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【第95話】ゼッタの大戦10 2日目 思いつき


 このままでは保たない。


 初日の夜襲が終わった後の状況を見て、僕は確信した。


 おそらく明日の夜もローデライトはやってくるだろう。もちろん昼も、敵は攻め寄せてくる。


 砦の大きさが裏目に出ている。本来であれば同じ条件でも10日くらいは軽く持ち堪えられるだけの規模がある砦だけど、今回は少し事情が違う。


 ゴルベルとしても乾坤一擲の戦い。それも超短期決戦を仕掛けているだけに強攻が目立つ。僕が知る未来でも、この戦いで両軍に大きな被害が出た理由の一つはこれだろう。


 しかも援軍はない。兵士の補充がなくてはジリ貧は必至。


 敵もこちらの疲弊を読んでいる。明日はもっと厳しく攻め寄せるのは自明。日中も、日没後も。


 何か策を考えなくてはならない。早急に。




「初日は我らの勝ちである!!」


 深夜、兵を鼓舞するボルドラス様の勝鬨を聴きながら、僕はただ、ローデライトの去って行った暗闇を見つめていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「食え! 食え! 好きなだけ食え!」


 翌朝早々、ボルドラス様が食糧庫を開放し、兵士に振る舞っている。


「四日待てば敵は去る! 節約の必要はない! 好きなものを食って活力を蓄えろ!」


 ボルドラス様は、戦巫女のルファが神託として言った言葉を盾に、援軍に代わる兵士の拠り所として積雪を強調する。兵士も半信半疑ではあるけれど「応!」と答えながら食べたいものにかぶりつく。


 そのルファは朝早く起きて、スープを作って朝食で配り歩き、兵士たちの心を癒していた。



「ロア殿、食べないのですか? 体が持ちませんよ?」


 僕がぼんやりしているのを見て、ウィックハルトが声をかけてくれる。


「ウィックハルトの言う通りだ、まずは食わんと始まらんぞ」とはフレイン。


「食欲がないかもしれんが無理にでも腹に詰め込んでおけ」と、リュゼルも続く。


「ああ、うん。別に食欲がないわけじゃないんだ。ちょっと考え事をしていて、、、」


「お、また何か、面白いことを思いついたのか?」フレインの言葉に「うん、、、どうだろう」と僕は曖昧な返事を返す。


 思いつきは、した。


 ただあまりにもリスクが高い。正直言って、僕は提案するべきか迷っている。


 結局結論が出ないまま朝食が終わり、僕ら将官は集められた。軍議である。


 部屋に漂う空気は良くない。今回の戦いの厳しさは皆痛感しているのだ。


「なにもう、みんな負け戦みたいな顔しちゃって〜。勝てるものも勝てないわよ?」とホックさんがおどけて見せるも反応は曖昧。


「そうですな。気持ちを切り替えていきましょう。ニーズホック様、すみませんが本日も外で牽制の指揮をお願いしてよろしいですか?」


「ええ。そのつもりよ。リュゼルちゃん、覚悟は良いわよね?」


「はっ。準備はできております」


「ユイメイは、、、、」


「もちろん」

「出る」


 鼻息荒く拳を握る双子。


「では、他の者たちの配備についてだが、、、、」ボルドラス様がテキパキと差配を進める中、「ロア殿?」と僕に声をかける者がいた。ウィックハルトだ。


「私の勘違いでしたらすみませんが、ロア殿は何か策を思いついたのではないですか?」と直球で切り込んでくる。


「どうしてそう思うの?」


「なんというか、、、そういう顔をしておられたので」


 気がつけば周辺の将官は、配備の話を一旦止めて、僕らの会話に注目している。


 正直まだちょっと迷っていたけれど、ここに至っては話すべきか。僕は腹を決めた。


「偽情報をね、流したらどうかと思うんだ」


「流言ですか?」


「そう。うまくいけばちょっと面白いことになるのだけど、、、ただ、危険すぎて使えないかなと思っているんだ」


「なんでも良いから話してみなさい」ホックさんに促された僕は、ゆっくりと考えを話し始めた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ロアが策を提案したその日の夜。


 ゴルベルの本陣では、日中の攻防戦が終わり帰還した、大将ゼーガベインが陣幕で深く息を吐いていた。


 初日以上に遮二無二攻めたが、やはり、そう簡単には攻略できぬか。。。。。


 そうは呟いてみるものの、実際には軍師の言う通り、今のところはゴルベル優位で進んでいる。


 ローデライトはいつものように独断での勝手な動きが多いが、今回に関して言えば我々にとって良い方に転んだようだ。


 このまま今夜もローデライトに好きにさせておけば、もしかすると明日にはキツァルの砦を落とすことができるかもしれん。いや、これ以上の損害を考えれば、確実を期して明後日仕留めるのが良いか。



 しかし難しいのはそれからだ。キツァルの砦にどれだけの兵を残し、どれだけの兵を退かせるか。せっかく取ったものをすぐに奪われては笑えぬ。相応の兵を入れておかねばならぬが、あまり注力しすぎては、国内の防衛に支障が出る。


 いっそ、あの身勝手な男に砦の守備を任せてしまうか? それならルデクに奪い返されても、ローデライトの責任になる。悪くないかもしれない。



 いずれにせよ、なるべく兵の被害を出さずに抑えたいものだが、、、



 砦制圧後の考えに耽るゼーガベインに、側近が近づいてきた。



「なんだ? 今は忙しいが?」



「申し訳ございません。内通したいという者が、ゼーガベイン様に御目通りを願っております」



 外では、ローデライトが率いる部隊の威勢の良い声が響いていた。



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