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百五十六話 門を発見しました!

「ごちそうさまでした! ……さて、今日も行くぞ!」


 朝食を終えた俺は、気合いを入れるように言った。


「おう! 今日も掘るよ!!」


 フーレやタランもピッケルを掲げ立ち上がった。


 ぞろぞろと世界樹の下から、魔物たちが洞窟へと向かっていく。朝食後のこの時間は特に活気があると同時に、食器を片付ける者たちが忙しい時間でもある。


 それを統括するリエナに一言よろしく伝えるのが習慣となっている。地上で何か起きたときは、リエナとバリスが担当するわけだし。


「リエナに挨拶しとこう。前の触手のこともあるしな……って、うん?」


 俺は目を疑った。

 いつもは白いワンピースに身を包んでいるリエナが、今日は動きやすそうなオーバーオールを着ていた。


 リエナは少し恥ずかしそうに、俺のもとにやってくる。


「リエナ……それ、新しい服か?」

「は、はい! 変でしょうか?」

「いや、そんなことはないけど。似合っているよ」


 実際、可愛い。いつものふわりとした服もいいが、こういった体に合った服もリエナは似合う。いや、なんでも似合うのだ。


「あ、ありがとうございます……」

「……?」


 リエナは何かを言いたげだ。


 どっかでフーレと話していたことだが、女の子が服変えたらとりあえず褒めておけなんて聞いた。だから、褒めたのだが……似合っている、だけじゃあまりにも平凡な回答だったか。


 首を傾げていると、フーレが言う。


「ヒール様。服、服」

「え? 動きやすそうな服……まさか、リエナ。採掘に行きたいのか?」


 リエナはこくりと頷く。


「そ、そりゃ構わないけど。バリスは今日、地上にいると言っていたし。今のところ、差し迫った脅威もないし」


 それに戻ろうと思えば、マッパの鉄道がある。しかも転移石も。数分で戻ってこられる。


「でも、どうして? いや、俺は大歓迎だけど」

「そ、その、欲しい物がありまして……何か宝石を」

「宝石? それだったら、もういくらでも」

「自分で掘りたいのです。大切な人に捧げるもので……」

「そうだったか……そういうことなら、今日はジャンジャン宝石を掘ろう! フーレが宝石の出やすい場所を地図に起こしてくれているんだ。フーレ、案内頼めるか?」


 俺が言うと、フーレはニヤリ顔でリエナを見た。


「あー……なるほどねー。あたしゃ、行かないよ。地図を渡すから、姫と一緒に行ってきて。私、タランとちょっと攻めたい場所があるんだよね」

「そうか。そういうことなら、二人で行ってくるよ」

「うん! じゃあ、二人でごゆっくりー!」


 フーレはタランと一緒に手を振って、洞窟へと向かった。一瞬だが、リエナに向かって片目を閉じたのが見えた気がするが。


「明らかな目配せだな。なんだ……なんか企んでいるのか?」

「そ、そんなことないですよ! フーレが私のために、二人にしようだなんて! いや、その!」


 リエナは顔を真っ赤にして、口を抑えた。


 遠くから、あちゃーという顔をするフーレも見える。


「リエナは嘘を吐けないんだな……まあ、たまには二人で行こうじゃないか」


 リエナと話したいことがあった。

 今後のこと。もちろん島のこともだが、あの日の告白のことだ。


 琉金でリエナが自分の昔の姿を見せてくれた時のこと。

 俺は自分の気持ちを抑えられず、リエナに好きだと告げた。


 あの続き、そろそろ結婚を切り出してもいいんじゃないか……と思うわけだ。


 最初は別に何も恥ずかしくなかったが、そんなことを考えると途端に頭が熱くなってきた。変に身構えている気がする。いかん、自然体だ。


 俺たちは鉄道……鉄の馬車に乗り込む。


「り、リエナ。そういえば、俺がいないときに変わったことはあったか?」

「はい! 昨夜ですが、ゴブリンとオークのカップルができて! 結婚するようです! 結婚……結婚です……」


 途中から、リエナはごにょごにょと言った。顔が赤い。調子でも悪いのだろうか。


「だ、大丈夫? 熱とかない?」

「だ、大丈夫です!」

「そ、そう。しかし、結婚か……」


 結婚といえば俺たちも……と、切り出す絶好のチャンスかもしれない。


 が、その時だった。


 馬車が突然止まってしまう。


 どうやら地図で宝石が多く取れる場所に、運転手が止めてくれたようだ。


「到着です、ヒール様!」

「あ、ありがとう」


 俺は運転手に言い残し、馬車を降りた。


 ううむ。言いにくくなってしまった。でも……それよりも。


「ゴブリンとオークが結婚か。反対する者はいなかったのか?」

「いいえ。こんな島ですから。私も皆も歓迎しました。盛大に、結婚式をやろうと」

「そうだったか。俺も精一杯祝おう」


 異種族間の結婚となると、誰か意を唱えると思った。

 しかし、それは人間の価値観なのかもしれない。


 だが、リエナは真剣な顔で言う。


「昔では考えられなかったことです。これも、ヒール様とこの島のおかげですね」

「俺は別に……」

「いえ、ここに来なければ、彼らは結ばれなかった。ヒール様と出会わなければ」

「そ、そうかな……」


 少し照れくさい気持ちになるが、確かにこの島だからそうなったのかもしれない。


 事実、俺はリエナを好きになり、リエナと結婚しようと願っている。


「最初は……こうしてピッケルを振るうところから始めたんだよな。寝る場所を作ろうって」


 俺は思い出すように言って、ピッケルを振り始めた。


「私たちが最初に会ったときも、ヒール様はピッケルをお持ちでしたもんね。あの時のヒール様は、失礼ですけど……」

「怖く見えたか? いや、今もたまにそんな顔をしているらしいから、気を付けないと」

「ふふ。寝食を忘れて掘っていれば、誰でもそうなりますよ」

「ああ。だけど、リエナが美味しい物作ってくれたからな。リエナが来たおかげで俺は色々救われた。だからリエナ……」


 喉まで出かけている言葉を俺は続けようとする。

 一言、結婚しようと。


 だが、その時だった。


 振ったピッケルが、突如何かに止められる。


「え? これは……」


 岩が崩れきると、目の前に金色の壁が見えてきた。

 これは以前ワイナリーを掘り当てた時にも見た……つまりオリハルコンの壁だ。


 シエルの報告では、まだ未発見の施設があるだろうとは言っていた。ほぼ隕石で失われただろうとのことだったが。


「この向こうに何かしらの施設があるみたいだ……魔力の反応はないから、このまま開けてみるよ」

「はい! 私がシールドを展開します」

「ああ、頼む」


 俺はリエナに防御を任せ、ピッケルを振った。


 すると、オリハルコンの壁は崩れ……


「……ここは?」


 目の前には、神殿のような場所が。


 最奥には、巨大な門が鎮座しているのだった。

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