領民と狩り
「ノクト様、山の中は以前と変わっていますか?」
「……いや、今のところないように思える。リュゼ、魔物の痕跡はどうだ?」
「以前、領地を襲ったっていうオークの痕跡は一切ない。多分、こっちに流れたりしてるってことはないと思う」
リュゼに尋ねてみると、きっぱりとそう告げられた。
狩人であるリュゼがそう言うならば間違いはないだろう。
「ということは、山の方は特に荒れていないみたいだな」
ホッと安心するように俺は呟いた。
以前の襲撃があって、この山にも被害があるのではないかと思ったが杞憂だったようだ。
どうやらオークたちはこちらに流れ着いてはいないらしい。
「まあ、こっちには山の主がいるからな」
「山の主っていうと、なにかおっかない魔物がいるんですか?」
ふと呟いた言葉であったが、グレッグはしっかりと耳にしていたようだ。
「細かいことはわからないが、この山には巨大な魔物がいるらしい。以前も何人かの領民が巨大な影を見たと言っていた」
「巨大な影……ドラゴンとか?」
俺の言葉を聞いて、リュゼが首を傾げながら呟いた。
「でも、ドラゴンだったら空を飛ぶからすぐにわかるだろう?」
「じゃあ、なに?」
「さあな。俺が子供の時から言われているが誰も姿を見たことはないからな。もしかしたら、ただの見間違えかもしれない」
リュゼに率直に尋ねられるが、それは俺にもわからず肩をすくめるしかできない。
木々の影を見間違えただけかもしれないし、飛んでいるドラゴンの影だったかもしれない。はたまた、無暗に子供が奥に行かないように作り出した話かもしれない。
どちらにせよ、危害を加えられたこともないので気にすることはないだろう。
「まあ、なんにせよ山が安全みたいでよかったですね。せっかくですし、少し食材の調達でもしていきましょうか」
「そうだね」
この山にはたくさんの山菜やキノコ、木の実なんかが自生している。
たった三人でしか採取できなくても俺が拡大してやれば、大量の食料となるのだ。
俺たちはあまり離れ離れにならないように気を遣いながら食材を探す。
アザミ、コゴミ、ウド、シラタケ、野生のオレの実なんかを見つけてドンドンと採取していく。
「領主様、食材が多くなってきたので小さくしてください」
「……私も」
「わかったよ」
グレッグとリュゼが食材を手にしてやってくるので、縮小をかけて小さくしてやる。
採取した大きなシラタケは親指よりも小さくなり、ポーチやバッグに入れても大してかさばることはない。それに帰り道に荷物になる心配がいらないのがいい。
「本当に領主様のスキルは便利。私もこういうのが欲しかった」
まさか、自分のスキルを羨まれるような日がくるとは、スキルを授かった頃は思いもしなかっただろうな。
苦笑いをしながらどう答えたものかと迷っていると、不意に会話をしていたリュゼがこちらに弓を構えた。
勿論、それが俺を攻撃しようとするものではない。俺の後方から気配がしたからだ。
グレッグは既に剣を構えて気配の方に視線を向けており、俺だけが遅れながら剣を構える。
リュゼが睨みつける先に視線を向けると、茂みから茶色いウサギが出てきた。
ただの山ウサギだ。魔物や猛獣ではないことにホッとする。
「……なんだウサギか。せっかくだから狩ってみるか」
「私が射ようか?」
「いや、俺にやらせてくれ。たまには狩りをしないと身体が鈍る」
「……そう、逃がしたら許さないから」
「グレッグの肩に領民全員が肉を食べられるかかかってるんだからな」
「二人とも、プレッシャーをかけないでくれます!?」
弓を下げて剣呑な言葉をかけるリュゼと俺のビビりながらも、グレッグは狩りを試みる。
小さなウサギの肉でも拡大すれば、巨大な肉に変身する。
今日の夕食に肉が並ぶかはグレッグ次第なので、期待が高まるのも仕方がないことだ。
俺とリュゼが見守る中、グレッグは気配を消してナイフを構えながらウサギに接近。
距離を縮めたグレッグは左手で石ころを投げると、それに反応してジャンプしたウサギ目掛けてナイフを投擲。
それは見事、空中を跳躍するウサギの首に突き刺さった。
「これで今晩の食卓には肉が並びそうだね」
なんてリュゼに声をかけるも、彼女は無言で空を見据えていた。
彼女の視線の先を追うと、木々の間を縫うようにホロホロ鳥が飛行していた。
ホロホロ鳥の肉は非常にジューシーで美味しいのだが、さすがにこのような遮蔽物が多い中で撃ち抜くのは厳しいだろう。
そう思っていたのだが、リュゼは真上に弓を構えて、すぐに矢を発射した。
矢は空を飛んでいるホロホロ鳥に見事に突き刺さって、俺たちの傍に落下。
「あんなに遮蔽物が多いのに、よく飛んでいるホロホロ鳥を撃ち抜けるね」
軽く見上げただけでもいくつもの枝葉が広がっている。
その隙間を飛ばし、空中を飛んでいるホロホロ鳥を正確に射抜いたのには驚愕せざるを得ない。とても自分にはできない技だ。
「すげえ、腕前だな。なにか弓に関係するスキルがあるのか?」
「【視力強化】と【精密射撃】がある……けど、この程度ならスキルなしでも余裕」
これが当たり前と言わんばかりに淡々とホロホロ鳥の下処理をしていくリュゼ。
まさに、弓を扱うために与えられたようなスキルだ。
ただの変わり者のエルフと思っていたが、想像以上の腕を持っていたらしい。これはとても嬉しいことだな。
ウサギとホロホロ鳥の下処理を二人が行っている中、俺は周辺に自生していた殻付き豆を見つけたので採取。
焼き上げて塩と一緒に炒ってやると、とても美味しいんだよな。
次々と採取していると前方にシカが二頭いることに気付いた。
シカは木の実を食んでいるのか、こちらに気付いた様子はない。
しかし、俺が近づくと気付いて逃げてしまう気がする。後ろにいるリュゼに声をかけて、矢で仕留めてもらうか?
いや、ちょっと試したいこともあるので、ここは自分でやってみよう。
腰から剣を引き抜いて、刃先を前方にいるシカに向ける。
真っすぐとぶれないように狙いを定めたら、剣の刀身の長さだけを拡大。
勢いよく拡大された刀身がぐんぐんと伸びていき、振り返ったシカの首に突き刺さって地面に縫い留めた。
もう一頭のシカは突然の奇襲に驚き、慌てて遠くに逃げていく。
さすがにもう一頭を狩るのはキツいな。と思っていたら、ヒュンという音が鳴って逃げ出したシカの頭に突き刺さった。
振り返ると、後ろではリュゼが弓を構えていた。
「獲物がいるなら言ってくれればいい」
「ごめんごめん、ちょっとスキルを試したくてね」
リュゼに頼めば危なげなく二頭とも仕留められたと思うが、このようなスキルを試す機会が滅多にないのも事実だからな。
「うわっ、なんですこの剣は!? 刀身がデタラメに長いじゃないですか!?」
「刀身だけを大きくしてやれば、離れた敵も貫けると思ってたんだ」
そう説明しながら縮小を発動すると、剣はみるみる縮んで元の剣の大きさに戻った。
刀身に着いた血を振り払って、鞘に納める。
「……そんな使い方もできるとは驚きました。ノクト様の剣は変幻自在ですね」
「上手く操れれば相当な武器になる」
戦闘経験の豊富な二人が言うのだから、このスキルの使い方はかなり有用なのだろう。
「もし、魔物がやってきた際は、できるだけ俺も前に立ちたいからね。足手纏いならないように修行中さ」
「領主であるノクト様が戦いに参加するのですか?」
「大事な領地を守るためなら当然だよ。領民たちが戦ってくれる中、自分だけ逃げるなんてできないからね」
領地や守るために奮闘していた父や兄の背中を見て育ったのだ。
もしもの時は俺も二人のように領民と共に戦いたい。
「……ノクトは変わってる」
「そうかな?」
他の領主が緊急時にどうしているかは知らないが、うちではそうするのが普通だったからな。
「にしても、シカが二頭にウサギが一羽、ホロホロ鳥が一羽と肉が大量ですね。今晩は夕食が期待できそうです」
「どうせなら宴でも開くか? 俺がスキルで拡大すれば、自分よりも大きなステーキを食べることができるぞ?」
「いいですね、それ! 最高です! 是非、やりましょう!」
「……自分よりも大きなステーキなんて食べたことがない」
思い付きで提案したものであるが、かなり乗り気になってくれた。
グレッグは目を輝かせて、リュゼは大きなステーキに想いを馳せて顔がだらしなくなっている。
「よし、やるか!」
「はい!」
俺たちは狩った獲物の処理を速やかに処理して、領地に戻るのであった。
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