葉っぱのトランポリン
ハンナを誘うことに成功した俺は、そのままハンナを連れてガルムの家に歩いていく。
勿論、休憩中のハンナと遊ぶことはリバイとフェリシーに承諾を得ている。ついでにオリビアにも友人作りのことを話して許可を貰っているので問題はない。
ハンナの歩くペースに合わせながら進むと、程なくしてガルムの家に着いた。
今度は先程のように木陰で座っているのではなく、ガルムと一緒に畑の雑草を抜いているようだ。
「やあ、ククルア」
「あ! ノクト様!」
俺が声をかけると嬉しそうな声を上げて立ち上がったククルアであるが、傍にハンナがいるとわかると微妙そうな顔になった。
「これから少し面白い遊びをしようと思うんだけど一緒にどうだい?」
「面白い遊び? そっちの子も一緒?」
「そっちの子じゃなくてハンナだよ! ククルアちゃん!」
「う、うん」
ハンナの明るい言葉に思わずたじろぐククルア。
良く知らないハンナが傍にいたので戸惑っているようだ。
それを理解しつつも俺は再び誘いの言葉を投げかける。
「どうだい?」
「う、うーん、やっぱり畑の仕事があるから……」
やはり知らない子がいると嫌なのかククルアが断ろうとする。
しかし、それくらい予想の範疇だ。俺はガルムへと視線を送る。
「雑草抜きなら父さんがやっておいてあげるさ。ノクト様やハンナちゃんと遊んでおいで」
「ええ? でも、他にもオレの実とか見ないと」
「それならさっき確認しておいたから大丈夫さ。今日の仕事はもうないよ」
「…………」
ククルアの退路を露骨に潰していくガルム。
仕事をない以上は仕事を理由に逃げることはできない。
ククルアの表情はこちらから窺うことはできないが、察してくれない父親に不満を抱いているに違いない。
それがわかっているガルムは苦笑いしながら娘の圧力に堪えているようだ。
退路を防ぐだけではククルアの気持ちは変わらないので、終えは前向きになれるような甘い誘いを仕掛ける。
「今日は縮小スキルを使って面白い遊びをするんだけどなー。ククルアは興味ない?」
すると、ククルアの耳がピクリと反応して振り返った。
「それって小さくするスキルだよね? それで何して遊ぶの?」
「それは遊んでからのお楽しみさ」
ククルアとは拡大を使って物を大きくして遊んだりしたことがあるが、縮小を使って遊んだことは一度もない。
彼女も俺がこのスキルでどのように遊ぶのか非常に気になるのだろう。
ククルアの胸中に渦巻く好奇心を表すように尻尾が激しく揺れる。それとハンナがいることの葛藤を表すように時折不安げに波打っていた。
「ククルアちゃん、可愛い……」
そんな彼女を見守るハンナが顔をだらしなくさせて呟く。
遊ぶか遊ぶまいか必死に悩んでいる彼女の姿は、ちょっと小動物っぽくて確かに可愛らしいな。
「ククルアちゃんも一緒に遊ぼう?」
「……う、うん。遊ぶ」
ハンナの言葉がククルアの心の後押しになったのかは不明だが、とにかく彼女はコクリと頷いてくれた。
よし、遊びに誘うことさえできればこっちのものだ。
ひとまず遊ぶことになった俺たちは畑から離れて、ガルムの家の裏側に回った。
こちらは少し開けており、草花が生い茂っているだけなのでガルムの仕事の邪魔になることもない。
「縮小スキルでどうやって遊ぶの?」
「私も気になってました!」
余程気になっていたのだろう。ククルアとハンナが早速とばかりに尋ねてくる。
「それはね、俺たちの身体を小さくするんだ」
俺がそのように言うと、ククルアとハンナが目を丸くして驚く。
「……私たちでもそんなことができるんですか?」
「多分できると思うよ。やってみる? 身体が小さくなると目に見える世界が変わった面白いよ」
「やります!」
俺の提案する遊びに即座に食いついてくるハンナ。
「小さくなってもちゃんと元に戻れる?」
「はっ! 小さくなって戻れないのは困ります!」
ククルアの懸念を聞いて、ハンナが愕然とした表情を浮かべた。
二人の想像する懸念がとても可愛らしくて微笑ましい。
「勿論ちゃんと戻れるよ。ベルデナも大きくなって小さくなれただろ?」
「そ、そうでしたね。安心しました」
「それならお願い」
小さくなった人間の状態からベルデナが大きくなったのはククルアも知っている。
確かな実例を出してあげるとククルアとハンナは安心したようだ。
俺は日常的にこのスキルを使っているし、自分の身体にもかけたことがあるから慣れているけど、そうじゃない人からすれば不安になってしまうのも当然だろう。
「じゃあ、まずはハンナから。スキルをかけられると無意識に抵抗したくなっちゃうかもしれないけど、俺を信じて受け入れてほしい。そうしないと小さくなれないから」
「わかりました!」
俺は度胸が比較的ありそうなハンナから縮小をかけてみることにした。
「縮小」
前に出てきたハンナを対象にしてスキルを発動する。
「わわっ! えーっと抵抗せずに受け入れる……」
スキルをかけられたことに驚いたのかハンナが身を固くして無意識に抵抗するが、俺の説明を思い出したお陰かすぐに意識して受け入れる。
すると、ハンナの身体がスルスルと小さくなっていき、身長が十センチ程度になった。
「うわわわ、領主様とククルアちゃんがすごく大きくなっています!」
「俺たちが大きくなってるんじゃなくて、ハンナが小さくなってるんだよ」
「そうでした! うわあ、すごい! 身体が小さくなるとこんな風に見えるんですね! 傍にあるお花が大きい!」
あらゆるものが大きくなった世界を目にして興奮しているのか、小さなハンナが跳ねまわる。それでも近くに生えている花よりもハンナは小さい。
彼女の視界では目の前にある花が、見上げるほどの大輪の花に見えているのだろうな。
「本当に小さくなってる……」
「次はククルアだね。準備はいいかい?」
「うん」
ククルアが頷くのを確認すると、同じように彼女にも縮小をかけていく。
俺が最初に言った言葉を覚えているのか、ハンナの時にあった抵抗感はほとんどなくスルスルと身体が小さくなった。
それだけ信用してくれているということだろうか。ちょっと嬉しいな。
ククルアは自分の身体を確かめるように触ると、今度は周囲を見渡した。
「これが小さくなった世界!」
「すごいよね。ただのお花や雑草が私たちよりも大きいんだよ!」
「本当だ! 大きい!」
ククルアも興奮しているからだろうか。ハンナの言葉に自然と返事する。
その些細な変化に頬を緩めながら俺も自分の身体に縮小をかける。
すると、視界が一気に低くなってククルアやハンナと同じくらいの大きさになった。
ただの雑草がまるで深い森のようになる。
普段は気にも留めない草花が、いつにも増して存在感を示していた。
見下ろすものを見上げるようになるのは新鮮だな。
「見てみて! 葉っぱに乗れるよ!」
「葉っぱの上でジャンプもできる!」
小さくなった世界を眺めていると、ハンナとククルアがいつの間にか雑草に上っていた。
そして、大きな葉っぱの上でピョンピョンと跳ねている。
小さくなって身体が軽くなっているからか、葉っぱから落ちることはない。しっかりと茎が受け止めてくれているようだ。
「さすがは子供たち、発想が柔軟だな」
何度か縮小で小さくなったことはあるが、そのようなことを考えたことはなかった。
あまりにも二人が楽しそうに跳ねているので、俺も真似して葉っぱの上でジャンプしてみる。
すると、葉っぱは俺の体重を見事に吸収して押し返してきた。
その力で俺の身体がフワリと宙に浮く。
そのまま何度も跳ねてみるが、葉っぱは少し沈むと押し返してくれる。
「これは楽しいな。まるで、天然のトランポリンみたいだ」
俺たちは夢中になって葉っぱの上で跳ね続けるのであった。
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