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十九話 綺麗な人形出来ちゃいました!

「さて、どうするかな……」


 大きな石室から運び終えたミスリルの剣と鎧を見て、俺は頭を悩ませていた。


 鍛冶に集中するマッパに代わり、シエルらスライムたちが滑らせるように運んでくれたのだ。


 その甲斐あって、マッパはピッケルなどのミスリル製工具を十分に作ってくれた。

 それでもまだ、ゴーレムの鎧と剣は四セット残っている。


 なので、残りのミスリルは人形ドールの武具にしようと思う。

 というのは、誰かが採掘していて、この前のゴーレムたちのいるような場所を掘り起こしてしまったら危険だからである。


 俺がいれば、どうにか対処はできるだろうが……

 ここに住んでいる俺以外の者で魔法を使える者は、今のところリエナだけ。

 また、そのリエナは洞窟の外にいることが多い。

 なので、魔法を使える強力な人形ドールに、洞窟を警備させようと思ったのだ。


 魔導石をドールに埋め込んで、あらゆる攻撃を防ぐ無属性魔法、シールドを使えるようにしておく。


 俺の魔力を付与すれば、丈夫なシールドを展開できるはず。


 気になるのは、膨大な魔力があれば、人形も魔力探知のスキルを使えるのかどうかということだ。


≪偽心石を核とする人形は、体の構成部品によってはスキルを習得できます≫


 ほう。

 助言者によれば、ドールもスキルを覚えることができるらしい。

 魔導石に大量の魔力を宿せば、魔力探知を使えるようになるかもしれない。


 ゴーレムは言葉を喋れない。

 しかし、この前のキラーバード襲来の時、俺の言葉を理解して動いたのを考えれば、魔力を感じたら周囲に報せろという命令も聞いてくれるはずだ。

 

 そしてこのミスリルの鎧と剣を装備させれば……


 俺は刃渡り3m以上の剣と、人が四、五人入ってしまいそうな鎧を見た。


 ……ぶっちゃけ、邪魔じゃない?


 こんな巨大な武具を身に着けたやつが、狭い洞窟を行き来するのだ。

 往来もそうだが、採掘自体にも支障が出そうだ。


 ……うーん。どうするべきかな。


「ヒール様? ご気分が優れませんか?」


 俺はその柔らかい声に振り向く。

 そこには、心配そうに俺を見つめる、黒髪の美女リエナがいた。


「いや、大丈夫だよ……ちょっと考え事してただけ」

「そうですか……私に力になれることがあったら、なんでも言ってくださいね。それと、こちらをどうぞ」


 リエナは水の入った木の盃を、俺に差し出す。


「……ありがとう、リエナ」


 リエナから水を受け取り、俺は一口含む。


「……美味い」


 ただの水がこんなに美味いだろうか?

 氷が入っているだけじゃない、なんだかすっきりしている。

 それでいてなんだか甘みも有った。


「これ、何か入ってる?」

「はい! レモンとヤシの実の果汁入りです! さすがにジュースにすると、一気になくなってしまいますので水で割ってますが。節約です!」

「節約か。でも、むしろ酸っぱすぎず、すっきりしてるし。ジュースより好きかも……」

「本当ですか?! ふふ、やった!」


 リエナは両手で拳をつくり、顔を綻ばせる。


 その健気さに、俺も思わずにっこりだ。


「それじゃ私、皆の分も作ってきますね!」

「うんうん。頑張って」

「はい、ヒール様!」


 リエナは鼻歌交じりに調理場に向かった。

 そして岩の台に深い木の皿を用意して、レモンとヤシの実を一つずつ取り出すと、大きく深呼吸した。


「……はぁっ!」


 リエナは掛け声とともに、レモンを勢いよく握りつぶす。

 そして手刀でヤシの実を、綺麗に割ってみせた。


 俺はリエナの剛腕っぷりに、思わず目を丸くした。


 え? いつの間に、あんなに力持ちになってたの?

 エレヴァンから武術を学んでいたのは何度か目にしたが……


 それだけじゃない、リエナは水に氷魔法フリーズを掛けて、氷を作っている。

 フリーズについては、まだ一回しか教えていなかったはずだが…… 

 

 リエナは新たな体を得てから、新たなことに挑戦し続けているようであった。


 体か……


 俺は、生まれ変わったリエナの体をまじまじと見る。

 断じて、何かやましい心があるわけではない。

 前のちっちゃなゴブリンの時と、随分変わったよなと思い返しているだけだ。


 ……うん? そうか。ゴーレムも別に大きくなくたって良いよな?


 今まで見たゴーレムが大きすぎただけで、小さなゴーレムがいたっていいはずだ。


 人間ぐらいのサイズにすれば、剣や鎧もその分小さくできる。 

 マッパにミスリルを溶かさせて、新たな小さい防具を作るのだ。


 体が小さくなれば洞窟の中を動きやすくなるし、ミスリルを節約できる。

 浮いた分で、皆を守るための少し大きな盾を持たせても良いだろう。


「……よし、決まりだ!」


 インベントリにある偽心石は14個。

 そして魔導石は10個。

 

 魔導石を埋め込んだ10体のゴーレムは、さっきも言ったように洞窟の警備につかせる。


 残りの4体は最初に作ったゴーレムのように、外の警備でもさせるか。

 または洞窟で荷物を運ばせたりと、雑用もこなしてもらう。


 あとから改造できるし、とりあえずはこれで良いだろう。


 俺はまずは魔導石を使わない普通のゴーレムを、人間の大きさで作る。

 この前作った大きなゴーレムを一号としたら、二号から五号までの人間サイズがこのタイプ。

 

 そして六号から十五号を、魔導石を埋め込んだタイプにする。


 だが、最後の一つで、俺は少し待てよとなった。


 ちょっと遊んでみたくなったのだ。

 体を岩じゃなくて、ミスリルで作ったらどうだろうか?と。


 俺は、外にある鎧の他に、ミスリルがインベントリに900㎏あることを思い出す。

 とりあえず100㎏ぐらい使って作ってみるか。

 

 もちろん、ちゃんと有用性も見込める。


 キラーバードよりも強い外敵が来たときなど、何かと頼りになるだろう。

 決して、俺の考えた最強の人形などを作りたいわけじゃない。

 ……いや、正直に言えば遊び心ですが。


 まあ、改造できるということは、あとで岩に置き換えることもできるはずだし、まずは試しに作ってみよう。


 俺は偽心石とミスリルを組み合わせ、ゴーレムを作成しようとした。


 だが、ゴーレムは作成できなかった。

 代わりに、ミスリルゴーレムなるものが作成できるという。


 つまりはゴーレムのミスリル版ってことか。

 改造するとまた名前が変わったりするのだろうか?

 

 とにかく作ってみるとしよう。

 俺はミスリルゴーレム作成を命ずる。

 

 すると、俺の目の前に、銀色に輝く細い人型が現れた。


「おお……」


 思わず俺は声を漏らす。

 

 他のゴーレムと比べなめらかな曲線美を描くそれは、今まで見たどんな神像よりも美しかった。

 顔があるわけでもないのに厳かさを感じさせるのは、ミスリル自体の輝きが神秘的だからか。


 何か、思わず手を合わせて拝みたくなるな……って。


 すでにミスリルゴーレムの前で、何度も平伏する半裸の男……マッパがいた。


 マッパは今は見られない古代の礼拝法、五体投地を繰り返す。

 

 そしてそれが終わると、さも驚いたような顔で俺を見つめた。


 俺、何かしたかな……

 でも、マッパが驚くなんてなかなかないぞ。


 その後マッパは、俺がゴーレムたちの装備を作るよう命じる前に、ミスリルを金槌で叩くのであった。



 

 この時、近くの沖で海戦が起きていることを、俺たちは知る由もなかった。

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