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嫌われ者の俺がいじめを救い、学校のヒーローになるようです。  作者: 松竹梅竹松
第3章 メイドアイドル

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第3章 第2話 やきもち

「おかえりなさいませ、ご主人様っ」



 金沢の依頼を受け、千堂と雨音が余裕でメイド喫茶のバイトに受かった日から一週間。千堂に呼ばれてメイパラに向かうと、出迎えたのはメイド服姿の金沢だった。



「金沢、千堂と雨音は?」

「ここではあきって呼んで。で、ゆきとあめは見ればわかる」



 たいして広くない、古臭い建物を雑な飾りで彩っている安っぽいメイド喫茶。そこに似つかわしくない、文字通り質の違う二人。彼女たちは狭い店内を休むことなく歩き回り、客もそんな彼女たちを求めて声をかけている。つまり千堂と雨音は一週間にして人気メイドになっていた。



「VIP席とかあんの? あの二人取りたいんだけど」

「ここそういう店じゃないから」



 金沢に案内してもらい、店の隅の椅子が二つ置かれた席に案内してもらう。店の中心からは離れてるがカウンターの中がよく見えるいい席だ。と思ったら向かいにクマのぬいぐるみを置いてきた。馬鹿にしてんのか。



「なぁ千堂呼んで……」

「ゆきちゃんこっち見て!」



 金沢に千堂を呼んでもらおうとすると、他の客の迷惑を一切関係ない野太い声が千堂の名前を口にした。それを受けた千堂は……。



「はぁ? ゆき様、ですよね?」



 ひどく冷たい目で客を一喝した。あいつここでもよくわかんないキャラ作ってんのか……それでメイドなんて……。



「うおおおおおおおおっ!」



 だが俺の想像とは裏腹に客はまたもや野太い声で歓喜の声を上げた。



「ゆきちゃんおいしくなる魔法かけて!」

「馬鹿じゃないんですか? あなたにはこれで充分です。おいしくなーれー」

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 ……わけがわからない。千堂の態度はひどいものなのに、どういうわけか客は喜んでいる……というよりそれ目当てって感じだ。あいつの顔やスタイル的にはかわいい路線で売った方が絶対いいのに……。



「おまたせしましたぁ♪ もえもえオムライスですっ♪」



 そして別の席ではこれまた普段のキャラとは裏腹に媚びた笑顔の雨音が、いかにもメイドらしい仕草で客を楽しませていた。



「金沢……これどういうこと?」

「あき。……これがウケるの。かわいい童顔のドSメイドに、それが合わない客にはかわいさごり押しのプリティーメイド。この組み合わせで客全員を虜にしてる。私がコツコツがんばって手に入れた常連もあっという間に取られちゃった」



 なるほど、確かに金沢がずっと俺の相手をしていても他の客から不満が出ている様子はない。他にもいるメイドもただの従業員と化しており、客からの視線は全て二人に注がれている。



「……よかったな。これで店長からのセクハラもなくなるんじゃないか? どうせするならかわいい方がいいだろうからな」

「……ほんとにね。これで私の悩みは解決。オーディションの話もなくなりそう」



 そのあきらめは俺の台詞のはずなんだがな。金沢は自分でこの状況を解決と言いやがった。ま、当てつけだろうが。



「……ねぇ射丹務。あの二人を追い出してほしいって悩みは解決できる?」

「そうしてほしいのならやってやる。これからも自分よりかわいい子が入ってきたら追い出し続けてろ。狭い狭い世界で一番になるために」

「……聞かなかったことにして」



 メイドらしからぬ暗い顔をした金沢。まぁこの状況おもしろくはないだろうな。自分のものだったはずのファンが突然わけもわからない奴に奪われたんだから。ま、負け犬のひがみってやつだが。



「あ、千堂」



 料理を取りに来たのだろう。千堂がこちらに歩いてきた。とりあえず似合ってないキャラはやめろとアドバイスしてやるか。



「千堂、そんなキャラじゃお前の……」

「…………」



 だが千堂は俺の呼びかけに対して冷ややかな目を向けると、俺を無視してカウンターの中に消えていった。そして料理を手に戻ってくると、再び俺には何も言わずキモオタ共の群れに戻っていった。



「……はっ。ちやほやされて勘違いしてるみたいだな。こんないい歳こいてメイド喫茶なんて来てるキモオタに……」

「そこ、うるさい」



 思わず口から出た言葉を千堂に注意されてしまう。……なんだあいつ。本当に調子乗ってるんじゃないのか。俺を放置してあんな奴らに構うなんて……俺がどれだけあいつの面倒を見てやったと思ってんだ。だいたいな……。



「ご主人様方、アドバイスです。女の子は好きって言ってもらいたいものなのです。ちゃんと口にしてくれないと伝わりませんよ? 他の人に盗られちゃうかも」

『はーーーーい!』



 何かの当てつけのつもりか。千堂はニマニマと笑ってわざとらしく客に呼びかけをしていやがる。だいたいそれこそが勘違いだ。俺は千堂のことが好きでも何でもない。ただのうざい後輩。いなくなってくれるならそれに越したことはない。



「そもそもお前が来いって言うから来たんだろうが……それなのに相手しないのは怠慢ってやつだ……だいたいな……」

「ほんとにうるさい」



 今まで別の客の相手をしていた雨音が見かねてやってきた。でも……胸のざわつきは取れない。なんだこれ……なんでこんなむしゃくしゃしてるんだ……。



「あの子射丹務が来るまではメイド姿に鼻血吹かせて気絶させてやるって意気込んでたのにね」

「どっかの誰かさんに似てきたんですよ。言葉や態度を悪くすることが上手くなってる。……ほんと厄介」

「……もういい帰る」



 なんでわざわざ金を払ってこんな気分にならなきゃいけないんだ。千堂なんてどうでもいい。先輩さえいればいいはずなのに。



「ゆきちゃん、こっち来て」



 よろよろと立ち上がるとスタッフルームからおっさんが顔を出し千堂を手招きした。……事前に摩耶に調べさせていたメイパラの店長だ。……あのセクハラ野郎の。しかも千堂はのこのことスタッフルームに入ろうとしている。



「いやー、いいよ。君のおかげで売り上げ過去最高。それで給料の話なんだけど……」

「基本給はタダでいい。その代わり私のお客さんの売り上げの七割をもらいます。じゃないと辞めますから」

「……え、かわいい……」

「あんた性癖どうなってんの……」



 小声での千堂と店長の会話が聞こえてきて思わず感想が口に出てしまった。そうか……そこまで考えられるようになったか……あの正義馬鹿の千堂がな……。これくらいのしたたかさがあっていい。むしろなきゃダメだ。金沢はドン引きしているが、これは間違いなく千堂の人生において武器になる。こればかりは素直に称賛しなければならない。



「もちろん払うよ。だからさ……」



 スタッフルームへと消えていく二人の身体。そして店長の手が千堂のスカートに……。



「それじゃあ見合わない。こいつはお前如きの人生じゃ買えないよ」



 ……伸びる寸前。俺の手が店長の腕を掴んでいた。本当に今日は厄日だ。考えるより先に口や身体が出てしまう。



「な、なんなんだ君は!」

「話してやろうか? 今ここで」



 突然俺に痴漢を止められた店長が喚くが、言葉は使うタイミングを選んだ方がいい。この場で舌戦をして困るのはどちらだろうか。



「聞かれたくない話があるだろ? あんたに選択権をやるよ。どこで話したい?」

「……来い」



 楽勝。色々あったがこれでスタッフルームに通してもらえた。後は金沢のこと……そして千堂と雨音の給料アップについて脅迫してやろう。ようやく俺らしくなってきた。



「……千堂。あんた先輩に助けてもらいたくてこの場整えたでしょ」

「こんな恥ずかしい格好するんです。私だってメリットがほしいんですよ」

「……ほんといい性格してきたわ。腹立つ」



 後ろでは千堂と雨音が何やらボソボソ話す声が聞こえる。こいつらもわかったようだ。ここが攻め時だと。



「店長、あんた金沢に……」

「こんにちはー」



 さっそくこれからの話について切り出そうとしたその時、出勤したのかメイドが一人別の入口からスタッフルームに入ってきた。安っぽいメイド服。それとは正反対の姿。



 彼女の容姿を表すには俺ですら語彙が足りなくなる。ただ一言で伝えるのなら。



「天使……!」



 彼女の姿が視界に入った途端、俺の意識は一瞬で暗転した。聞こえてくるのは微かな声だけ。



「なんで新斗がここにいるの!? もっと感動的な再会したかったんだけど!」

「ていうか先輩、鼻血吹いて気絶しちゃってるんですけど!?」

「それ私がさせる予定だったんですけど! 先輩! せんぱーい!」



 そう。あれは間違いなく。メイド服を着た、万陽火先輩だった。

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