表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/379

【第85話】隊旗を考えよう。


「はぁ〜、どうしよう、、、、」


 王の元から解放された僕は、第10騎士団の詰所の近くの広場の隅にいた。


 僕がため息をついているのはロア隊の隊旗のことだ。今日中に決めてネルフィアに伝えないとならない。正直ウラル王子との演習よりもよほど難題だ。


 最初は部屋で白い紙と睨めっこしていたけれど、全く何も思いつかなかったので外に出てきたというわけ。


 僕の横ではルファがその辺に転がっていた棒で、地面にさまざまな絵を描いている。地面にお絵描きして喜ぶ年ではないと思うけれど、何かのスイッチが入ってしまったようで、一心不乱にさまざまな絵を描きまくっている。


 ここまでは良い。僕もルファの絵は大変参考になる。何かのきっかけになるかもしれない。


 そう、ここまでは良いのだ。


「ゼランド王子、、、、何してるんですか?」


 僕らが訓練場の隅でうんうんと唸っていると、どこから嗅ぎつけたのか、ゼランド王子がやってきた。


 そしてルファ画伯が地面に次々に描く絵を、興味深そうに眺めているのである。


「父上にはちゃんと許可を取ってきました! 本日はもう自由時間で良いそうです!」


 そう。よかったね。じゃあ他にもっと楽しいことがあると思うけれど、、、、とは流石に言えない。


 ルファはルファでゼランド王子の相手をすることもなく、黙々と地面に絵を描き続ける。どういう状況だ、これ?


 いや、ゼランド王子にかまけている場合ではない。隊旗を考えないといけないのだ。


 ルファの絵の中には、三つ星に牡牛の絵もある。ルファが養子となった、ザックハート様のローデル家の紋章だ。ザックハート様はこの紋章から1つ星を減らしたデザインを隊旗としている。


 家の紋章がある場合は、それを少し変えるパターンが多いらしい。あとは自分が好む武器をあしらったり、好きな動物と植物の組み合わせが定番。


「ロア殿、四つ目の獅子を使ってはどうですか?」


 ゼランド王子が無邪気に提案してくれるけれど、それ、絶対に使っちゃダメなやつだからね? 王族の紋章のやつ。怒られるだけじゃ済まされないよ?


「そうですか、、、しかし、隊旗には動物がいた方がかっこいいです」


「動物か、、、確かに、僕は得意な武器があるわけじゃないし、紋章がある家柄でもないから、それが無難だと思うけれど、、、、」


 では、どんな動物が良いか。ここが悩ましい。


 身近な動物、、、、今なら間違いなく馬だ。アロウもいるし、そもそも僕らロア隊は騎馬隊。一番適当な気がする。と、同時に一番揉める気がする。


 なにぶん当中隊には馬への愛が深い部隊長が2人いる。馬を隊旗にするのはすぐに賛成してくれるだろうけれど、そこからは間違いなく口を出してくるし、結論が出ないのは目に見えていた。隊旗が決まる前にルデクが滅びそうだ。



 では生まれ故郷の身近な動物、、、、魚ならたくさんいたなぁ。それと鴎か。鴎は内陸だと見ないからなぁ。なんかちょっと違う気がする。


 ルファの落書きの中には、猫やウサギ、子豚などもある。ウサギはラピリア様と被るから無し。猫かぁ、悪くないけれど、可愛すぎる気がする。


「これは、何?」落書きの中の見慣れぬ動物にゼランド王子が興味を示した。


「モグラ」ルファは落書きに夢中でまぁまぁの塩対応。それでもゼランド王子は「モグラとはどんな生き物でしょう」と嬉しそうにルファに話しかけている。


 、、、、んん? ルファ、随分とゼランド王子に気に入られたみたいだな。


 まぁいいや。それよりも隊旗だ。


 と、そこまでずっと動いていたルファの手が不意に止まると、こちらを向いて「ロア、ロア隊は鳥がいいと思う」と口にする。


 ルファの足元に鳥はひとつも描かれていない。急にどうしたの?


 聞いて返ってきた答は「なんとなく」だ。そうか。なんとなく、か。


「なるほど、鳥ですか? それは良いですね!」とゼランド王子が賛成の声をあげるけれど、君、多分ルファが選んだやつならなんでもいいでしょ?


「鳥、、、鳥ね、、、今の季節だと白鳥とか? 鴨?」


「ロア殿、ムクドリなども見かけますね」


 僕とゼランド王子が冬に見かける鳥の名前をあげていると、ルファが不思議そうな顔をする。


「冬の鳥っていえば、つばめじゃないの?」


「つばめ? あれは、もっと暖かい頃の鳥じゃないの? ほら、夏頃によく子育てしてるでしょ?」


 僕の言葉にルファがまた首を傾げた。


 話が噛み合わないので擦り合わせてみると、どうもつばめは冬は南の大陸に、夏は北の大陸にいる鳥らしい。確かに冬は見かけたことがない。


 つばめ、、、つばめか。そういえば、つばめが巣を作る家は縁起がいいって迷信がなかったっけ? なんか、安全な場所だから巣を作るとか?


 うん。悪くない気がする。


「、、、、つばめにしようか?」僕は口に出してみる。


「いいと思う!」ルファが気に入れば、もうゼランド王子の意見はいらないな。


「つばめだけでは少し寂しい気がしますね。せっかくですから、何か植物を足してはいかがですか? 例えば智慧の象徴であるオリーブとかどうですか?」


 ゼランド王子の言葉も一理あるけど、智慧の象徴は気恥ずかしい。


「悪くないけれど、、、、」


「、、、、月は?」ルファが三つ星に牡牛の絵を指差した。


 月、、、、月とつばめ。関係のなさそうな組み合わせだけど、面白いかもしれない。


「満月ですか? 三日月ですか?」ゼランド王子がルファに聞く。


「どっちがいいと思う?」逆に聞き返されたゼランド王子は少し考えてから


「、、、、三日月ですかね? 三日月の中をつばめが飛んでいる、みたいな?」


 ゼランド王子、それ、採用。


 ざっくりとしたデザインが決まれば、あとはネルフィアの方で何とかしてくれるだろう。


 

 こうしてロア隊の隊旗は、『三日月につばめ』に決まったのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
SS読んだ後だとコレは凄くないか?ってなる。エモい
この話、後世に語り継がれるやつ。
[一言] 月にツバメ! 自分の地元にそのマーク使ってる会社あります(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ