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ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜  作者: ジルコ
第1章 扉の先の世界へ

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第19話 マイホームへの招待

 俺に手招きされたソフィーが、私? と自分を指さして確認してくる。いや、君以外誰もおらんやん。

 こくりと俺がうなずくと、膨らんでいた頬を萎れさせながらソフィーが近づいてくる。


「とりあえずこの中は安全だから入ってくれ」

「どこに続いているんですか?」

「んー、俺の家?」

「なんで疑問形なんですか」


 緑のカーテンで扉の奥は見えない。見えるべき向こう側の景色が見えていないせいでソフィーの警戒心はマックスだ。

 この扉の先はたぶん俺の家なんだが、まだ2回しか行き来していないことを考えれば可能性は100%とは言い難い。

 そう考えての発言だったんだが、それがいらぬ不安を与えてしまった可能性はあるな。うん、失敗、失敗。


「まあ少なくともここよりは安全だから、たぶん」

「たぶん!?」

「いや、安全、安全。とりあえずミアをゆっくり休ませてやるんだろ。俺がミアを連れて行くから先に入っていてくれ」

「ミアを……そうですね、わかりました。ミアをお願いします」


 ソフィーは地面に横たわるミアの姿を心配そうに眺め、キュッと口元を引き締めると俺に向かって深々と頭を下げる。

 よほどミアのことが大事なんだろう。本当なら自分が運びたいんだろうが、体格差もあって難しいだろうしな。


 顔を上げたソフィーはそのまま扉の緑のカーテンの前まで進んで立ち止まると、キュッと目を閉じて勢いよく奥へ飛び込み、そしてその姿が完全に見えなくなる。

 扉の向こう側に現れている様子もないし、おそらくマイホームに行くことが出来たんだろう。

 うーん、扉さえ開いていれば俺じゃなくてもマイホームに行けるのか。良いか悪いか判断に迷うところだな。おっと、考え事は後にしとこう。


「さて、と。じゃあ俺もミアを連れて……あー、こいつらどうするかな」


 ソフィーが心配するだろうし、さっさとミアを連れて行こうと思ったんだが周囲に転がるイノシシやゴブリンたちを見て動きが止まる。

 前回と同じと考えれば、次にマイホームから出るときはこの場所に戻ってくるはずだ。

 ミアの回復にどのくらいかかるかはわからないが、少なくともすぐではないだろう。


 この世界の生き物の腐る期間はよくわからないが、肉が落ちていればなにかしらの生き物が漁りに来るのは予想に難くない。

 そんな奴らがうじゃうじゃと集っているときに俺たちが戻ってきたりしたら、今回よりもひどい事態が起こる可能性もないとは言えない。


「マイホームが汚れるのは嫌だが、仕方ないか」


 はぁ、とため息をついて決断を下すと、扉の一番近くにいたイノシシの尻尾を扉に突っ込みマイホームに送る。そして周囲を回ってミアや俺が倒したゴブリンたちを次々と中に放り込んでいった。

 まあ中の整理はミアが回復するまでに適当にすればいいだろ。掃除は……まあ掃除道具が手に入ったらどうにかする方向で。


「しかし、迷いが全くないな」


 ミアによって真っ二つに斬られたゴブリンをぶら下げながら苦笑する。ぽたりと地面に緑の血が落ちるが、もうほぼ出きってしまっているためその頻度は高くない。

 うん、まごうことなき緑だな。人間の場合、血に多く含まれる赤血球が鉄とタンパク質でできているから赤色の血になるんだが、緑の血の主成分はなんなんだ?

 酸素と結合して緑になる物質としてすぐに思いつくのは銅だが……


「いや、酸素を運んでいるとは限らないのか? さすが異世界、不確定要素が多すぎて予想すらつかないぜ」


 検証するならどうやってするんだろうな、などと思考を飛ばしかけていた俺の耳にポトっという地面に物が落ちる音が届く。

 そちらへ視線を向けてみると、緑の血をうっすらとまとったビー玉くらいの丸い石が地面に転がっていた。


「胃石か?」


 胃石は、動物が食べ物の消化を助けるために飲み込んだ石のことだ。胃の中とかで石がこすれて食べたものが砕かれるって寸法だ。確か水生生物の場合は重しに使っていることもあったんだったかな?

 胃石の代表的な例で言えば焼き鳥などでおなじみの砂肝だろう。鶏のこの器官には砂や小石などが詰まっており、それで食べたものを細かくすり潰している。


 歯を増やせばいいような気もするが、そうすると細かくかみ砕くのに時間がかかるからそういう進化を遂げたのかもな。食べるのに時間をかけられるのは強者だけってやつだ。

 うん、生き物って面白いよな。いや、そんな砂とか貯めている器官をわざわざ食べようとする人間もそうとう面白いが。

 ゴブリンもそういった生態をしているのかもしれない。ちょっと後でソフィーにゴブリンについて詳しく聞いてみよう。


 仮称胃石をひょいと拾い、持っていたゴブリンを適当に扉に放り込んで周囲を見回す。

 イノシシのせいでかなり森が荒れ、周辺の木はバキバキに折られて空が開けてしまっているが、それでも視界の先に広がるのは森以外にない。ソフィーたちの荷物っぽいリュックとかもついでに中に入れたし忘れ物もないだろ。

 上空から見ればわかりやすいかもしれないが、崖の上から見えた広大な森に比べればこの程度の被害は小さい。普通に森を歩いている程度じゃわからないだろうな。


「さて片付けも終わったし、ソフィーも待ってるだろうから行くか」


 気絶しているミアを背負うと、「う、んっ」と小さくうめき声をあげたが目を覚ます様子はない。

 とはいえ今にも死にそうって感じはしないし、まあなんとかなるだろ。

 普通に地球だったら出血多量で死亡か昏睡状態になるくらいの怪我だったと思うんだがあの魔法はすごいな。ぜひとも教えてほしいもんだ。


 そんなことを考えながら扉へ近づき、ミアが落ちないように体を曲げて片手のみでミアを支える。そしてドアノブに手をかけると、中に入りながら後ろ手で扉を閉めた。

 緑のカーテンを抜けた先は、相変わらず緑一色のマイホームだ。まあ新たなお客さんとしてイノシシ1体とゴブリン10数体の団体さんが増えたが、そいつらは無口だからうるさくなることはない。


「あれっ、ソフィーがいない?」


 本当のお客さんであるソフィーは、俺というかミアが来るのを入口で待っていると思っていた。俺が片付けでちんたらしていたから、ご機嫌斜めかもと思ってたんだが、その姿がどこにもない。

 とりあえずミアを床に寝かせ、周囲を見回してみたが前からいたクマとイノシシは以前のままであり、扉の近くに新たにイノシシとゴブリンが鎮座している。

 どこに行ったんだ? と疑問符を浮かべながら歩きだした俺の頭に嫌な予感がよぎる。


「もしかして俺と一緒に入らないと別の場所に飛ばされるとか?」


 おんぶしてきたミアがここには入れたことを考えれば、俺以外の生き物でもマイホームに入ることが出来るという事実に疑いはない。

 しかしあの扉は、突然何もない空間から現れたり、イノシシの突撃でも傷一つつかなかったりする正体不明の存在なのだ。

 正直に言ってなにが起こるかわからない。入る人によって扉の先が違うという可能性は捨てきれなかった。


「くそっ、全く考えてなかった。先に行かせるんじゃなくて俺も一緒に入るべきだったか」


 ちらりと床で寝るミアに視線をやり、がりがりと頭をかく。

 先ほどまでの様子からしてソフィーとミアの間にはただの仲間以上の強い絆があるように思えた。

 ミアが起きたときにソフィーがどこに行ったかわからないなんてことになったら……


「あいつらと同じ目にあわないとも……んっ?」


 ミアによってバラバラにされたゴブリンたちに、未来の自分の姿を重ねてしまいブルブルしていると、その奥になにか黒い筋のようなものがわずかに見えた。

 もしかしてという希望を込めて俺が回り込むと、ゴブリンとイノシシの死骸に隠れるようにして床に倒れているソフィーの姿がそこにはあった。


 どこかに行ったわけじゃなかったとほっとすると同時に、倒れるなんてなにか非常事態でも起きたか? とソフィーに駆けよる。

 正座を崩して上半身だけを後ろに倒したような妙な形で倒れてはいるものの、ソフィーの呼吸は安定しており、苦しそうな様子も見えない。

 とりあえず緊急事態ではないと判断していいだろう。


「ふぅ、焦ったー」


 なんとか右半身と左半身がお別れにならずに済みそうだ。

 安堵のため息を吐いた俺は、どっかりと床に腰を下ろす。その瞬間、パキッという何かが割れるような音が自分の尻の下から響いた。


「なんだ?」


 体を傾けて尻を半分あげてみると、そこにあったのは粉々に砕かれた石のようなものだった。

 少し緑の液体の残ったそれは、先ほどまで俺が持っていたはずのゴブリンの胃石だった。


「あー、やっちまったな。でも胃石なら他のゴブリンも持って……んっ、これは?」


 胃石ならまた探せばいいや、と考える俺の目の前で粉々に砕けた石のかけらが光を放ちながら宙に消えていく。

 一度見れば忘れないこの不可思議な光景は、スライムの核を潰したときと同じものだ。


「もしかして」


 立ち上る光が尽きたその瞬間、観察する俺の目の前に突如として現れたカードはそのまま床に落下し、小さな音を立てながら着地したのだった。

お読みいただきありがとうございます。


現在新連載ということで毎日投稿を頑張っています。

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