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嫌われ者の俺がいじめを救い、学校のヒーローになるようです。  作者: 松竹梅竹松
第2章 体育祭

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第2章 第6話 共犯

〇新斗




「昨日はお楽しみだったようだね~」



 ある人物とのデート翌日の放課後。部室に行くとニヤニヤ笑った香苗さんが俺を出迎えた。



「誰とデートしてたの~?」

「それを知ってるってことは千堂とは話せたってことですね」



 千堂が上手くいかないことは最初からわかりきっていた。と言っても千堂が悪いわけではない。いきなり一人で全部何とかやれと言われて完璧にこなせる奴などいるわけがない。まずは一番やりやすい方法を教えて、無理だったら一番効果的な方法を教える。これでも無理だったら裏から動いてやればいい。今後千堂の力は間違いなく必要になる。うまく手綱を握れるようになったら万々歳だ。



「雪華ちゃんがやってることの噂は軽く聞いてるよ~? 委員会の一人一人にお願いしてるみたいだね~」

「あいつらに足りないのは一人一人の当事者意識。なんせ組織で、必ずしも果たさなければいけない絶対条件っていうわけでもない。できることなら応援合戦はやりたい。みんなもそう言ってるから。体育祭に向けて本気ではあるが、ゴールはバラバラで不明瞭。その状況を壊したかった」



 千堂の一番の武器。それはかわいさだ。集団をまとめるリーダーシップは向いていない。だが一対一なら最強。男性がもちろん、女性が相手でも圧倒的なかわいさがあれば魅了できる。後はギャップや拳の下ろし所を思い出して有利に進んでくれればなおよし。



「順調に成長してってるね~」

「早く成長してさっさと独り立ちしてくれればいいんですけどね」

「嘘」



 気づけば香苗さんの顔は変質していた。人の顔を変質と呼ぶのはいささか失礼な話だが、この表現が一番近い。それほどまでにヤンキーだった頃の香苗さんは……今の顔は怖かったから。



「あんたは何かをしようとしてる。どうせ万の復讐かなんかだろうけどさ。雪華まで巻き込んでとんでもないことを企んでる。させねぇよ。これ以上関わればあんたまで退学になる。それどころか……殺されるかもしれない。そうでしょ?」

「俺は俺に託された使命を果たすだけですよ。そしてあんたじゃ俺は止められない。黙って俺との約束を守ってろ」


「止めるのは私じゃない。雪華だよ」

「それこそ無理ですよ。あいつは俺に心酔してる。そういう風に育ててるから。まぁ安心してくださいよ、かわいい後輩を巻き込むような真似はしませんから」


「それこそ無理だね。あの子は自分から勝手に巻き込まれに行く。心酔してるかはわからないけど、あの子はあんたの手に負えるような子じゃない。だからうちに入れたんだから」

「はっ。俺とあんたの賭けってわけだ。いいですよ、俺は負けませんから」



 香苗さんの人殺しのような目を逸らさずに答えていると、部室の扉がノックされた。すると香苗さんの表情が最近のふんわりとしたものに戻る。あぶね~~~~ガチで怖かった~~~~。



「ちゃおちゃおー」



 入ってきたのは相変わらずメイクやアクセサリーでバチバチに決めた摩耶。おかしいな、こいつが自分からうちに関わるとは思えないんだが。



「まさか香苗さんが?」

「違う違う、あんたの後輩ちゃんに頼まれたの。はいこれ請求書。さすがにこの額を請求するのは気が引けてねー。先輩なんだから代わりに払ってあげてね」



 そう言って渡された手書きの請求書の内訳は、体育祭実行委員会メンバーの弱み。一人につき三千円、それが三十四人で……!



「ずいぶん張り切ってたよ。先輩の真似をするんですーって」

「あはは、さっそく私の勝ちみたいだね~」

「あ、あの馬鹿……!」



 あいつはかわいさだけで充分勝負できるだろうが……! それをこんな……ああもうほんと馬鹿!



「やっぱり間違ってるよ、新斗」



 請求書を持ちながらわなわな震えていると、香苗さんが勝ち誇った顔で笑っていた。



「雪華はあんたに心酔してるんじゃない。あんたみたいになりたいんだよ。それが万に心酔してるあんたとの違い。ちゃんと見てあげな、先輩なんだからさ」

「……そうみたいですね。すいません。調子に乗ってました」



 やはりなんだかんだ香苗さんには勝てない。俺とは戦っている土俵が違うから。



「ちょっと行ってきます。……あのガキこの額どうするつもりだ馬鹿!」



 千堂がいそうなところくらいわかっている。密会にふさわしい場所なんて教えていない。きっと普通の、一年生ですら知っている人気のない場所にいるはずだ。そして予想通り千堂は誰でも思いつくような校舎裏にいた。



「ねぇ鈴木さん。どうやらあなたは去年万さんに告白していたようですね」

「ど……どうしてそれを……!?」



 視聴覚室で直接俺に文句をつけてきたクラスメイトを壁際に寄せてにじり寄っている千堂。その見下し煽るような表情は、間違いない。俺とよく似ている。



「そして結果は惨敗。だめじゃないですかぁ、それで射丹務新斗に文句つけたら。それじゃあまるで、万さんにかわいがられてた射丹務新斗に嫉妬してるように見えちゃいますからねぇ」

「い……いやそんなことは……!」


「そうですね、実際は違うのかもしれません。では判断してもらいましょうか、委員会の人に。この過去を打ち明けて」

「それだけは……それだけはやめてくれ……!」


「じゃあボイコットに参加してくれますね? せっかくです。お友だちも呼んで盛大にやりましょう。大丈夫、あなたは射丹務新斗とは違って人望が厚いからいっぱい集まりますよ。ちゃんと本気を出してくれれば」

「わかった……わかったから……ひぃぃぃぃ……!」



 解放されたクラスメイトは俺の方へと走り逃げていく。きっとその瞳には俺の姿なんて映っていなかっただろう。



「あぁ先輩、いたんですね。どうでした? 私の脅迫。ずいぶん様になってたんじゃないですか?」



 勝利の余韻に浸る千堂は挑発的な笑顔で俺を見る。予定通り、そして想像以上だ。きっとこのまま成長していけば俺の計画の役に立ってくれる。



「お前の正義はどうした」



 それでも俺は、このやり方を止めなければいけなかった。残念ながら俺は千堂の先輩だから。



「お前が言ったんだろ、こんなやり方望んでいないって。正しくないって。あの時の理想はどこにいったんだよ!」



 確かに過去を調べて脅迫して言うことを聞かすのは俺のやり方。そして他でもない、自分のいじめ問題の時に。千堂は止めたんだ。これは正義ではないと。



「……そうですね。こんなやり方最低です。きっとみなさんに嫌われることでしょう」

「じゃあなんで……!」

「正義のためです」



 当たり前のようにそう答えた千堂の表情は、自分が悪いことをしたなどとは欠片も思っていない。実に晴れ晴れとしたものだった。



「私は去年の応援合戦の様子は知りません。でもきっと良いものだったのでしょう。だったらそれは絶対に残さなければならない。ご近隣の方々に説明を尽くし納得いただき、より良い応援合戦を実現する。それが正しいことだと思います。だからやるんです。私がどれだけ嫌われようがいじめられようが、不幸になろうが構わない。みんなに幸せになってもらう。やっと見つけた、これが私の正義です」



 化粧をしても以前と何も変わらない、おっとりとしたかわいらしい顔。だがその瞳には強く、ギラギラとした野望の光が煌々と宿っている。それが千堂の本気。本当にやりたいことなら俺が止めることはできない。関係もメリットも本気も感じられるから。……それでも。



「……お前が不幸になる姿なんて見たくない。だっていっぱいがんばってただろ」



 口が勝手に動いていた。なんだこのこっぱずかしい台詞は。もっと言うことがあるだろうし言えただろう。先輩に鍛えられ認められた俺の話術なら。



「……私だって同じですよ。なんで先輩が嫌われなきゃいけないんですか。先輩のやってきたことが誰にも認められずに否定されるなんて耐えられません」



 俺と千堂の身体が重なる。俺の後ろに回された腕は細いながらも力強い。逃げることも離れることもできない、強い強い想い。



「だから私たちだけは一緒にいましょう。私の知らない誰かになんて構わないで。……私を独りぼっちにしないでください」



 普段から何も考えずに滝のように溢れる言葉は何も形を成さず、俺はただ彼女の想いに応えるように身体を強く抱きしめることしかできなかった。

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