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嫌われ者の俺がいじめを救い、学校のヒーローになるようです。  作者: 松竹梅竹松
第2章 体育祭

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第2章 第12話 責任

「大変お待たせしました!」



 交渉を終えた私と校長先生は校庭に出て、応援合戦が行われて尚一番騒がしい場所に行きました。校庭の入口近く。近隣の方々や教師の方々が何やら騒いでおり、体育祭実行委員会の方々やボイコットに参加してくださった方々が騒ぎを抑えようとしています。



「遅くなってしまい申し訳ございません。今回の首謀者の千堂雪華と申します」



 私が頭を下げると一瞬騒ぎが止まりました。いらしている近隣の方の中には町内会長さんや、ボイコット時に優しく声をかけてくださった方もいます。



「千堂、この騒ぎを止めろ! こんな勝手なことしてタダで済むと思うなよ!」

「せっかくのゴールデンウィークだってんのにうるさいせいで寝れないんだよ!」



 担任の先生や中年の男性が私に怒鳴りつけます。お怒りはごもっとも。ですが私の意思は変わりません。



「体育祭はやめません。このまま続行します」

「あぁっ!?」


「せっかく盛り上がっているんです。再開催なんてもったいない。ご迷惑をおかけしていることは重々承知ですが、許していただきたいです」

「ふざけんな!」


「この騒動の責任を取り、私は高校を退学します。だからお願いです。このまま続けさせてください!」

「…………!」



 頭を下げると再び一瞬の静寂が訪れます。そして私の発言が聞こえたのか、付近にいた人々も近寄ってきました。



「ほんとに退学する気かよ……」

「そこまでする必要ないって……」

「こんな時にあのニート野郎は何やってんだよ……」



 辺りを見渡せば友人になった同級生や上級生の方たちがいました。まだ入学して一ヶ月だというのにずいぶんと顔なじみができたものです。ちなみに万さんは変装のためかサングラスをかけて様子をうかがっており、百井さんはスマホ片手に校舎の方にそっぽ向いて退屈そうにしています。一応万さんは心変わりしたらすぐに助けると言ってくださいましたが、何の迷いもありません。



「ほら校長先生も……」

「……責任を取って減給一か月にします……」



 校長先生にも謝罪するよう促しましたが、なんとふてくされた態度で減給一ヶ月なんて甘ったれたことを言い出しました。ふざけないでくださいと叫びたかったですが、今はこんなのどうでもいいです。



「私一人が退学になったところで収まる問題ではないと理解しています。それでもこの覚悟を認めていただきたいです。お願いします! 今日一日だけでも、私に夢を見させてください!」



 もう小手先も何もありません。ただお願いするしかありません。そしてその願いは通じました。



「まぁ……そこまで言うなら……」

「こういう筋を通す若者は大好きだ! それなら認めてやってもいい!」

「千堂……ちゃんとお前がやってくれたことはみんなに伝えるからな……!」



 さっきまで怒り狂っていた近隣の方々が拍手で迎えてくれ、担任の先生も私の心意気を認めてくれました。



「ありがとうございます! さぁみなさん、体育祭を本気で楽しみましょう!」

「ありがとう……雪華……!」

「お前の分も最高に楽しんでやるからな!」

「打ち上げまで暴れまわってやろうぜ!」



 生徒のみなさんも私の行動を認めてくれ、集まって来てくれました。みんな笑顔。これで正しい。これこそが私の求める正義です。これで全部解決……。



『素晴らしい!』



 それは近隣の方々の拍手をかき消し、感謝の気持ちを伝える生徒の声も聞こえなくなるほどの大きな音でした。校舎のスピーカーから私を褒め称える声が流れたのです。



「新斗……!」

「先輩……?」

「え? 誰の声? 放送部?」



 生徒や先生、地域の方々はわかっていないようですが、万さんは確信しているようです。この声が先輩のものだと。



『いやー実に素晴らしい! 感動した! みなさんもそうですよね? こんなに心温まる物語があるでしょうか!』



 先輩が……私のことを素直に褒めてくれてる……。やっぱり私は正しいことを……。



『哀れで惨めでみんなから嫌われたゴミが選ばれる生贄に自分からなってくれる馬鹿が現れたんだ。いやーよかったよかった。感動で胸が熱くなったよ。腸が煮えくり返ってるんじゃないかと思うほど』



 大声ながら冷ややかに、そして感情的に告げられたその一言は。私の覚悟によって盛り上がった熱気をいともたやすく冷ましました。



『ねぇ近隣住民の皆様。一度は聞いたことがあるでしょう、彼女が朝から夜まで掃除をしながら学校の横暴を訴えていたのを。おかげで景観を汚していたゴミは消え、気持ちのいい生活を送れていたはずです。でもしょうがないですよね、退学になるのは。だってたった数時間うるさくしていたんですもん許せない見逃せない! お昼寝の邪魔をした、家族団欒に異音が混ざった、ならば退学になるのは仕方のないことです! なんて素晴らしい近隣住民の方々なんだ! やってもらって当たり前! 恩を仇で返しても何とも思わない! そりゃあ退学者だって出ますよね! こんな最低な民度をしている地域なんだからっ!』



 拍手をしていた地域の方の手が力なく垂れ、音が消えました。



『教師の皆様は知っていますか? 彼女はクラスでひどいいじめに遭っていました。無視をされあらぬ噂を流され暴力を受けカツアゲまでされていました。あーごめんなさい、知ってるわけありませんよね。だって何もしなかったんだから。相談されなきゃ存在しないも同然です先生方は何も悪くありません。それにこんな事件を起こす生徒なんていない方がいいですからね。所詮世の中は弱肉強食! いじめられてさらに退学になろうとしている生徒がいようが知らない関係ない! だってたった一人だから! 私はあなたたちの主義を尊重しましょう。これからも少数派は弾圧しましょう! 多くの生徒が幸せになる学生生活を送りましょう! たった一人の生贄で全てが上手くいくんだから安いもの! なんて素晴らしい学校なんだ! まさに現代日本を象徴している理想校! 今後いじめられている生徒がいたとしても絶対に助けないでくださいね。その時は本気で潰します』



 今後の対応をどうするか話し合っていた先生方の口が閉じ、音が消えました。



『生徒のみんなは彼女が退学になってせいせいしますよねぇ。脅迫してきたり、せっかくの休日に体育祭を組んだりしたんだから。それにみんな体育祭なんてやりたくなかったんだ。だってそうでしょ? 体育祭がやりたいなら実行委員会かどうかなんて関係ない。積極的に彼女に協力するべきだったんだから。だから当然さっきまでの盛り上がりも嘘! やらされて仕方なくやっていただけに過ぎない! 楽しいだなんて思う権利は存在しえない! 少しでも感謝しているのなら退学になろうとしている仲間を当然守るはず! なんて素晴らしい生徒たちなんだ! 嫌々やらされてるのにも関わらずこんなに楽しそうな演技ができているんだから! でももう抑える必要はありませんさぁみなさん恥ずかしがらずに言いましょう! お前なんて嫌いだ! 退学になって当然だ! 少しかわいいからって調子に乗るな! ざまぁみろーーーーっ!』



 熱気に包まれていた体育祭からは応援の声すらも消え、音が消えました。



『体育祭実行委員会の方々もこれで満足でしょう。去年よりも盛り上がる体育祭ができた! この成功体験はこれからの人生に必ず役に立つものでしょう。一度は内部分裂しながらも最後は団結でき、一人ではできないことも仲間となら成し遂げられると知った! きっとこの経験は大人になっても忘れられない青春の一ページになるでしょう。なんて素晴らしい組織なんだ! その裏で退学になった生徒がいたことなんて知らない! 実行委員会じゃないんだから関係ない! 協力を求めそれに応えてもらい内部分裂を止めてボイコットを指揮して学校との交渉を行って体育祭の成功を導いた人がいた事実なんて不都合だ! 全部体育祭実行委員会の力だ! そう高らかに叫びましょう! そういう決断をしたんだからっ!』



 そして音は完全に消え。大翼高校には射丹務新斗の声のみが響いていく。



『さっきまでの言葉を一つ訂正します。みんななんて人間は存在しない。いるのは一人一人の人間のみ。それぞれがそれぞれの主張を持っているし、それを発言する自由がある。千堂雪華はこの無法体育祭の主催者としての責任を取り退学になると決めた。これは彼女自身の正義だ。では今ここにいる一人一人に問おう。自分が信じる正義とは何か。千堂雪華一人を退学にして自分たちが幸せを享受することは正しいことなのか。……どうかお願いします。あなたの言葉を千堂に届けてあげてください』



 先輩の声すらも消え、広大な校庭が本物の静寂に包まれます。しかしそれは長くは続きませんでした。



「あたしはこいつが勝手に退学になるなんて許せない。退学になるならあたしの手で終わらせてやる」

「百井さん……」


「かわいい後輩が退学になるなんて許せな~い。怒り狂って暴れちゃうかも~」

「香苗さん……」


「雪華様が退学になるなら私も退学します! 助けを求めたのは私だから! 助けてもらって見捨てるなんてしたくありません!」

「相良さん……」


「せっかくのお得意さんだかんね。退学になっちゃうのはもったいないなー」

「摩耶さん……」


「確かにこいつには脅迫されたけど……それでも体育祭が開催できたのは千堂さんのおかげだ!」

「鈴木さん……」


「俺は退学になるべきだと思う!」

「校長先生……」


「少し派手だけどね、本当はいい子なんだよ。話してみたからわかる。応援したくなる子なんだ」

「町内会長さん……」



 気がつけば私の周りには人があふれ、そしてそれ以上に声が満ちていました。体育祭よりも大きく、騒音なんて気にせず。私の元へ、一人一人の声が、応援が届いてきます。



『千堂、これが責任ってやつだ』



 その声は小さく、かき消されてしまうほど。しかし私には確かに、届いていました。



『これは俺の詭弁の力じゃない。お前がこの数日間努力した結果だ。お前の本気が一人一人の言葉になって返ってきたんだ。お前はその責任を取らなきゃいけない。自分のやってきたことに対する責任を』

「……先輩は私のこと、どう思っていますか?」



 少し間を置いて。



『……これからも一緒にいてほしい』



 ……みなさんに謝らなければいけません。こんなにも私のことを称賛してくれる声が鳴りやまない中。



「ほんっと……ツンデレ……」



 先輩の照れくさそうな小さな声が、他の誰の言葉より、涙が出てしまうくらいにうれしかったのですから。

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