そんな風に心の中で葛藤していると、不意に両方の頬が手で挟み込まれた。


 視線を真っすぐに向けると、そこには悪戯が成功したかのような顔をしているベルデナがいた。


 俺の頬を突然手で挟み込んだのは彼女らしい。


「……ノクト、戦いになった時は、私にだけ負担をかけたくないって思ってるでしょ?」


 真っすぐとこちらの瞳を覗き込みながら言うベルデナ。


 どうしてバレたのだろう? メアといいベルデナといい女性というのは心を見透かすスキルでもあるんじゃないだろうか。


「あ、ああ。そうだよ」


「言ったじゃん。私にとってここは守りたい場所だって。だから、遠慮なんてしないで」


 そうだ。ベルデナはオークキングと戦う時もそう言って戦ってくれた。


 そんな彼女の決意を聞いておきながら、気を遣ってしまうなんて彼女の覚悟を蔑ろにしているようなものだ。


「ごめんよ、ベルデナ。もしもの時はお願いできるかい?」


「うん、任せて!」


 改めてお願いするとベルデナは、力強い言葉で頷いた。





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