ベルデナの住み家
「ねえ、ノクト。ちょっと私の住んでたところに寄ってもいい?」
狩りを終えてメアのお弁当を食べていると、一足先に食べ終わったベルデナが尋ねてきた。
「いいよ。何か取りに戻りたいものがあるんだね?」
ベルデナは領地にやってきて、その日に領民となることを選んでくれた。
ベルデナにとってこちらで住むことは想定外。住み家に置いてきた大事な物があるのだろう。
「ないよ」
ベルデナの予想外の言葉に聞いていた俺とグレッグはずっこけそうになった。
「あれ? じゃあ、なんで?」
「私の住んでいたところに美味しい木の実があるんだ! それを食べたい!」
「美味しい木の実? どんなの?」
「木に紫の丸い実がたくさんついててとっても甘いんだ!」
ベルデナが嬉しそうに言っていることから、その木の実とやらはとても甘くて美味しいのだろう。
しかし、俺の知識の中にそのような木の実はなかった。
「グレッグは思い当たるものがあるかい?」
「……うーん、ありませんね。この山にしか生えていないものかもしれません」
幅広い知識を持つ冒険者のグレッグも知らないらしい。
となると、一般的に流通しているものではなく、グレッグの言う通りそこでしか採れない木の実なのかもしれない。
「わかった。ひとまず、行ってみようか。案内してくれるかい?」
「うん、いいよ!」
甘い木の実が採れれば領民も喜ぶだろうし、今後の特産品として売り出すことができるかもしれない。十分に見に行ってみる価値はあるな。
メアのお弁当を食べ終わった俺たちはベルデナに付いて、山を登っていくことにした。
しかし、歩けど歩けどベルデナの住み家にたどり着く様子はない。
斜面もどんどんと急になっており、平らな道など皆無なので体力的にもキツい。
「ま、まだ着かないんですかね?」
「そろそろ着いてほしいところだね」
俺とグレッグが額に汗を垂らしながら、木の根を乗り越えて進む。
俺たちの視線の先にいるベルデナは、悪路を気にした風もなく軽快な足取りで進んでいた。
「ベルデナ、あとどれくらいで着きそう?」
「もうちょっとだと思うけど、具体的な時間は歩幅が小さくなったからよくわかんないや」
思わず尋ねてみると、ベルデナが苦笑しながら答えた。
あー、そうだよな。ベルデナの距離感覚は基本的に巨人サイズの時のものだ。人間サイズになってしまった今ではそれらの感覚がアテにならないしな。
とはいえ、ベルデナももうちょっとだと言っている。今はそれを信じてベルデナにひたすら付いていくしかないだろう。
「辛いなら私が背負ってあげようか?」
ベルデナの提案は非常に魅力的なものであるが、それはなんか男としてダメな気がする。
俺にも一応プライドというものがあるのだ。
「いや、大丈夫だよ。このままのペースで進もう」
「わかった!」
疲労を見せずに遠慮すると、ベルデナは素直に受け取って前を進み出す。
「ノクト様、明日は筋肉痛確定ですね」
「そうだな」
ベルデナの後ろを付いて歩くグレッグと俺は、苦笑いしながら明日の筋肉痛の覚悟をするのであった。
◆
「着いた! ここが私の住んでたところだよ!」
長い斜面の先にたどり着いたのは、頂上付近にある洞窟であった。
巨大な岩を掘削されたかのような大きな洞窟は、巨人サイズのベルデナが容易に出入りできるほどの大きさだった。
「この山の頂上にこんな大きな洞窟があったなんて知らなかったな」
「うん、私もこんなに大きいとは思わなかったよ」
「いや、嬢ちゃんはここに住んでいたんだろう?」
ポカンと口を開きながら見上げるベルデナにグレッグが突っ込んだ。
「そうだけど、人間の大きさになってみると大きいなーって」
「ああ、そういうことか」
普段は当たり前のように生活していた場所でも、小さくなればまた違った風に見えるものだ。
縮小して小さくなるともっと巨大に見えるのだろうな。
「別に大したものはないけど、気になるなら入ってみる?」
しげしげと眺めていたからだろうか、ベルデナがそんなことを聞いてきた。
「え? 俺たちも入っていいの?」
「なんでダメなの? 別にいいよ?」
一応、女性の家なので待機していようと考えたが、ベルデナは特に気にしていないようだ。
不思議そうに小首を傾げられた。
「じゃあ、お邪魔するね」
純粋に洞窟がどのように広がっている、巨人族であったベルデナがどういう生活をしていたかも気になる。
女性の生活を覗き見するようで気が引けるが、ベルデナがいいと言っているのでありがたく拝見することにした。
「この洞窟はたくさん部屋があるんだ。私一人じゃ使いきれないくらい」
ベルデナが案内してくれた洞窟の奥にはいくつもの空間が存在しており、ベルデナはその空間を自由に使っていたようだ。
基本的なイスやテーブルのようなものは岩や鉱石を使っているようだ。
中央には薪や燃え果てて灰になったものもあり、生活感をとても感じた。
「ベルデナはずっとここで一人生活していたんだ」
「……一応、昔は両親もいたんだと思う」
「そうなの?」
「私より大きな人がいて、見上げていた記憶がちょっとだけあるんだ。でも、気付いた時にはいなくなってたし、昔のことだからほとんど覚えてないや」
昔の光景を懐かしむように見上げながら言うベルデナ。
両親に捨てられたのか、それともベルデナから離れざるを得ない状況があったのか。それはわからない。
ただ後者であってほしいとは思う。
「でも、いいんだ。今の私にはノクトや皆がいるし毎日が楽しいから!」
屈託のない笑顔で言うベルデナ。
その表情は紛れもない純粋なもので、ベルデナが無理をしていないことや嘘を言ってないことはわかった。
「ありがとう、ベルデナ」
「なんだか聞いているこっちまで照れてきますね」
まったくだ。ベルデナは言いたいことはハッキリとストレートに言うので、こちらからすればちょっと照れくさいな。
「ん? あそこの奥にあるのは?」
照れくさくなって視線を彷徨わせると、奥の空間でこんもりとした山が見えた。
チラリと魔物の牙や爪らしいものが見えた気がする。
「ああ、魔物の牙とか爪とか気に入ったものを置いてた玩具部屋だよ。そういえば、人間の生活ではああいうのを素材にして使うんだよね? なんか使えそうなら持って帰る?」
「ちょっと見せてもらうよ」
ベルデナはなんてことがないように言ったが、もしかすると貴重な素材宝物庫かもしれない。
「うわっ、すごい。当たり前のように稀少なゴールドムーンの毛皮やレッドベアーの毛皮もある」
ホワイトムーンより稀少な黄金の体毛を纏った狼の魔物素材や、炎を纏う狂暴なレッドベアーの毛皮。
どちらも並の冒険者では到底討伐することのできない魔物の素材だ。
「ノクト様、見てください。これ、多分竜種の骨ですよ」
「うん、なんか空から攻撃してきたから倒した! 大きかったけど、お肉は全然美味しくなかった」
当たり前のように竜種すら倒してしまっているベルデナ。
もう、この子がいれば大森林の魔物も余裕なんじゃないだろうか。そんな慢心をしてしまいそうになるな。
俺たちはいくつかの貴重な素材を選定すると、縮小をかけて持って帰ることにした。
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