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職業集め

 翌日、俺たちがギルドに行くと、ギルド内の雰囲気はいつもと少し違っていた。

 例のトロールは結局十層を踏破し、十一層の転移石を持って意気揚々と帰ってきたらしい。それを知った冒険者たちの反応はきれいに二つに分かれていた。


 一つは意気消沈で、もう一つが焦燥感だ。

 魔物をあんな風に手なずけられるのであればもう自分たちの出る幕はないかもしれない。それが共通認識で、もう自分たちはだめと思うか、頑張らなければならないと思うかというだけの差だろう。


「頼む、職業を売ってくれ」

「ちょうど引退を考えていたからもう俺の職業を引き取ってくれ」


 結果として、それぞれの事情で冒険者たちは俺に声をかけてくる。しかも数は結構多そうだ。


「今日は冒険は休みにして商売をしよう。午前はリンが、午後はティアが手伝ってくれ」

「はい」


 ちょうどいいタイミングだし、二人には空いた時間でフィリアをパーティーに入れるかどうか考えてもらおう。


「待て、お前が職業を売るならそれを俺が買い取りたい」


 ギルドの中ではそんな会話も発生している。


 そして数人との取引した後だった。

 俺たちの元によくギルドにで見かける古株の冒険者がやってくる。


「元々体にガタが来ていたが、今回の件を見て決めた。わしはもう引退するよ」

「そうなのか!? あんたならまだまだやっていけると思うが」

「それはそうかもしれないが、百二十歳ぐらいまで生きていける蓄えは出来た。まだまだ若い者には負けぬと思っていたが、化物には勝てんよ。かといって『錬金術師』を持ったままだと体が疼いて隠居も出来ないしな」

「そうか、俺が言うことでもないがこれまでお疲れ様」

「うむ。職業を手離す代わりに、老後の趣味に『農夫』でもくれないか? いつか家庭菜園をやってみたいと思ってたんだ」

「そういうことならお安い御用だ」


 このおっさんの職業は「錬金術師」。貴重な職業に俺は内心息を呑みながら取引を行う。

 そして代わりに「農夫」を渡した。

 受け取ると、彼は肩の荷が下りたような表情になる。「錬金術師」を持っているだけでなかなか引退の決心がつかなかったのだろう。


 そこへすぐに次の客がやってくる。


「なあ、今のおっさん『錬金術師』だっただろう? 俺に売ってくれよ!」


 こちらは先ほどとは逆で、まだ若い男だった。

 俺は少し考えて首を横に振る。すると彼は肩を落とす。


「そうか、やっぱり買うなら戦士系か」


 彼が去っていくと、隣で他の冒険者たちの相手をしていたリンが少し不安そうに尋ねる。


「もしかして、フィリアさんにあげるつもりですか?」

「そうだな。もっとも、彼女がパーティーに入ることを決めた場合であれば、だが。まあパーティーに入らないことになったとしてもティアの強化には使えるだろう。リンはフィリアがパーティーに入るのは嫌か?」

「そういう訳ではありませんが……元々知識や技術がある彼女が強い職業を手に入れてしまったら私なんかよりももっと強くなってしまうのではないかと思いまして」

「そんなことはない。魔法系の職業は入手が難しい上に強化はティアと被るからな」


 周囲に聞かれないよう俺が小声で耳打ちする。

 それに、リンは俺の最初の仲間だ。仮にもっと強い人が現れたからといって扱いが変わる訳ではない。

 もっとも、彼女の表情を見る限り、俺の扱いとは関係なく自分がパーティーに貢献できなくなることを恐れているようだったが。


「そうですか」


 俺の言葉を聞いてリンはほっとしたようだった。

 フィリアも自分がリンやティアに劣っていることを心配していたが、それはお互い様だったようだ。


 それからも数人と取引をして、午後を迎える。

 リンと入れ替わりにティアがやってきた。


「フィリアとは話したか?」

「はい。とても真面目な方なのでパーティーに入れば戦力になるかと思います。パーティーは前衛二人、後衛二人というのが定石なので安定すると思います」


 ティアはとても優等生的な見解を述べる。


「だから俺も彼女に入ってもらいたいと思っている。でも、今のは一般論だ。ティア自身はどう思うんだ?」


 俺が尋ねるとティアは少し驚いた表情をする。


「そんなことを聞いてくださるんですか?」

「結局、日々過ごしていくうえで大事なのは一般論よりもそういう感想だからな。それに、今のところ三人でも特に問題はないから、急いで四人目を入れる理由もない」

「そうですね、あえて言うなら彼女は私やリンさんと違って、純粋に興味や好奇心が動機なのでそれが少し気になります」


 恐らく反対というほどではないが、ティアが気になっていることは分かった。リンもティアも形は違えど、俺が助けたという経緯はあるが、フィリアは別にそういう訳ではない。


「分かった」


 そんなことを話しつつ、俺たちはギルドでの取引を始める。

 数人の冒険者と職業を売買したところで客はほぼいなくなった。

 そこで俺はティアに提案する。


「ギルドでの取引は終わったが、今度は街の方にも行ってみないか?」

「なるほど。確かに街の人も時々ギルドまで来てくださってはいますからね」

「ああ。それでもまだ俺たちのことを知らない人も多いだろう。だから宣伝でもしようと思う」

「いいと思います」


 ギルドでの商売が終わると、俺たちは街に出て人がいるところで呼びかけを行ったり、掲示板のようなところに宣伝の紙を貼らせてもらう。

 胡散臭げにこちらを見てくる人や、前々から噂を聞いて興味を持っていた人など様々な反応がある。


「こうしていると、リンと会う前に一人でこの取引をしていたときのことを思い出すな」

「そんな時代があったのですか」

「ああ」


 俺はティアにそのときの話をしながら街中を歩き、宣伝をして回った。

 ギルド内の冒険者と違って街の人は俺の実績を知らないので信じてもらうには時間がかかったが、最初の時と比べればよほどましだった。

 それに、俺の話を信じてくれない人でもティアの言うことであれば信じてくれると言う人も結構いた。彼女の容姿がいいのもあるが、やはり王族という生まれからくる貫禄のようなものがあるのだろう。


 そして俺たちは夕方ごろまで宣伝をして宿に帰ったのだった。


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