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嫌われ者の俺がいじめを救い、学校のヒーローになるようです。  作者: 松竹梅竹松
第1章 いじめ

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第1章 第5話 変身

「あはははは! やっぱあいつ来ないねー!」

「このまま一生来なきゃいいのに!」



 昼休み。廊下にまで聞こえてくる雑音が耳を突いてくる。



「ちょっとかわいいからって調子に乗りすぎなんだよ!」



 それにしても一つも掠りもしない悪口だな。



「お前はめちゃくちゃかわいいのにな」

「……先輩が言うのならそうなんでしょうね」



 全ての準備は済んだ。後は実行するだけ。



「いけるな、千堂」

「はい。……ああでも、一つだけ謝りたいことが」



 見送る直前、千堂が俺の顔を振り返る。かわいい顔の上にかわいくなるための化粧(どりょく)を重ねた顔で。



「私、百井さんの真似はしません。だってもっと、かっこよく勝てる人を知っていますから」

「……お前のやりたいことをやってこい。駄目だったら俺がサポートしてやる」

「はいっ」



 千堂の背を押し送り出す。もう何の心配もいらない。その背中には自信と覚悟が満ち溢れているから。



「遅れました」



 その一言で、悪口と陰口で騒々しかった教室が静寂に包まれる。本物のを見た時、人はこう言うのだ。息を呑むと。



 ベースは百井。セミロングの茶髪に、ややきつめのメイク。スカートを折ってリボンを取り、ボタンを開けただけの着崩し方。でもやりすぎたかな、これじゃあ比較になっていない。



 髪の長さは同程度だが、毛先はウェーブさせてふんわり感を演出。モカブラウンの髪色は千堂が持つフェミニンさを際立たせている。



 化粧は摩耶曰く、やりがいがなかったそうだ。素がいいからそれを活かす方向にしたらしい。薄いファンデーションでより透明感を出し、アイシャドウは元々目がくっきりしていたことから奥行を出す程度に留めた。表情豊かな顔を印象付ける眉毛は丸くふわっとした仕上がりで、リップはシアーカラーで潤いを出している。



 制服はリボンの代わりにネクタイを着け、他者と差をつけた。だが固くなり過ぎないように緩め、ボタンも開けさせた。脚は長くないのでそこまで折らず、シルエットを自然な形にしている。



 百井のような、ただ上に行くためだけの姿ではない。あくまでも自然に、千堂自身の魅力を活かした、誰よりもかわいい姿に変身した。



「そこ、私の席なんだけど」



 千堂の席に腰掛けていた取り巻きの一人を正面から見つめる。背丈は千堂の方が低く、見上げる形になっている。だがその迫力に負け、取り巻きは「ご、ごめん……」と謝りながら腰を浮かせた。



「ゴミも片づけて」

「はい……」



 次いでパンの袋が散らかっていた机を掃除するよう指示し、千堂は脚を組む。その動作は何の演技感もない。まるで他人を使うのが当たり前の立場のようだ。



「あんたじゃなくてさ、百井。あんたがやりなよ」

「……あ?」



 急いでゴミを片そうとした取り巻きを制止し、千堂は横の席の百井に顔だけ向ける。



「あんたがこのグループのリーダーなんでしょ? 責任くらい取りなよ。お山の大将気取ってないでさ」

「……なに調子乗ってんの、いじめられっこが!」



 立ち上がった百井が机を蹴って威圧するが、千堂は一つも動揺を見せない。下から、されど見下ろすように平然としている。その様子がおもしろくないのは百井だ。



「髪染めて高校デビューでもしたつもり? いくら外面を取り繕ったところで! あんたの本性は雑魚の負け犬なんだよ!」

「いやね、いい子ちゃんぶるのも疲れちゃってさ。ほら、一人じゃなーんにもできない雑魚が勘違いしちゃってるじゃん? いい加減猫被り続けるのもしんどいなーって」



 正直千堂がここまでやってくれたのは想定外だった。嘲笑が混じりながらの反論。本当に今まで猫を被ってたんじゃないかと俺すらも疑ってしまうくらいに、自然な態度だ。



「あえて言ってあげよっか、お山の大将のおさるさん」



 千堂が立ち上がり一歩百井へと詰め寄る。その行動に、百井は一歩たじろいだ。



「あんたじゃ上には立てない。だって、こんなに怯えちゃってかわいそうなんだもん」



 一年生が入学してから約二週間。まだクラス内のカーストもはっきりと定まっていない頃だろう。そしてそれは今日までだ。



「今日からこのクラスのリーダーは私がやってあげる」

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