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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第1章 扉の先の世界へ

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第22話 言葉の違い

 マイホームにやってきて半日ほど。

 ソフィアにあちらの世界についての話を聞いたり、ソフィアが持ち運んでいた紙に包まれた携帯食料のおすそ分けをもらったりして俺は過ごしていた。


 初めて食べた四角いクッキーみたいな携帯食料は、うん、なんだろうな。硬くて、ぼそぼそとしていて、若干酸っぱいなんとも言いにくい味をしていた。

 食べ物を実際に口に運ぶのが初めての俺としては、人間はこんなもんを食べているのか。あんまり食べ物ってうまくないんだな。なんて思っていたんだが、渋い表情で黙々と携帯食料を口に運び水で流しこむソフィアの表情からして、これ自体が美味しいものじゃないんだろう。


 いつか美味しいものでも食べる機会がくればいいな。などと期待を抱きながらソフィアの食べる様子を眺めていた俺の耳に「う、んっ」といううめき声が届く。


「ミア!」


 咥えていた携帯食料をぺいっと放り捨て、ソフィアがミアのもとへ駆けていく。

 打ち捨てられた携帯食料が哀愁を放ちながら床に転がっているが、まあ床が汚れているわけじゃないし、運が良ければ後で食べてもらえるだろと気休めの思いを投げかけて俺も後を追った。


「ミアッ、ミア」

「……ソフィー、良かった」


 膝枕をされたミアが、ぼんやりとした瞳で泣きじゃくるソフィアの顔を見上げてほほ笑む。

 それに対してなんども、うん、うんとうなずいて返すソフィアの姿を見れば、どれだけ2人が思いあっているかは、知り合って間もない俺にもよく伝わった。


「ここは?」

「安全な場所。ピクトさんが連れてきてくれたんだ」

「ピクトさん?」


 ソフィアが俺に視線を向け、それにつられてミアが俺の方を向く。

 とりあえず人畜無害をアピールするために手を振ってみたが、ミアの瞳はスッと鋭く細められた。

 いや、別にミアに対して悪いことしたつもりはないんだが、なんか嫌われてんなぁ。


 俺がいることを認識したからか、頭を振りながらミアがその身を起こす。

 そして周囲を見回し、一面の緑の空間とそこに転がるゴブリンやキングボアの姿に耳をピンと立てた。


「危険はないんだな?」

「うん。今のところ」

「たぶんな。扉から何かが入ってくる可能性は0とは言えないけど、限りなく低いと思ってくれていい」

「ソフィー?」

「扉からは何も入ってこないはずだって」

「そうか」


 ソフィアの言葉を聞き、わずかにだがミアが警戒心を緩める。しかしそのやり取りに俺は違和感を覚えずにいられなかった。

 なんでミアは俺の言葉を聞いたのにも関わらず、ソフィアに改めて聞き直したんだ?

 内容的に別に難しいことを言ったわけでもないし、ソフィアの言ったことだって俺と大して変わりない。それなのにミアはわざわざソフィアに聞きなおした。そこから導き出される結論は……


「もしかして、俺の言葉ってミアにはわからないのか?」

「今度はなんだって?」

「自分の言葉がミアには理解できないのか? だって」


 今のやり取りで俺の推測は確信になった。ミアは俺の言葉が理解できていない。

 ミアに向かってなんらかの言語らしきものを発しているのはわかっているが、その言葉の内容まで理解できないのだ。


 英語を知らない人が、通りがかりの外国人に英語で道を尋ねられたときみたいなもんだ。なんらかの意図をもって話しているんだろうとはわかるが、その意図を理解できない状態というわけだな。

 いや、まあ世界が違うんだし言語体系がそもそも違うからミアの反応が普通なんだが、ならなんでソフィアとは話が通じたんだ?

 腕を組んで考え込む俺に、ミアと視線を合わせてうなずきあったソフィアが向き直る。


「私は生まれながらに少し特殊な能力を持っていて、言葉が聞こえるんです」

「言葉?」

「例えば他の人にはただの鳥のさえずりにしか聞こえないものが、私には意味のある言葉として聞こえるんです。鳥だけではなく、犬や猫、モンスターなども。もちろん聞こうと意識すればですが」

「えーっと、妄想とかじゃなく?」

「妄想だったらピクトさんとこんなに会話が続くと思いますか?」

「そりゃそうだな」


 普通に考えれば妄想だと笑うところだが、ミアの様子とこれまでのソフィアとの会話のスムーズさを考えれば疑う余地はない。

 そんなことありえないだろと思わないでもないが、ここは魔法がある世界だしそのくらいのことが起きたとしても不思議ではないのか。


 うーん、見た目は同じ人間っぽいが脳の構造とかに違いがあるのかもな。もしくは地球の人類より脳の機能が拡張して使用されているとか。うん、興味深い。

 いや、ちょっと待て。それよりも大変なことがあるぞ。


「ということは、俺がまともに話せるのはソフィアだけってことか!?」

「ピクトさんがヨウツキ語を話せないのであればそうなりますね」

「今ソフィアたちが話しているのがヨウツキ語だよな。それがこの国の公用語なのか?」

「この国というより、イロス大陸の共通語です。大昔にこの大陸を統一した国があり、言語の統一化されたと伝えられています。私も本で読んだだけですが」

「へー、面白いな」


 統一された国によって旧言語が廃されたわけか。

 たしかに言語の違いは国を分断するし、政策や事業、商工などにおいて言語が共通化されることのメリットは大きいだろう。

 以前の言語が完全に消え失せていることを考えれば、その国の統治はそれなりに長い期間続いたはずだ。おそらく言語を教育する施策などもされたんだろうし、かなりの大国だったんだろうな。


 いや、そんな国について考えている場合じゃねえよ。

 はっきり言って、これはかなりピンチだ。相手の言葉はなぜか聞き取れているから問題はないが、俺の言葉が伝わらないんじゃコミュニケーションの取りようがない。

 俺の得意のジェスチャーで伝えるという案も最悪あるが、ソフィアが言ったようにモンスターと思われたら悠長に俺の動きを見てくれる奴なんているはずがないしな。


 たまたま出会って助けた相手が、俺とコミュニケーションをとれるソフィアだったってのが奇跡だったわけだ。

 もしそうじゃなかったら、新手のモンスターと勘違いされて攻撃されていたかもしれないわけか。

 剣で真っ二つにされる自分の姿を想像し、嫌な汗を流しながら固まる俺をミアはじっと見つめていた。


「なんというか、理知的なんだな。お前は。全然モンスターらしくない」

「いや、そもそもモンスターじゃねえし。見てくれはこんなんだが、一応人のために生み出されたんだぞ」

「モンスターじゃない。人のためにピクトさんは生み出されたんだって」

「人のために生み出された……古代に使役されたというオートマタのようなものか?」

「へー、オートマタなんているんだな。さすが異世界。ロボット技術も真っ青な……んっ、それでいいじゃん」


 舞い降りてきたアイディアに俺は思わず手を叩く。

 俺も地球の空想の話でしか知らないが、オートマタと言えば地球の人型ロボットと同じようなコンセプトで製造された人形のはずだ。もちろん違うものもあるんだろうが、それはこの際無視しよう。

 ここで重要なのは、この世界において人のために生み出された俺と同じような存在であるということと……


「なあソフィア。オートマタって見たことあるか?」

「いえ、有名なおとぎ話に脇役として出てくるのでオートマタの存在を知っている人は多いですが、実物を見たという話は聞いたことはありません。ミアもオートマタを見たなんて話は聞いたことがないよね」

「ああ。もしそんな奴がいても、ほら話と笑い飛ばされるだろうな」

「よし!」


 これはめちゃくちゃ好都合だ。

 存在は広く知られているのに、その姿は誰も見たことがない。

 つまり仮に俺がオートマタだと偽ったとしても、それを否定することのできる奴はいないってことになる。


 研究者のような奴がいたとしても、過去全てのオートマタを知っているなんてことはありえない。偏屈な変わり者が造った個性的なオートマタ。そんなものがないなんて絶対に言えないんだから。

 となればやることは1つだ。


「ソフィア、ミア。命の恩人である俺からのお願いだ。俺をオートマタとして連れて行ってくれ。少なくともこの世界で必要なものを習得したり集めたりするまで」

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

少しでも更新が楽しみ、と思っていただけるのであれば評価、ブクマ、いいねなどをしていただけると非常にモチベーションが上がります。

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