百三十九話 帰りました!
父たちが島にやってきた翌朝、王国の者たちは帰還のため船に乗り込んでいた。
別れの際、リエナが父とバルパスに言う。
「もっとゆっくりなさっていっても」
「い、いや、俺たちにもやることがあるからさ」
そう答えるバルパスは何かから目を必死に逸らしていた。
俺とリエナの後ろで手を振るマッチャとなるべく目を合わせたくないのかもしれない。
だがそれ以上に、父が一刻も早く大陸に帰りたいのは、あの予言のせいだろう。
いずれ世界が終わる。そしてシェオールだけが助かるという予言……
にわかには信じがたいが、【洞窟王】を持つ俺が君臨するということまでは当たっている。
一国の王としては万が一も考え、災厄に備えたいのだろう。
俺は父たちに言う。
「俺にできることがあれば……王国の民の力になります」
「その言葉、頼りにさせてもらうぜ。大使のほうは、また追って派遣する。そちらも誰か選んでおいてくれ」
「分かりました。なるべく、この島の現状に理解のある方が好ましいのですが」
「そこらへんは任せておけ。それじゃあな」
そういってバルパスは船に戻ろうとした。父もそれを追おうとする。
だがその時、リエナが父に声をかけた。
「陛下。昨日、お伺いしたことですが」
昨日、オレンと会った後、リエナは何やら父と話し込んでいた。
何かを質問したのだろう。
父は答える。
「何度も言うが、我とヒールはもはや対等な君主。ヒールのことは、我の関与するところではない」
「しかし……やはりお父上ですし」
「……では、リエナよ。もし我が反対したら、そなたはどうする?」
「そ、それは」
「諦めぬであろう? ならば、我のことなど気にしても仕方ない」
リエナはコクリと頷いた。
何を話してたのかな……たいしたことじゃなさそうだけど。
父は独り言のように呟く。
「まあ、我も孫の顔は見たいが……バルパス、あの者は連れて行かなくてよいのか?」
リエナが顔を明るくする中、父の視線はバルパスに手を振るマッチャに向けられている。
「結構だ……」
バルパスはきっぱりとそう断って、父と船に乗り込もうとした。
しかし最終的には、マッチャから強引にキスをされてしまい、逃げるように船室へ駆けこんだ。
このままではついていきそうなマッチャだったが、それをマッパがなんとか桟橋へと引き戻す。
そうして船はシェオールを発った。
水平線の向こうに船が消えるのを見て、俺はほっと息を吐く。
「はあ……とりあえずは王国と争わなくて済んだな」
「本当によかったです……ヒール様の争いたくないというお気持ちが、お二人にも通じたのでしょうね」
リエナは俺の隣でそう呟いた。
するとバリスが言う。
「ただ、予言のことは気になりますな。今後、その予言が的中していけば、お父上や王国の態度も……」
王国が大きな被害を受ければ、今後の俺たちに対する態度も変わるかもしれないということか。
それだけじゃない。世界規模で何かが起きれば、他の国とだってどうなるか分からない。
「バリスの言う通りだな。これからも気を引き締めていこう」
俺は気持ちを新たに……これからも採掘に勤しむことにした。
ただ自分のため、というわけじゃない。世界の終わりとやらが訪れるのなら、色々と準備をしておく必要がある。この島の皆だけじゃなく、島の外の者たちを助けるためにも。
そんなことは不可能だろうか?
いや。シェオールだけは難を逃れられる。つまり、裏を返せば……
──俺はこれからも、掘って掘って、掘りまくるんだ。
俺はその後、ピッケルを持って、地下へと行くのだった。




