【第67話】街道と新人
ロア隊が帰還すると、僕を待っていたのは街道整備に関する打ち合わせだった。僕はレイズ様への報告も早々に、会議室へ急ぐ。
僕に同行しているのはネルフィアとサザビーの書記官(?)コンビ。ウィックハルトとディックも同行を希望したが断った。
知っている人はともかく、4人を知らない人には4人揃うと結構な圧があるんだよ。それに留守番だったルファが不満そうだったので、そちらのフォローを頼んでおいた。
今回の打ち合わせは工事着工に関するものだ。
タールが想像以上に早く届いた。瓶詰めに対する返礼なのか、フェザリスの大臣が最優先でこちらに送ってくれたらしい。
砂利や砕石も揃っている。鉱山の多いルデク。採掘の時に出る石材には困らない。
今回の打ち合わせに参加するのは、第六騎士団より数名。文官より数名。それからドリューと僕ら。
第六騎士団は今回の街道整備の実行部隊だ。文官は資材や第六騎士団の食糧などの手配を請け負う。ドリューも文官だけど、裏方仕事はほぼ不可能。別途調整役の文官が任じられた。
そして僕であるけれど、なんでかドリューと並んで街道整備の発案者みたいな立ち位置にいた。いつの間にか。
確かにタールの輸入を提案したのは僕だし、ルルリアから大臣の手紙を貰ったのも僕だし、ルルリアから街道整備のやり方を教わったのも僕だ。けれど、結局全てルルリアのお陰であって、僕は何もしてない。
にも関わらず僕が呼ばれたのはドリューのため。具体的にはドリューの手綱を握ってほしいという要望が、第六騎士団、文官の双方から依頼されたためだ。
極めて自由人のドリュー。そんなドリューが耳を傾ける相手は少ない。
というか、王都内で話を聞くのは僕と、レイズ様と、あとよくご飯を食べずにぶっ倒れているドリューの面倒を見てくれている、隣の部署の女性文官位らしい。
、、、、、尖ってるなぁ。
レイズ様はいうまでもなく、僕に関しては「何か面白い考えを持ち込んでくる相手」として認識しているようで、比較的言う事を聞いてくれる。
流石に忙しいレイズ様を街道拡張の打ち合わせに呼びつけるのは憚られるし、全く関係ない女性文官を呼ぶのも、、、と言うことで消去法で僕に白羽の矢がたったのだ。
「すみません、遅れました」
僕が部屋に入ると既にみんな揃っていた。
「こちらこそ帰還早々にすみません」と今回の文官側の責任者、オーフックさんが返してくれる。オーフックさんとは文官時代に直接的な接点はなかったけれど、優秀なベテラン文官という印象。オーフックさんが先頭に立つなら安心して任せられる。
とりあえず席につこうとして、ふと見ると席の配置に違和感を感じる。
テーブルは四角。それぞれの面に、第六騎士団、文官、ドリューと座っているのだけど、ドリューの両側に2名の文官が座っていた。一瞬座る場所がなかったのかと思ったけれど、文官側の座席にはまだ余裕がある。
僕の疑問の視線にドリューが気づくと、こちらにニンマリと目を細めながら
「ジブンの部下ですよ!」と手を広げる。そしてその細い両手がちょうど2人の顔にぶつかった。
ドリューに部下? いや、ダメってわけじゃないけれど、大丈夫なの?
「室長、痛いっす」と払い除けながらこちらを見たのは、短髪で気の強そうな男性、、、まだ少年と言ってもいいほど幼さが残っているので文官になりたてみたいだ。
「ホーネットっす。よろしくっす」
逆にドリューの手が顔に当たったまま、どうして良いのかわからずに手をワタワタさせているのは、こちらも新人っぽい女の子。
「あっあの! あのっ! ジュディアノです! よろしくお願いひまひゅ!」
「、、、、ロアです。よろしくお願いします」
これはまた、、、、個性的な2人が加入したなぁ。
「おほん、早速ですがお話を始めてもよろしいですかな」と口を開いたのは第六騎士団の部隊長、フォガードさんだ。第六騎士団はベテランの将官の多くが降格したので、部隊長として残っている数少ない貴重な将官となる。
「あ、すみません。どうぞ」
「では、ルデクトラドとゲードランドをつなぐ街道の整備工事について話し合いを始めたいと思います。まずはルートですが、オーフック殿」
「ええ。こちらを」と、用意されていた地図を壁に貼り出す。ルデクトラドとゲードランド、それから主だった街や街道が書き込まれた地図だ。僕らが旅一座と出会った街、ルエルエもある。
「やはり、既存の道を拡張するのが現実的だとは思います。そうしないと中継地点の各街から不満が出るでしょう」
オーフックさんの言葉にフォガードさんが大きく頷く。
「概ね賛成ですが、少々問題があります。ロア殿から頂いた街道造成の方法では、まず最初に一度地面を掘り返す必要がある。それから砕石や砂利を埋める、これは水捌けをよくするという事ですかな? さらに土をかけて踏み硬め、タールというもので表面を固める。間違いありませんな?」
「はい。僕がルルリア、、、、フェザリスの姫から聞いたのはそういう方法でした。ただ、僕もしっかりと理屈がわかっていないので、多分あっているという言い方しかできませんが、、、」
「手順については私も、フェザリスの大臣より聞いています。こちらで間違いないかと」
僕の言葉をオーフックさんが補足する。
「その、掘り返すというのが厄介でして。長年踏み固められた街道を掘るのは我々でも少々骨が折れる。何か良い方法はありませんか?」
「なるほど、、、、ロア殿、ドリュー、何か良い知恵はありませんか?」
オーフックさんに水を向けられると、ぼんやりしていたドリューが、こちらに期待を込めた視線を向ける。何か面白い道具でも出てくるんじゃと思ってかもしれないけれど、残念ながらこれといった考えはないなぁ。
ツルハシとスコップで地道に掘り返すしかない。
僕が何も言わないと、ドリューは少しつまらなそうにしてから
「わざわざ固い場所を掘りかえす必要はないでしょ」と端的にいった。
「掘り返す必要がない?」フォガードさんが眉根を寄せる。
「うん。今ある街道の横を、街道に沿って掘っていけばいいじゃん。元の街道は旧道として残しておけば、何かの時に使えるし」
「ああ、なるほど。少し考えれば分かりそうなものでした。確かにその方が効率が良い」
フォガードさんが感心したように納得する。ドリューの凄いのはこういうところだ。後から聞けばなるほどと思っても、その発想に至るまでの速度が恐ろしく早い。
「では、そのように進めましょう、それから次に、、、」
こうして街道整備に関して次々に話が決まってゆく。
一通りの話が終わり、「では今回はこれまで」となって、思い思いに席を立つ段階になって、ドリューがこちらに近づいてきた。
「ロア、頼まれていたもの、できたよ」と。
「ちょうど良かった。僕も新しく頼みたいことがあったんだ」
「頼みたいこと!? なんですか!? 今度は何を作るんですか!?」
先ほどまでの会議の時とは打って変わって目を輝かせたドリューを宥めながら、僕らはドリューの部屋へと向かうのだった。




