ベルデナ、鍬で穿つ
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』の書籍9巻が明日発売です!
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「ノクト! 私も何か仕事が欲しい!」
食堂で昼食を食べ終わると、ベルデナが突然そんなことを言いだした。
「うん? ベルデナは領内にいる魔物を間引いたり、狩りをしてくれたり十分活躍しているじゃないか」
それに領内ではたまに俺の護衛もやってくれている。ただでさえ、危険な役割が多いというのに、これ以上仕事を重ねるわけにはいかない。
「そう? えへへ――って、そうじゃない!」
俺の言葉を聞いて照れていたベルデナであったが、すぐにテーブルを叩いて持ち直した。
じゃあ、どういうことなんだ?
「ベルデナさんは領内でも何か仕事が欲しいのですよね?」
「そう! 私も領内でも活躍できる仕事が欲しい! メアだけノクトとイチャイチャしててズルい!」
「べ、別にイチャイチャなんてしてませんから!」
ベルデナにそのように言われ、メアが真っ赤になって否定する。
ふむ、ベルデナも領内での仕事が欲しいということか。確かにいつもいる三人の内、一人だけ外の仕事ばかりというのも寂しいな。
「仕事がないことはないが本当に大丈夫なのか? 今でも結構忙しいだろう?」
「ぜんぜん問題ないよ! 最近は自警団の人も森に入るようになったし、体力には自信があるから!」
「以前に比べて狩猟人の数も増えたので、少しくらい振ってみてもいいかもしれませんね」
前のようにベルデナじゃないとできない仕事は確実に減っている。
彼女は山の中で孤独な生活を送っている時間が多かったし、内側での仕事もやらせた方がいいのかもしれないな。
メアだって問題はないと言っているし。
「わかった。それじゃあいくつか仕事をやってみようか」
「うん!」
商店や宿の方も順調に進んでいるみたいなので、急いでやるべき仕事は今のところはない。
今日はベルデナに付き合ってみることにした。
ハンナに人数分のお代をしっかりと払って、外に出る。
ハンナは領主である俺からは貰えないなどと言っているが、領主だろうとそういうところはキッチリしたいので無理矢理押し付けた。
俺が初期投資をしている領主だからとはいえ、そういうところはしっかりとしたいからな。
美味しい料理といいサービスにはしっかりとお金を払いたいし。
俺が食材を拡大してあげたとはいえ、ベルデナが何度もお代わりをして食材を大量に消費したので無料で出るなんてとんでもない。
そんなわけで満足して食堂を後にした俺たちは空き地にやってきた。
「何もないけど私は何をすればいいの?」
「ここの空き地を耕して畑にしてほしいんだ」
「ああ! 領民の皆がやっている鍬で耕すやつだね?」
「そうそう。領民の数も増えてきたから、そろそろ畑を増やしておきたいと思ってね」
最近は領民が増えたお陰で作物の生産量も増えてきた。
逃げ出した領民の使っていた畑も残り僅かになってきたので、ここらで新しい畑を作っておきたいのだ。
「畑を耕すのは大変ですが、体力のあるベルデナさんが加わってくれるなら頼もしいです」
「わかった! 私が頑張る!」
メアにそう言われてやる気を漲らせるベルデナ。
体力や力も十分にあるベルデナなら、きっと凄い勢いで畑を耕してくれるに違いない。
「それでは鍬をお借りしてきますね」
「ああ、それなら俺が持っているから必要ないよ」
メアがそう言って近所の領民のところまで行こうとしていたので引き留める。
「いや、ノクトは鍬を持ってないよね?」
「ポケットに入れてあるんだ」
「はい?」
質問に答えるとベルデナとメアが揃って首を傾げて困ったような顔をする。
「こうやって縮小してポケットに入れてあるんだよ」
「あ、可愛いです!」
「ちっちゃい鍬だ! ……もしかして、これを大きくするの?」
「そう。こうやって取り出して拡大すればすぐに使えるんだ」
小さな鍬を拡大させると、通常サイズの鍬が手の平の上に乗った。
すると、ベルデナとメアがパチパチと手を叩いてくれる。
「すごいけど、変なスキルの使い方だね」
「そうかい? 大きな荷物にならないし便利だと思うんだけど?」
「確かにそうですが中々思いつかないと思います」
「ノクトって面白い考え方するよねー」
感心してくれたけどメアもベルデナも苦笑いしている。
確かに小さくして持ち歩くのは変かもしれないけど、すごく便利なんだよね。
いざという時のための俺は武器から日用品まで縮小して持ち歩いているのだ。
「まあ、とにかくこれでやってみてくれ」
「うん!」
ベルデナに鍬を手渡して、彼女は耕すべき空き地に移動する。
「よーし! いっくよー!」
すると、ベルデナが大きく鍬を持ち上げて一気に振り下ろした。
鍬が地面に打ち付けられてズズンと大地が揺れ、大きく抉れる。
「これは耕すというより穿つだな」
「で、ですね」
舞い上がる土や衝撃に呆然としてしまった俺とメアの目の前では大きなクレーターが出来上がっていた。
「えいっ!」
しかし、ベルデナはクレーターを気にすることなく再び鍬を振り下ろした。
その度に穴が大きく、深くなっていき大地が揺れる。
「ちょっと待ってくれベルデナ! 力が強すぎだ!」
「ええ?」
「軽く表面を掘り返すだけでいいんですよ?」
「ご、ごめん」
俺とメアが慌てて注意すると、ベルデナがしょんぼりとしながらも謝る。
彼女は山で一人暮らしをしており、こういった事に慣れていないだけだ。別に悪気があるわけではないだろう。
「大丈夫さ。穴が空いても俺が埋めてあげるから、ゆっくりと慣れていこう」
「ありがとう! ノクト!」
優しくフォローをするとしょんぼりしていたベルデナの顔がぱあっと華やいだ。
俺は大きな穴に向かった縮小を発動。
大きく穿たれた穴は、まるで巻き戻しされたかのように小さくなっていき、やがて目立たない程度になった。
「こんな風に土を軽く掘って、空気を含ませるようにやるといいよ」
「えっと、こうかな?」
試しに見本を見せてからやらせてみると、ベルデナの振るった鍬がまたしても地面を穿った。またしても大きな穴が空き、土が勢いよく飛び散る。
そんな悲惨な状況を前にしてベルデナが涙目になって振り返る。
「ノ、ノクト……」
「大丈夫。穴ができてもまた俺が埋めてあげるからゆっくり慣れていこうな」
「うん」
この後、五回ほど俺が穴を埋めるとベルデナはようやく力加減を掴んでくれた。
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