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不穏な気配


「……縮小」


 スキルで栽培して育てたニンジンやタマネギに縮小をかけてみる。


 すると、成長しきっていたニンジンとタマネギが小さくなった。


 縮小されてしまってぽっかりと穴の開いた部分をメアが土をかぶせてくれる。


 前回の検証で縮小を何度もかけて育てたオレの実は甘みが増すことがわかった。


 今回は他の食材でもそれが適用されるのか試しているところだ。


「ニンジンやタマネギも甘味が増したら、苦手な人でも食べられるようになるかな?」


「一部の大人や子供が喜ぶかもしれません」


 メアがくすりと笑いながら返事する。


 メアが笑ったのは俺が辛味の強いタマネギを苦手としていると知っているからだ。


 たまにサラダで出てくるスライスされたタマネギとかちょっと苦手だ。



 いつ辛味のあるものに当たってしまうかと思うと、ちょっとしたロシアンルーレットをやっている気分になる。


 発想が子供っぽいと思われただろうか? でも、この試みが成功すれば俺だって生タマネギのサラダを遠慮なく食べることができるんだ。是非とも成功してほしい。


 美味しい食べ物は少しでも多いに越したことはないだろうから。


「ノクトー!」


 そうやって実験用の作物に縮小をかけながら他愛のない会話をしていると、ベルデナの声が響いてきた。


 聞き覚えのある声に振り返ると、ベルデナとグレッグ、リュゼが三人揃って近付いてくる。


「……どうされたのでしょう? 三人とも少し浮かないご様子ですね」


「うん、どうかしたんだろうか?」


 それがいつも通りであれば笑顔で手を振って応えるところであるが、三人の表情は少しだけ硬かった。


 今日は定期的に行っている大森林の様子を見に行く日だったと思うが、何かあったのだろうか。


 いつもなら昼を過ぎた頃合いに戻ってくるはずだが、まだお昼にもなっていない。


 ……なんとなく嫌な予感がする。


「今日は大森林の巡回日だけど何かあったのかい?」


 予定外に早く戻ってきた三人に問いかけると、ベルデナがおどおどして仕方なさそうにリュゼが口を開いた。


「……大森林の浅いところでオークを見つけた」


「なんですって!?」


 メアの驚きの言葉が響き渡る。


 オーク。それは一か月半前に俺の領地を襲った人型の魔物だ。


 二メートルに及ぶ体躯を持っており、その身に込められたパワーは巨木や民家すらもへし折ってしまう。


 さらに恐ろしいのはその異常な繁殖力だ。


 奴等は他種族の女性を攫って繁殖を行うことでも有名であり、瞬く間に数を増やしていく。


 そんな特性もあって人間たちから蛇蝎のごとく嫌われている。


 以前の襲撃でその被害が全くなかったのは、一重に父と兄による領民の避難指揮が適格であったからだろう。


 しかし、今二人はこの世にいない。


 このままいけばもしかするとオークたちは、この領地にやってくるかもしれない。いや、必ずくるだろう。


 俺一人だけで乗り切らなければいけないという事実に身体が重くなる。


「ノクト様?」


「……ごめん、ちょっとビックリして反応が遅れた。それで見かけたオークは一体かな?」


「ううん、三体から四体で固まって動いているのを何回も見たよ」


「通常のオークがそのように行動することはありません。間違いなく、彼等を統率する上位個体がいると思っていいかと」


「……最低でもオークジェネラルはいるとみていい」


 上位個体のいるオークの群れ。メアの言う通り、間違いなく以前この領地を襲撃してきた群れだ。


 残念ながらたまたまはぐれを見つけたわけなどではない。


「で、でも、私たちの領地にくるってわけじゃないよね?」


「この領地は以前もオークに襲撃されたんだ。その時は撃退したからまた攻めてくる可能性が高い」


 物事は最悪の事態を想定して動く方がいい。大森林の比較的浅いところで見つけたのであれば、こちらにやってくるつもりだろう。


 守れるのか? 俺にこの領地を? 父や兄がいない中、領民たちをまとめ上げて。


 オークたちが襲撃してくるかもしれないと領民に伝えられたら、逃げられてしまうかもしれない。


 またあんな想いはしたくない。


 そんな負の想いを抱いていると不意に身体が温かい何かに包み込まれた。


 気が付くとメアが俺のことを抱きしめている。


 女の子特有の甘い香りや、柔らかい身体の感触、何より体温が心を落ち着かせてくれた。


「……メア?」


「ノクト様、大丈夫ですよ。私たちは逃げたりいたしません」


「っ!?」


 しっかりと言い聞かせるように言うメア。


 俺の不審な挙動からメアは何を不安に思っているかわかっていたらしい。


 しかし、俺の抱きしめているメアの腕は微かに震えていた。


 俺はたまたまスキルを授かりに行っていたので、実際にオークに襲撃された様子は目にしていない。


 しかし、メアは実際にその時も領地にいたのだ。俺よりも遥かに恐怖心は大きいだろう。


 それなのにメアは俺のことを心配してくれて……。


「そうだよ。私がノクトとこの領地を守るから!」


 オークの群れが襲撃してくるかもしれないにも関わらう、ベルデナはいつもと変わらない様子でそう言う。


 ベルデナの勇ましい声と態度がとても頼もしい。張り詰められていた空気が弛緩した。


「俺も勿論力を貸しますよ」


「……この領地には居心地がいいから」


 グレッグやリュゼもそう言って、頼もしい言葉をかけてくれる。


 皆の温かい言葉のお陰で暗く重くのしかかっていた重圧が軽くなった。


 本来ならこういう窮地で真っ先に行動を起こさないといけないのは領主である俺だ。


「……ありがとう、皆」


 まったく何をやっているというのか。これでは天国で見ている父や兄に怒られてしまう。


「戦おう。俺たちの居場所を守るために」


「うん!」


 しっかりと決意の言葉を述べると、ベルデナたちがしっかりと頷いてくれた。




 ◆




 戦う決意を固めた俺が最初にしたことは領民を集めることであった。


 まずはオークの群れが傍におり、やってくるかもしれないことを伝えなければならない。


 幸いうちの領地は領民が多いわけではないので、数十分もしないうちに領民全員が集まった。


 領民の顔を見られるように拡大したアースシールドの上から眺めると、二百人以上くらいいることがわかる。


 最初は俺とメアの二人しかいなかったというのに随分と増えたものだ。


 思わず感慨深くなってしまうが、いつまでも感傷に浸っている場合ではない。


 今は一刻も早く情報を伝えて準備に移行する必要がある。時間は無駄にできない。


 全員が集まるという今までにない事態にざわついている中、俺は自らの声を発して拡大した。


「急な呼び出しにもかかわらず集まってくれてありがとう。今日は皆に伝えなければいけないことがあったから集まってもらった」


 拡大された声はざわつきを見事に吹き飛ばし、領民たちを一気に沈めさせた。


「大森林の浅瀬でオークの群れが発見された。恐らく、それは以前にもこの領地を襲ってきたオークたちだ。またこの領地を襲いにきた可能性が非常に高い」


 オークの群れの発見と、襲撃の可能性に領民たちが一気にざわつく。


 しかし、ここで好き勝手に喋らせてはパニックになる可能性がある。


 それを一喝するように俺は厳かな声で方針を宣言する。


「せっかく皆の力で復興させた領地だ。またオークに壊されるなんて我慢ならない。だからこそ、この領地を守るため皆には力を貸してほしい!」


 父は兄のスキルやカリスマであれば、俺が守ってやるから力を貸せ、付いて来いと皆を引っ張ることができただろう。


 しかし、俺は二人のようなスキルもカリスマもない若造では、このようにお願いする形しかできない。


 情けないかもしれないが、今の俺は一人ではない。仲間がいる。


「任せて! 皆は私たちが守るから!」


「おうよ! こういう時のために俺がいるんだからな!」


「……あれだけ立派な防壁があれば楽勝」


 俺のお願いに呼応するようにベルデナやグレッグ、リュゼが返事をしてくれた。


 二人が決意を露わにしたことで領民たちも同じように決意の言葉を述べていく。


「ノクト様、戦闘は苦手ですけど、家族とこの領地を守るためならオレも戦います!」


「私も微力ですけどお手伝いさせてください」


「ありがとう、ガルム、オリビア」


 何人かが逃げてしまうんではないかと思っていたが、ここまで結束力が高いとは。


 自分の領地ながら誇らしく、嬉しい気持ちになった。


 それはメアも同じだったのだろう。涙を流しそうに表情で呟いた。


「本当にいい領地になりましたね」


「うん」


 だからこそ、失いたくないんだ。


 あの時と同じ悲劇を繰り返さないために。


「戦えない老人や子供、女性は避難の準備。それ以外の戦える者はここに残ってくれ!」




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[一言] オークは単純に全部【縮小】してしまえば楽になるんじゃないの?例えば蟻サイズなら踏み潰すだけだし…それだと小説的には面白くないっか!(≧∀≦)
[一言] 戦えない老人?防壁どれくらい進んだんでしょうね~それ次第で変わってきそう。的あてになるか戦いになるか。
[気になる点] 問題は、この世界のオーク肉が食用になるかだな。 ミニオーク農場とか、どうなんだろ。 繁殖力が強いとか、フラグだろうか。
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