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嫌われ者の俺がいじめを救い、学校のヒーローになるようです。  作者: 松竹梅竹松
第2章 体育祭

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第2章 第5話 やり口

「……どうしてここなのでしょうか」



 香苗さんからごはんを食べようと連絡を受け向かった先。そこは駅前の小さな居酒屋でした。言うまでもなく私たちは未成年。お酒を飲まなければいいとはいえ、ごはんを食べる場所としてふさわしいとは思えません。



「知り合いのお店でね~。まぁ今日は奢りだからさ~好きなだけ食べてってよ~」



 いつも通り……というのにはいまだに違和感がありますが、ふにゃふにゃとした笑顔でタッチパネルを触る香苗さん。ずいぶん慣れた手つきです。



「それにしてもなんかあった~? 初めて見る顔してるけど~」

「……別に。そんなに変な顔してますか?」

「うん。昔の私みた~い」



 昔の香苗さん……。眉間にしわを寄せ、何が気に入らないのか常に何かを睨みつけ、つまらなさそうにしていた中学生時代の香苗さんの顔を思い出します。まさか自分がとは思いますが、香苗さんが言うのなら間違いないのでしょう。



「でもいいんですか? 先輩との約束で夜の外出はできないと聞いていましたが」

「その先輩がお願いしてきたんだよ~。雪華ちゃんとお話してほし~って~」


「先輩が……? いい御身分ですね。自分は女性とデートしているくせに」

「デート~? なにそれおもしろそ~。詳しく聞かせてよ~」



 そんな話をしていると店員さんが香苗さんのウーロン茶と私のオレンジジュースを持ってきてくれました。……アルコールの香りはしません。もしかしたらと思っていましたが、どうやらちゃんと改心しているようです。



「それじゃ~かんぱ~い」

「かんぱいです」



 未成年が飲んでも何ら問題ないジュースをぶつけ合い、語ります。今日起こった出来事を。



「……ということがありまして! わらひは……わらひは……うぇぇぇぇ……っ」

「場酔いってあるよね~……それにしても泣き上戸か~……」


「なにか言いました!?」

「感情表現豊か……おもしろ~……」



 なんだか身体がぽかぽかして頭がふわふわします。変な気分です。飲んでいるものは普通のオレンジジュースのはずなのに……。



「……とにかく先輩に申し訳ないです。客観的に見て初めてわかりました……私がどれだけ適当なことをしてきたか。それに先輩に託されたのに何もできず……うぇぇぇぇ……っ」

「ま~いいんじゃないの~? だって委員会は一致団結したんでしょ~? 完全解決じゃ~ん」


「よくありません! だってこんなことしたって誰も幸せにならない。それに先輩だったらもっとうまくいったはずです! それなのに……わらひがふがいないせいで……っ」

「そうかな~。新斗くんでもあんまり変わらないと思うけど~」



 どうやら香苗さんは私より付き合いが長いはずなのに先輩のことがまるでわかっていないようです。だって先輩は何でも解決できるすごい人。本物のヒーロー。先輩が本気を出せばできないことなんて何一つない。そう反論しようとしましたが、



「射丹務新斗は凡人だよ」



 そう語る香苗さんの表情は笑顔でありながら以前の面影も感じられて……とても文句は言えませんでした。



「確かに話は上手い。でもそれだけ。ちょっと長話ができるだけの一般人。それが新斗くんだよ」

「そうは……見えませんが……」


「言い直そうかな。積極的に人を助けることはしないけど、助けを求められたらノーとは言えない、普通の善良な人」

「それこそありえません。先輩は本気を出さない人は助けない。関係もメリットもなければ尚更に。そう言ってますもん」


「ツンデレだからね。雪華ちゃんの時もそう。助けを求められたその日のうちにビバリーに話を通してたし、摩耶ちゃんにも情報収集の依頼をしてた。あ、これ内緒だった~」

「そんな……ことって……ありえません。だってそれじゃあ、本当の本当にヒーローじゃないですか」



 それなら私を焚きつける意味も、何より嫌われる理由もありません。それに凡人だと言った香苗さんの言葉とも食い違います。



「助けを求められたら助ける。それってヒーローじゃないとできないのかな? 普通の人だって助けてって言われたら助けようとすると思うんだけど」

「でも普通の人は……助けられません。そんな能力はないから……」

「そう。新斗くんもそのはずだった。それを変えさせたんだよ、万が」



 万……確か先輩の先輩……先輩がすごい尊敬している方です。フルネームは……万陽火さん……。



「万が仕込んだのは一つ。助ける条件、たったそれだけ。自分に関係あること。自分にメリットがあること。相手が本気だということ。その条件が、あの化物を創り出した」

「どういうことでしょうか……」


「たとえば普通の人がここの店員にお金を貸してほしいって言われたらどうする? もちろん助ける前提で」

「それは……お金を貸してあげます」


「そうだね。昔の新斗くんもそうだったと思う。でも三つの条件ができたことで思考の形が変わった。もちろん新斗くんと店員に関係はない。だから関係があったという風に認識を作り替える。今回の場合だとたぶん私の知り合いってところかな。次にメリットがあるか。直接的に新斗くんにメリットはない。だから私に恩を売るという形になる。最後に本気かどうか。これが本当に厄介で、本気という形にさせるんだよ。自分にメリットがあるように状況を整えて、強制的に本気にさせる。まとめると店員が新斗くんにお金を貸してと頼んだら、おそらくこうなる」

「…………」


「元ヤンの私に悪人から金を巻き上げさせ、その金を店員に渡す。新斗くんは関係のある私を使って悪人を成敗するメリットを得て、本気で金を返させる状況を作り出す。それが新斗くんのお金を貸しての返答。まぁ実際の場合はもっと規模が大きくなるだろうけど」

「そんな馬鹿な……」


「そんな馬鹿なことができるんだよ。詭弁、言い訳、負け惜しみ。たった一つの問いかけに十の答えを返すことこそ新斗くんの専売特許。そこに万が三つの条件を付け加えることであらゆる枝道を作り出し、どんな答えにも無理矢理辿り付かせるようにした」

「いや……でも……」


「雪華ちゃんのいじめ問題もそう。名前を貸してもらう。たったそれだけのメリットのために一年生の一クラスを掌握し、何人もの弱みを手に入れた。ただ解決するだけなら先生に相談すればいいだけなのにね」



 言われてみれば……です。確かに先輩は私のクラスを擬似的に支配しているとも言えます。百井さんたちの過去を調べ上げていたようですし、たぶん他のみなさんも先輩に何か言われたら断れないでしょう。あれだけの大立ち回りを見せられては。全てが先輩の思うように進んでいる……そう言うこともできます。



「まぁでもあの時ばかりは失敗だったね」

「何かミスをしたということですか……?」


「そう。雪華ちゃんの存在が失敗だった」

「わ、悪口ですか……?」


「違う違う。新斗くんの目的は名前を貸してもらうことだけだった。それなのに口うるさい後輩が入部してくるわ、めんどうな依頼を引き込んでくるわ、教育までさせられるわ。新斗くんも想定外だったろうね。自分を連れ回す、どこかの先輩みたいな人が現れるなんて」

「ほ、褒めてますか……?」


「どっちも。でも期待はしてる。新斗くんはね、猛犬なんだよ。ちょっと何かされると所構わず噛みつく猛犬。誰かが飼ってあげないと、何をしでかすかわからない。きっと今回も何か変な思惑があるはず。だから頼んだよ、雪華ちゃん」



 香苗さんはそう言うと一枚の紙を差し出してきました。そこには汚い殴り書きでこう書かれていました。



「『俺だったら具体的にどううるさかったのか全住民にアンケートを取って論破する』。……相変わらず最低ですね」



 ギャップと拳の下ろし所。それを先輩は私が使える手だと言いました。でも私には使いこなせませんでした。たぶん先輩が本当に得意なことじゃなかったから。



 最低で最悪だけど、そっちの方がしっくりきてしまう。一年前のことなんて覚えてるはずないって言ってたのにあえてそれを武器にする。本当に最低なやり方です。



「やっぱり私のヒーローは先輩です」



 私が学ぶべきは交渉術なんかじゃない。先輩の後ろ姿だけ。そのことを再認識し、新しい作戦が浮かびました。

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