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領地の賑わい


 行商人や他の村落の人々が買い付けにやってきてからしばらく。


 ビッグスモール領では季節に左右されることなく、様々な作物があるとの情報が広がったのか外からやってくる人が増えた。


 商店だけでなく、直接栽培している領民に交渉を持ちかけている者も見受けられるほどだ。


 うちの領民は多少作物を売ってしまっても、俺の拡大スキルによる食料の提供があるのでまったく痛手にはならない。基本的に取り引きはすべて利益になるだろうな。


 外からやってきた人には申し訳ないが、それはビッグスモール領で暮らすことのメリットということで勘弁してもらおう。


 ただ、全部の食料を売って俺のスキルによる提供だけを宛てにしないように注意はしてある。


 さすがに保障以外で領民のすべての食料事情を把握して、提供するような暇は俺にもない。


 元々の保障はきちんと自立できるようにするためのものだからな。そこをはき違えてもらっては困るので。


「すごい賑わいだ」


 宿屋を見てみると一階の食堂に人が入りきらなかったのか、外にもテーブルや席が設置されてお客が座っていた。


 そして、給仕にはハンナだけでなくククルアもいる。


 内気なククルアがあのような人前に出て給仕をしていることに俺は驚いた。


 かつてない程に忙しくなってしまいオリビアかハンナが増援を頼んだのか。


 それとも自発的に志願したのか詳しいことはわからない。


 だけど、人間が苦手で内向的だった彼女が、あのように勇気を出して前に進んだことがとても嬉しかった。


 ハンナに比べるとやや頼りない動きをしているが、周りの人たちがフォローすることで何とかやれているようだ。


 新しい看板娘に登場にお客さんたちの表情もどことなく和んでいるように見える。


 ハンナやククルアだけでなく、中にはオリビアやフェリシーだっている。


 既に彼女たちのファンだっているのだろうな。


「宿屋の宿泊状況については既に満室に近いらしく、これ以上人が増えると泊まれない者も出そうとの報告がきています」


「それはマズいね」


「溢れ出たお客様には、臨時で空き家に案内してもいいかとの打診がきています。料金については宿に泊まるものよりも安めの設定にするそうです」


 実際には空き家の方が部屋は広いのであるが、中心地から歩かせることになるし、食堂などの施設も併設されていない。


 お客に不便をかけることになるので、多少料金が浮いたと思わせる方が好印象だろう。


 この提案は宿屋の従業員として働いていたリバイとフェリシーのものかな? さすがだ。


「せっかく来てくれた人に野宿をさせるわけにもいかないしね。それでひとまず対処してもらおう」


「かしこまりました。ですが、これでは根本的な解決にはなりませんね」


 メアの言う通りだ。あくまでこれは一時しのぎであって何の解決になっていない。


 もう少し緩やかに流入が増えるのではないかと思っていたので、これは予想外だ。


 人の流れを見る限り、今後も増える可能性は高い。


 食堂まで設置しなくても、寝泊まりできる建物だけでも作っておくべきだ。


「ローグとギレムに頼んで宿の増設をやってもらうことにするよ」


「かしこまりました。私はリバイさんたちに先程のことも含めて伝えておきます」


「よろしく頼むよ」


 そう言うと、メアはササッと宿の中に入っていった。


 さて、俺はドワーフの二人のところに行って、急いで宿を増設するように頼むとしよう。




 ◆




 ローグとギレムの作業場にやってきた俺は早速宿の増設について頼んだ。


「おいおい、今なんつったよ領主様?」


「よう聞こえんかったのぉ?」


 すると、ローグとギレムがそのようなことを言う。


 二人とも鍛冶の手は止めているし、この距離での声が聞こえないはずがないのだが。


「宿の増設をお願いしたいんだ。食堂はなしでも構わないから早急に作ってほしい」


「「…………」」


 念のために同じ注文をすると、ローグとギレムが剣呑な雰囲気を漂わせた。


 顔がいかついおじさんなために怒気を滲ませるととても怖い。


「どうしたんだ? 二人とも? なんか怒ってないか?」


 二人の怒っている理由がわからず、率直に尋ねるとローグが深呼吸して言った。


「領主さんよぉ、なんか忘れてることがねえか?」


「忘れてること?」


 ローグとギレムと何か重要な約束をしたっけな? ローグとギレムには建築以外にも武器、家庭用の包丁などと多岐に渡って発注をしている。もしかして、その中に漏れがあったのだろうか。


 そういう細かいところはメアが管理してくれているので、今すぐに確認できないな。


 思い出せずどうしたものかと首を捻っていると、ギレムが酒瓶を足で転がした。


「あっ、酒場……」


 転がる酒瓶を見て俺は、二人が要求するものが何なのか思い出した。


「そうじゃ。ワシらの酒場はいつになったら作ってくれるんじゃ……ッ!」


 まるで血涙を流さんばかりの二人の抗議。


 前回、商店と宿の建築を頼んだ際に、俺は二人や領民のために酒場も作ると約束していた。


 優先順位が低いからすっかり後回しにしていた……なんて正直に言ったら殴られてしまいそうだ。


「絶対忘れてたじゃろ?」


 などと俺の心を見抜いたローグの言葉が飛んでくる。


「いや、そんなことはないよ。実は次に作ってもらう宿の一階は酒場にしてもらおうと考えていたんだ」


「「ホントか!?」」


 酒場にすると聞いて、ドロガンとギレムが前のめりになって叫ぶ。


 すごい大きな声で家全体が震えたのかと思った。


「本当だよ。今の宿は食堂が賑わっているけど、従業員の都合であまり夜は営業ができないからね。それを補うために新しく作る宿には酒場を入れてもらおうと思っていたんだ」


 事実、子供であるハンナを夜遅くまで働かせることはできないし、同様の理由でククルアもアウトな上にオリビアも早めに上がることが多い。


 リバイとフェリシーだけで酒場も回すなんて不可能だ。


 元々酒場をやる予定はないので完全に作りも大衆向けの食堂で酒も仕入れていない。


 増員して無理に酒場として機能させるよりも、新しく作った宿に酒場を作ってしまう方が住み分けもできて楽だろう。


 どうだ? 苦し紛れの言い訳ではあるが二人には通じるか?


 額に冷や汗を流しながらローグとギレムをジッと見つめる。


「なんじゃ、それならそうと早く言わんかい」


「危うく領主様をどつき回すところじゃったわい」


 すると、ローグとギレムは剣呑な空気を引っ込めて実に朗らかな笑みを浮かべた。


「あはは、説明が足りなくてごめんよ」


「まったくじゃ」


「ドワーフはせっかちじゃからの。領主様もその辺りは気を付けとくれ」 


 ガハハと陽気に笑い声を上げる二人。


 どうやら首の皮が一枚繋がったようだ。


 危ない、あのまま酒場を組み込まずに進めていたらボコボコにされていたかもしれない。


 咄嗟の考えとはいえナイス判断だ俺。


 思えばこの二人にはずっと負担をかけており、頑張ってもらっていた。


 彼らの働きに報いるためにも、いい加減に要望を叶えておかないとな。


「よーし、酒場も作っていいときたら気合いも入るってもんだ!」


「だな! さっさと設計図を描いて建てちまうぞ!」


 そうと決まれば行動するのが早いのがドワーフの二人。


 特に今回は大好きな酒場が設置できるとあって動きが凄まじく早い。


 さっきまで作りかけだったフライパンがあったけど、そっちの作業はいいのだろうか。


「詳しい場所の選定はメアに聞いてくれ」


「おう! 領主様もすぐに酒場が営業できるようにしておいてくれよ!」


「ああ、善処するよ」


 酒場である以上ある程度はお酒について精通しておかなければいけない。


 それでいて自身で営業ができる手腕とちょっとした料理の技術。


 普通の食堂とはちょっと条件が違って難しいけど、やってくれる人はいるかな?


 それでも釘を刺されてしまったからには探さないと。


「……とりあえず、ピコに相談してお酒を大量に仕入れられるように頼んでおこう」


 こうして俺は二人の作業場を後にした。





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[一言] あったなーそんな話。うん、忘れてたw
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