相談
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』8巻発売しました。
さらに文庫版1巻が本日発売です。よろしくお願いします。
「ノクト様。商店を出し、特産品を売っていくにつれてビッグスモール領に人が流れ込んでくると思われます。その時のために今のうちに宿なども建設しておいた方が良いと思います」
畑から中央広場に戻ってくると、ラエルが真剣な面持ちで提案してきた。
これまでは領地が整っていないので外からくる人のことなんて考えても無駄だったが、商店が出て、特産品を売るとなると話は別だ。
プレミア野菜の方はともかく、一年中栽培できる野菜があるとなれば近隣から買い付けにくることだってあるに違いない。
「そうだね。特に宿は急いで作った方がいいね」
「はい、そうして頂けると度々やってくる私共としても助かります」
今はラエルたちしかやってくる人はいないので、適当に空いている民家に泊まってもらっている状態だがこれはよろしくないだろう。
きちんと旅の疲れを癒してもらうだけでなく、ここでお金を落としてもらうためにも宿が必要だ。
宿を作ることはローグとギレムにいつものようにやってもらうとして、問題は誰にやってもらうかだ。
俺は領主であるし、メアはその補佐をしてもらっているので任せるわけにはいかない。
できれば領民の誰かにやってほしいものだ。
グレッグがリーダーとなって狩人兼自警団ができているが、領民のほとんどは農民だからな。
こういう時は俺だけで決めるよりも、領民のことをよく知っているメアに相談してみよう。
「メア、ちょっといいかい?」
領民と従業員との売買の様子を見守っているメアを呼ぶと、すぐにこちらにやってきた。
「どうなさいましたか?」
「そろそろここに宿を作ろうと思っているんだ。領民の誰かに任せたいんだけど誰がいいと思う?」
「現状ですと手に職を持っているのは男性の方が多いですし、仕事内容的にも女性や子供に振ってあげたいですね。その辺りの事情をよく知っているオリビアさんに相談してみるのがいいと思います」
確かにメアの言う通り、職持ちの偏りや仕事内容からして女性の方が向いている。とはいえ、女子供だけでは作業も大変だろうから若い夫婦と子供ぐらいが適切なのかもしれない。
オリビアは今や女性から大きな信頼を得ている。領民の生活事情もきっと詳しく知っているだろう。
広場にオリビアがいれば、すぐに相談できるようだが今はいないようだな。
既に買い物を終えて家に帰ったのかもしれない。
「わかった、ありがとう。オリビアに相談してみるよ。メアは引き続きここをよろしくね」
「かしこまりました!」
俺はこの場をメアに任せて、オリビアのところに向かうことにした。
◆
広場から少し離れたところにあるオリビアの家にやってくると、ガルムが畑を耕していた。
「やあ、ガルム。オリビアに相談したいことがあるんだけど家にいるかい?」
「はい、今ご案内しますね」
「あ、いや。別に作業を止める程じゃ……まあいいか」
俺がそう声をかける前にガルムは鍬を置いて、こちらにやってきてしまった。
まあ、相談内容だけに一緒に聞いてもらった方がいいだろう。
「オリビア、ノクト様がいらっしゃったぞ」
「あら、ノクト様。すみません、色々と物が多くなっていて」
ガルムと共に家に入らせてもらうと、台所でオリビアとククルアが肉の下処理をしているところだった。
ラエルのところで商品を買ったのか、テーブルにはいくつもの野菜や香辛料などが置かれてある。
どうやら広場にいなかったのは既に買い物を終えていたかららしい。
「いえ、突然押しかけたのはこっちだから気にしないよ。にしても、やっぱりここもオークの肉がたくさんあるね」
台所近くの窓にはオークの肉らしきものが吊るされていた。
「もう、オークの肉飽きた」
肉の下処理をしていたククルアがどこかうんざりしたように言う。
「あれだけたくさんいたからね。うちでも最近のお肉はオークだよ」
「やっぱり?」
ああ見えてオークの肉は中々に美味しく、普段ならば重宝されるのであるが、あれだけの数となると領民全員で分けても余ってしまうのだ。
お陰でうちの屋敷にも塩漬け肉で常備されており、炒め物やスープで毎回具材として出てくる。
美味しいのは美味しいのだが、さすがに何日も食べ続けていると飽きてしまうものだ。
「ですが、これだけお肉を食べられるのは幸せなことです」
「そうね。以前暮らしていた場所だとこんなに毎日食べられなかったもの」
不貞腐れているククルアをどこかあやすようにガルムとオリビアが言う。
そうだな。貴族である俺でも以前は毎日のように肉を食べることはできなかった。
それを考えれば、同じものとはいえ肉を毎日食べられることに感謝しないとな。
「ところでノクト様。オリビアに相談とは?」
ガルムがそう言うと、オリビアが急いで手を洗って佇まいを整える。
俺としては肉の処理をしながらでも構わないのだが、それでは気が済まないようだ。
「実は近々領地に宿を建てようと思っていてね。領民の誰かに任せたいんだけど誰がいいか相談したくて。できれば若い夫婦で子供がいる方がいいかな」
全員女性にしてしまうことも考えたが、やはり力仕事ができる男性もいた方がいいし、いざという時も心強い。
「それだったらオレたちが!」
「うーん、それも考えたんだけどガルムにはメアと一緒に農業の方に専念してほしいし、オリビアも頼りにされていて忙しいでしょ? それにククルアもまだ慣れていない様子だし」
正直、最初に思いついたのはガルム一家であるが、ガルムはメアと一緒に試行錯誤しながら農業をしてくれているし、オリビアも薬を作ったり、他の領民たちのことを気にかけて行動してくれている。あまり大きな負担はかけたくない。
それに何より、二人に比べてククルアが人間に慣れている様子ではない。グレッグやベルデナといった一部の人間とは問題なく交流できるものの、他の人と話している様子を見たことがなかった。
主に領地外からやってくる人を相手にするのだ。
「ノクト様の言う通りですが、私はそこまで忙しくありませんよ。家族のこともあるのでずっとというのは難しいですが、お手伝いとしてならばできます」
「本当に? 無理とかしていない?」
「ええ、本当に大丈夫です。お手伝いでもよければ私自身がやってみたいので」
念を押すように尋ねるが、オリビアは笑みを浮かべてそう答えた。
「そう、ならよかった」
どうやら本当に無理はしていない様子だ。
人当りも良くて、料理の上手いオリビアがいると安心感があるので助かる。
「それでですが宿の仕事に向いていそうな人に心当たりがあるので今からお連れしましょうか?」
「……いや、俺が行ったらビックリすると思うし、オリビアから言ってくれると嬉しいかな」
領主からの頼みとなると領民からは命令に等しい。
オリビアやガルムとなると初期からのメンバーで信頼もあるので、そう硬く捉えないが他の人はそうじゃない可能性が高いし。
「客足については最初から多くならないだろうし気楽にやってくれるように言っておいた」
「わかりました。では、私の方で声をかけて了承を貰えたらお声がけしますね」
「うん、それでよろしく」
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