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「……ナナの演技力で何とかしてちょうだい」
「ムリでしょ」
「二十歳過ぎても中学生役を演じる役者もいるのよ。ナナなら3歳差しか無いんだから、大丈夫」
まぁ、中高生を大人の役者が演じてる作品はよくみるけど、逆はあまりないんじゃないかなぁ。
成人している役者を中学生役にするのと、小学生を中学生役にするのは、どちらがマシなのだろうか。
*
「ナナちゃん、おひさー」
「いや、一昨日会ったじゃないですか。というか髪切ったんですね」
再来週になり、ドラマの顔合わせに伺ったら、もみじさんがいた。一昨日、ウチで演技のレッスンをしていたので二日ぶりだ。そういえばドラマの出演が決まったからと、熱心にレッスンをしていたのはこのせいか。
それにツインテールにしていた髪をバッサリと切って、肩にかからないくらいのショートカットにしている。ツインテールも似合っていたけど、ショートのもみじさんも新鮮だ。
「うん、役に合わせよかと思ってねー。……ツインテールって歳でもないしさ」
「へー、教師役とかですか?」
「あははー、あたしも生徒役だよ。というか分かっていて聞いてないかな? かな?」
なんとなく察していたけど、とある学園都市の教師みたいな例もあるしね。いきなり生徒役と決めつけるよりはいいかなーと思ったんだけど。もみじさんは年齢的には教師役でも問題ないが、見た目が中学生なのだ。
会議室を見わたすと今回のキャストは低年齢で固めているようで、もみじさん以外は小学生の子役になっている。共演者が大人だらけだったらどうしようかと思ってたけど、私だけが浮くことはなさそうで良かった。
ちなみに、もみじさんは小学生のなかに馴染んでいる。
「じゃあ、誰役なんです?」
「月島涼ちゃん役だよん」
そう言ってサムズアップを決めるもみじさんは、黙っていれば美少女だ。ショートカットにスレンダーな体型、都会的でおしゃれな月島涼役にはぴったりだろう。
「ナナちゃんはやっぱりメインヒロイン?」
「いえ、柏木春香役です」
そう私が告げると、もみじさんの視線が少し下に向く。そこにはパッドで盛った私の胸があった。
「……盛ってる?」
「役作りです」
私が演じる『柏木春香』は、元気がとりえの我が道を行くタイプ、そして抜群のプロポーションを誇るお色気担当のサブヒロインだ。
だから巨乳レベルにしようと盛りにもってみたけど篠崎さんから半笑いでとめられて、今はB程度の盛りにしてある。無よりはマシだろう。
何故かもみじさんが慰めるように私の肩に手をおいて頷いている。
「いや、私は発展途上なだけでひんにゅ、おぶっ!?」
「お姉さまっ!」
もみじさんに抗議をしようとしたら、横から勢いよく抱きつかれて肺から空気がもれる。そのまま力強くハグしてきた美少女が見上げて、
「また共演できるなんて、まゆゆ感激です!」
と、目を潤ませながら頬ずりしてくるのは、浅野真由ちゃん。ドラマの『僕と君でmoderato』で主人公役をやっていた子だ。私が美麗役の演技で泣かしてしまっていたので、慰めるうちに何故か異様になつかれていた。
数ヶ月ほど前にも映画の『ボクキミ』2部の撮影をやっていたので、これで共演するのは4回目である。公開はそろそろだったかな?
「ま、真由ちゃんも出演するんだね」
「はいっ! こんなに共演が重なるなんて、やっぱりお姉さまとまゆゆは赤い糸で結ばれてるんですね!」
顔が近いし、息が荒い、目が少しイってる。美少女に抱きつかれるのはやぶさかではないのだけど、この娘の場合は捕食されそうな感じがして、怖い。
「わ、私も嬉しいんだけど、抱きつくのをやめてくれたらもっと嬉し……いえ、なんでもないです」
やんわりと離れるよう言ってみたら、感情が抜け落ちような目で見つめられたので、慌ててハグしなおした。強引に引き剥がすこともできるけど、後で刺されそうな気がするから、しばらくこのままにしておこう。私からハグしなおしたら、真由ちゃんはご満悦な顔をしている。
「やあ、ナナちゃん、また一緒だね」
真由ちゃんと強制イチャイチャしていると、私より頭一つぶん背の高いイケメン男子が話しかけてきた。2歳上の小6で、大翔と同じアイドルグループのリーダー、山田一くん。『僕と君でmoderato』で帝王の親友役を演じていたので、真由ちゃんと同じく共演するのは4回目だ。
「山田くんも一緒なんだ、よろしくね」
「いや、雪白だから」
名前を間違えた。いや、間違ってはいないんだけど、山田くんは『COLORFUL』を結成したさいに、本名から雪白一路という芸名に変えたんだ。
イケメンだけど微妙に老けた苦労性な顔をしているので、雪白という芸名が似合ってない。それに初対面の時から山田くんと呼んでいるし、雪白と呼ぶのは抵抗がある。
ちなみに、大翔が所属しているアイドルユニットの『COLORFUL』は5人グループで、みな苗字に色をもじった芸名をつけている。大翔だけは元から黒谷という本名のままだけど。
「山田くんは誰役なの?」
「だから雪白……はぁ、もういいや。僕は主人公役だよ」
「まゆゆは高瀬優里役です、お姉さま」
「うひゃひゃ」
疲れたように山田くんがそう言うと、真由ちゃんが耳元で囁いてきて耳たぶを甘噛みしてるくる。不意打ちに思わず変な声が出たので、流石に強引に引きはがして小言をいう。
「いやいや、公衆の面前でそれはNGだよ」
「二人きりならいいの?」
「ダメです」
艶のある甘えた声でおねだりしてきても不許可だ。というか、真由ちゃんが会うたびにヤバイ方向に加速してるんだけど、誰が教えてるんだろう。
「それにしても、真由ちゃんがメインヒロインだったんだ。よろしくね」
「はい、よろしくです、お姉さま♪」
お姉さま呼びはやめて欲しいんだけど、いくら言っても聞いてくれないので、もう諦めている。真由ちゃんの方が歳はひとつ上なんだけどね。小柄だから私の方が若干背が高いくらいだけど。
真由ちゃん演じる『高瀬優里』はメインヒロインで、大和撫子然としたお嬢さま役。
そして『未来の君に、さよなら』は、3人のヒロインが主人公に想いを寄せる、ラブコメディでヒューマンドラマだ。
「よかったじゃん山田くん、ハーレムだよ」
「あまり嬉しくないのは、なんでだろうね」
そう言って、山田くんが疲れたように苦笑いしている。
なんでや、美少女に囲まれて嬉しいやろ、と思って両脇を見ると『ガチレズのヤンデレ』『一回り年上の合法ロリ』、そして『中身がおっさん』の私。
うん、地雷しかいない。
「もみじさん、山田くんがこんなこと言ってますけど、処します?」
「いやー、流石に小学生には興味ないかな。あたしは筋肉質な年上が好みだし」
「私も、お姉さま以外はどうでもいいです」
もみじさんの好みは年上のようだ。そうえいばプロフィールの趣味にプロレス鑑賞と書いてあった気がする。マッスル系が好きなのかな。
そして、真由ちゃんが手を恋人つなぎしてきて、より体を密着させてくる。引きはがそうとすると、よけいに密着してきて悪化するので好きにさせておこう。
「そうだ、ナナちゃん。うちの事務所から起用された奴を紹介するよ」
山田くんがそう言うと、少し離れたところから遠巻きに見ていた男の子に手招きする。
「知ってるかもしれないけど、『COLORFUL』のメンバーの赤城。ほら、挨拶」
「リーダーの親友役になりました、赤城大河です。よろしくお願いします!」
よく躾けられた子犬のように機敏に走ってくると、赤い半袖を着た男の子が元気よく挨拶する。山田くんのように擦れて疲れた中年みたいな小学生ではなく、活発で素直そうな子だ。
出会った当初の真由ちゃんや山田くんを思い出す。昔は純粋な子供だったのに、どうして擦れてしまうのか。
「先輩方のドラマで、端役や脇役は何度かやってるんだけど、メインキャストは初めてだからさ、面倒みてあげてよナナちゃん」
「頑張りますので、よろしくお願いしますっ!」
「よ、よろしくね?」
なんで私が? と思ったけど、元気よく綺麗におじぎしてくる赤城くんに圧されて、つい了承してしまう。山田がリーダーなら自分で面倒みろやと目で訴えても、ニコニコと微笑んでいるだけだ。
「分からないことがあったら、何でもナナちゃんに聞いていいから」
「うすっ! ナナさんに迷惑かけないよう頑張ります!」
山田が丸投げしてくるけど、やっぱり大手事務所の子は礼儀正しいね。事務所で厳しく躾けられるから、あまりやんちゃな子はいないんだけど、人気が出ると増長する子も出てくる。
人気があるうちはそれでもいいけど、下火になったらすぐ干されるから、共演者やスタッフさん達との人間関係を良好にしておくに越したことはない。
「よし、じゃあ赤城くん、本読みでも始めようか」
「うすっ!」
『未来の君に、さよなら』のメインキャストはこの5人。
さまざまな障害を抱えた5人が、互いに協力して望む未来を手に入れようとするストーリーだ。
前もって渡されていた台本をトートバッグからとりだして、めくると一話目の柱とト書き、セリフが書かれている。いざ、読もうとしたら、
「ナナちゃーん、本読みは後で別室でやるから、まずは説明から始めるから静かにしてね」
「あ、はい」
そういえば顔合わせだった。
プロデューサーさん、ディレクター、脚本家、そして各パートのスタッフさん達と、キャストが決まっている役者が勢ぞろいして、ドラマのコンセプトや意気込みを語りながら、お互いに挨拶をしあう場だ。
壇上のプロデューサーさんから注意された私は、すごすごと台本をトートバッグにしまって椅子に座ると、隣でもみじさんがプーックスクスと笑っている。ぐぬぬと、もみじさんをにらんでいたら、真由ちゃんに優しく慰められた。
真由ちゃんええ子や……あまり邪険にしないで優しくしようと思っていたら、するりと服の下に手を入れてくるので、手を捻り、関節を極めたままプロデューサーさんの話を聞くことにした。




