【第71話】災難の日① 頑固おじいちゃんに会いにゆこう!
先日お邪魔したレイズ様の研究室には、面白そうなものがたくさんあった。
例えば鉄製の逆茂木。ご丁寧に車輪もつけて輸送が可能となっている。ただ、作ったはいいけれど、やはり車輪がついていても単純に重くて輸送に時間がかかるのと、万が一破棄せざるを得ない場合のコストが折り合わずに倉庫で眠っていた。
他にも使い所はまだ無いものの、何かには使えそうというものが転がっていたけれど、あれは全てドリューが作ったのだろうか?
「、、、、ア! ロアったら!」
「あ、ごめんごめん、何?」
僕は今、ゲードランドの港に向かう途上だ。並んで歩くラピリア様の馬の背に乗ったルファが、あきれた顔でこちらを見ている。
「もー。ぼんやりしているとアロウから落っこちちゃうよ!」とルファに怒られれば、
「ルファ、ソイツはまたしょうもない事を考えていたんだから、放っておけばいいのよ。どうせレイズ様のお屋敷の研究室のことでも考えてたんじゃないの?」とラピリア様が辛辣なことを言う。まぁ、正解ではある。
ゲードランドへ向かっているのは、僕、ルファ、ラピリア様とウィックハルトという少し変わった組み合わせだ。
今回の話はルファに端を発する。
度々一人留守番をしていたルファ。少し不満そうだったルファに、今度の非番にどこかに行こうかと聞いたら「ゲードランドに行きたい」と言い出した。
聞けば、第三騎士団の団長、ザックハート様に会いたいという。
なんでザックハート様に? と思ってよくよく聞いてみれば、ルルリアの件が絡んでいた。
ルルリアを帝国に連れてゆく際、僕ら第10騎士団はルルリアに同行する必要があった。そのため一人でルデクトラドに戻るルファに関しては、第三騎士団に王都への用がある時に、ついでの同道をお願いしたのである。
ここまでは僕も知っている話だ。けれどその後が予想外だった。
ルファは僕らが出発した三日後に、ゲードランドの港を出発した。
その際、ルファを連れていったのは、、、誰あろうザックハート様本人。
どういうわけか第三騎士団に面倒を見てもらっていた3日間の間に、ルファは随分とザックハート様に気に入られたみたいだ。
ザックハート様は王への報告のついでだと言い張っていたらしいけれど、どう考えてもそれだけでは無いように思う。
ルファもザックハート様にはだいぶ懐いているようで、手紙を貰ったので会いにゆきたいと言う。
レイズ様に許可を貰いに行ったところ、「あら、じゃあ私も行こうかしら?」と言い出したのが、その場にいたラピリア様。
ラピリア様とルファは第10騎士団でも数少ない女性ということもあり、結構仲良しなのである。レイズ様からそろそろ休みを取るように言われていたため、同行を申し出た。
ウィックハルトはいつものように僕について来ている。逆にディックは留守番を希望。元々一兵卒で、第10騎士団ではどちらかと言えば落ちこぼれ寄りだったディックは、騎士団長に会うにはそれなりに気を張るらしい。
戦場では気にしないらしいけど、そうでない場所ならウィックハルトに側近の役目は任せたいとのこと。こちらとしても留守中の食糧管理を任せられるので、それで問題なかった。
僕らは前回と同じようにルエルエの街で一泊し、ゲードランドの街に向かう。
道中、もりもりと地面を掘り起こしてゆく第六騎士団の勇姿を横目に見ながら、のんびりとアロウの歩みを進めていた。多少肌寒い季節だけど、天気も良くて気持ちが良い。
「そういえばラピリア様はせっかくの休みなのに、実家に帰らなくてよかったんですか?」僕は何の気なしに聞いてみる。レイズ様は今頃お屋敷でのんびりしている筈だし、グランツ様も家族との時間を楽しんでいる筈。
ましてラピリア様は良いとこのお嬢様だ。こういう時は実家で優雅に過ごしそうだけど。
僕の言葉に渋い顔をするラピリア様。およそ戦姫がして良い顔ではない。
「良いのよ。帰ったら一族総出で縁談の話を持ち込んでくるんだから。面倒臭くて仕方ないわ」
あー、なるほど。それは想像がつくなぁ。王とレイズ様の覚えめでたい戦姫と伴侶になれば、その家の将来も約束されたようなものだもの。
「それに私、任務以外でゲードランドに行ったことはほとんどないのよね。一度は休暇で行ってみたかったから」
「ラピーちゃん。ゲードランドに行ったことないの? 意外」年下のルファの言葉に、ラピリア様は微笑みながら答える。
「そうよ。あの街は長く第三騎士団が守護しているから、私だって分かると第三騎士団に気を遣わせちゃうし、お忍びというのも限界があるから」
「ふーん? 今回は良いの?」
「そうね。話を聞く限りは今回の主役はルファだろうから、私も気楽に楽しめるって訳」
「分かった! じゃあ、ラピーちゃんも楽しんでね!」
、、、、、ルデク広しと言えど、ラピリア様をラピーちゃんと呼べるのはルファだけな気がするな。
こうして僕らはルエルエで一泊し、何事もなくゲードランドの街に着いた。
ゲードランドで予想もしていなかったトラブルが待っているとは思いもよらずに。
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ゲードランドの港はルデクのみならず、北の大陸の玄関口だ。
多くは商人と観光客でごった返す街だが、明るく美しい街の裏には、暗く沈んだ闇の部分がある。
男が”それ”を見かけたのは本当に偶然だった。
二度三度と瞬きをして、見間違いではないことを確認すると、無精髭の生えた顎を撫でる。
しばらく”それ"の後をつけた男は、ニヤリと笑い、舌なめずりをすると、人々が近づかぬ裏町へと消えてゆくのだった。




