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嫌われ者の俺がいじめを救い、学校のヒーローになるようです。  作者: 松竹梅竹松
第2章 体育祭

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第2章 第7話 先輩の先輩

〇雪華




「大翼高校は私たち生徒全員の夢を不当にも断とうとしています! 応援合戦の実施! たったそれだけの願いを一方的な理由で打ち砕こうとしているのです! 近隣住民のみなさま、どうか私たちに応援をお願いいたします!」



 授業をボイコットした抗議活動は三日目に到達しました。参加者は体育祭実行委員会全員を含めて132名。全校生徒の二割を超える数です。二割と聞くと少なく思えますが、近くの森林公園に詰め寄った結果想定以上の迫力がありました。間違いなく学校への圧力になっています。



「……ん?」



 メガホン片手に抗議の声を上げていると、ほとんど目の届かない茂みの奥で先輩が手をこまねているのが見えました。学校と関わりたくない先輩は今回不参加のはずですが……とりあえず向かってみましょう。



「どうしました?」

「わざわざ声を出すのは逆効果だ。応援合戦が騒音なのは事実。近隣住民にとって応援合戦が行われることはデメリットでしかないし、これを聞いて学校に苦情を入れる奴なんてそうそういない。お前も他の生徒と一緒に黙々と掃除してろ。学校への圧力にさえなればいいんだから」



 てっきり色々馬鹿にされるものかと思っていましたが、蓋を開けてみれば単純なアドバイスでした。なるほど……言われてみればその通りです。先輩のように言葉で説き伏せようと意識し過ぎていたのかもしれません。



「ありがとうございますっ。それを教えに来てくれたんですか?」

「……別にお前が心配だから見に来たわけじゃない。今は授業をサボっても怒られないボーナスタイムだからな。帰るついでに寄っただけだ」



 先輩は早口でそう言い訳するとどこかに行ってしまいました。



「……かわい」



 え? 待ってくださいかわいすぎません? 絶対私のことが心配で見に来てくれたんじゃないですか! え? やだやだすごいツンデレ。絶対もう私のこと好きですよこれ! すっごいかわいい……。



「本気でアタックしてみましょうか……」

「こんにちは」

「ぴゃっ!?」



 ひとりごちていると突然どなたかから肩を叩かれ変な声が出てしまいました。もしかして聞かれてました……?



「えーと……あなたは……?」

「ただの近隣住民、だよ」



 記憶を辿ってみましたが、その人の顔に見覚えはありませんでした。言い方を変えると、こんな綺麗な方は見たことがない。



 帽子の下のショートカットの一部分にピンク色のメッシュを入れた、快活そうな笑顔を浮かべる女性。背は私より少し高いくらいですがすらっとしていてスタイルが良く見えます。きっとそれは厚手のパーカーにミニ丈のデニムスカート、ニーハイブーツというかっこいい格好なのも原因でしょう。年齢は私と同じくらいのはずですし顔はすごいかわいらしい感じなのに、その格好が似合うのはどういうマジックなのでしょうか……きっと私がこの服装をしたら先輩に似合っていないと一刀両断にされるに違いありません。



「ちょっとした噂を聞いてね。ずいぶん楽しそうなことやってるみたいじゃない?」

「もしかして卒業生の方でしたか……?」

「卒業生……それはちょっと違うかな。関係者だったことは確かだけど」



 となるとどういう関わりがある方なのでしょうか……さっぱり想像がつきません。



「桑原香苗って知ってるよね? そいつのお友だちなんだよね」

「げ」



 や、やべぇです……! 香苗さんの友だちってことはとんでもない悪です……! もしかしてカツアゲでもされてしまうのでしょうか……。



「香苗から手紙をもらったんだよ。おもしろいものが見れるかもって。でも来てみたら全然。何も楽しそうじゃない」

「それは……抗議活動中ですから……」


「そうじゃない。本気ってのは楽しいものなんだよ。くだらなくても、正しくなくても。自分の本気に酔っている連中は、どんなに苦しくても楽し気に映るものなんだよね。でも彼らは違う。言われて仕方なくやっているだけ。そんな人を助けたいと思うの? ボクだったら、絶対に嫌だけどね」

「…………」



 彼女が何者か。それが何となくわかってしまいました。言動の端々に香る、先輩と同じ匂い。間違いありません。



「万陽火」

「っ……!」

「……が、どうして退学になったか知りたい?」



 私が口に出すはずだった名前を先に出されてしまい、言葉が詰まってしまいました。やはりこの方は……先輩の……!



「まずどういった理由があったかは聞いてる?」

「百井さん……友人が言っていたのは、とある大事件を起こしたから……」


「確かに大事件はいっぱい起こした。体育祭では応援合戦を最強のポイント源にしたし、夏休みは学校のお金で旅行に行ったし、修学旅行は二泊三日から一週間に伸ばしたし、文化祭では花火を打ち上げた。絶対そっちの方が楽しそうだったからね」

「……聞いていたより壮絶です」


「でもそれらは直接的な理由じゃない。退学にする建前にされただけ。本当はね、退学になるのは新斗だったんだよ」

「……は?」



 退学にされるはずだったのは新斗先輩……? そんなことは初耳です。だって先輩は、万さんの後をついて回っていただけだって……。理解が追い付いていない私に彼女は言葉を続けます。何も楽しくなさそうに。



「新斗のご両親は、小学生の時に殺されてるんだよ」

「……え?」


「その犯人は新斗の一個下。まだ小学生のガキだった。そしてそのガキは、大企業の会長の御曹司だった」

「ちょっ……ちょっと待ってください……!」


「当然小学生だから逮捕されることはない。さらには大金を払って事件を事故へと揉み消した。そしてそのガキは今年大翼高校に入学することになった。そうなると邪魔なのは全てを知っている新斗。金ヅルを怒らせるわけにはいかないからね。幸いにも退学にする理由は充分すぎるほどにあった。全部ボクのせいでね」

「だから待ってって……!」


「それを知ったボクは新斗に話が伝わる前に校長と取引をした。ボクが退学になる。その代わり新斗と学校、お互いが不干渉を貫くこと。ボクがいなければ新斗は何もできない。そう判断した学校はこの話を呑んだ。それが新斗が学校と関わろうとしない理由だよ。破ったらボクの犠牲が意味をなさなくなるからね」

「待ってって言ってるじゃないですか!」



 叫んだことでようやく万さんは言葉を止めてくれました。……それでも理解は追いつきません。先輩のご両親が殺されている? 犯人が私の同級生? 学校との取引? 全てが全て、初耳です。



「……どうしてその話を私に?」

「新斗は自分からは絶対話さないから。それに君程度の手には負えないでしょ? だから諦めてもらおうと思って」



 そう答えた万さんの瞳は、今までよりもはるかに暗く、そして。



「新斗はボクのだから」



 恋する乙女、そのものでした。



「ようやく新斗を守ってあげられる土壌を手に入れられた。だからこの街に戻ってきたんだよ。もうこれ以上新斗を辛い目には遭わせない。だから黙って消えてくれるとありがたいな」

「……別に私はあなたの後輩ではないので言うことを聞くつもりはありません。それに人を所有物呼ばわりするような非倫理的な発言もしません」



 挑発的な言葉を返すと、どういう意図があってか。万さんは楽しそうに笑いました。



「君、かわいくないね」

「そう言われたのは生まれて初めてです」



 それにしてもよかったです。先輩の大好きな人が帰ってきてくれて。これで先輩も安心することでしょう。ま、今は絶対私のことの方が大好きでしょうけど。



「雪華さま!」



 万さんとバチバチに睨み合っていると、遠くから相良さんが慌てた様子で駆けてきました。



「その人は?」

「気にしないで。用件は?」

「校長先生が来ました! 雪華様を呼んでます! きっと圧力に負けたんです!」



 それは……なんてうれしい報告なのでしょう。私たちの努力の勝利……。



「待った」



 すぐに向かおうとする私の腕を、万さんが慌てて引き留めました。



「このタイミングはおかしい……あのビビりな校長が自分からアウェーに飛び込んでくるとは思えない。さっきの挑発は謝る。だからここはボクに任せて」



 そう語る万さんの表情は本気で焦っているように見えました。少なくとも何かを企んでいるようには見えません。やはり先輩が見込んだ人は悪い人ではありません。だからこそです。



「さすが先輩の先輩ですね。ツンデレ具合が本当にそっくりです。この騒動の責任者は私ですよ。これが良い報告でも悪い報告でも、私が聞く必要があります」



 そして万さんを置いて広場にいる校長先生のもとに向かうと、こう言われました。



「大勢の生徒を扇動し授業をボイコットした罪は重い。千堂雪華。君を退学処分にする」



 それはつまり。



「宣戦布告……ですね」



 ようやくこの時が来ました。私を言葉巧みに騙した時の借りを返す時が。

少し章が長くなってしまったのと、ようやく先輩の先輩を出せたので閑話休題です。いよいよ第2章終盤になりました! そろそろこの章全然出番のなかったニート君の暴論詭弁論破が炸裂します! もう少しだけお付き合いいただけると幸いです!


またおもしろい、続きが気になると思っていただけましたらブックマークや☆☆☆☆☆を押して評価していっていただけるとうれしいです! みなさまの応援が続ける力になりますのでどうかどうかお願いいたします! 

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