【第62話】ならし任務③ 不穏な騎士団
あてがわれた部屋で、僕は一人考える。
騎乗訓練も兼ねた僕らは、オークルの砦までそれなりの行軍速度でやってきた。少し迂回したとはいえ、それでも4つの砦を経由する必要があった。
こうしてたどり着いた結果、僕の頭には1つの疑問が浮かぶ。
ールデクが滅んだ未来、リフレアの兵士が王都に流れ込むまでの時間が早すぎるー
仮に国境で出撃準備をしていて、最速でルデクトラドまで攻め込むと考えても、僕の記憶にある侵略速度を考えれば、日数的に無理だ。
つまりどういうことか。
可能性として高いのは、オークルの砦、ホッケハルンの砦のどちらか、もしくは両方をリフレアが制圧して王都の火の手を待っていた。それならばあの速度にも頷ける。
気づかれずに砦を占拠したということは、ルデクのいずれかの騎士団が裏切ったと考えるのが自然。その時王都にいた第一騎士団以外の騎士団が。そうでなければ、王都までの間に砦で戦闘が始まっていてもおかしくない。
途中の砦で足止めされて、リフレアの軍が王都に届かなければ、第一騎士団は王都で孤立する。他の騎士団が異変に気づくチャンスもあった。
でも、第一騎士団以外の騎士団が裏切ったとすれば疑問もある。リフレアに組み込まれたのは第一騎士団だけだったはずだ。リフレアにとってはルデク制圧の立役者のはず。なぜその記録がないのか。
どういうことか。答えはひとつだ。
結局、リフレアに潰されたのだろう。なぜかは分からない。第一騎士団ほどの価値は感じずに、ただの道具と利用されたか。
僕の知る未来では、最終的に第一騎士団もいいように扱われてすり潰されて消えてゆく運命だ。そう考えれば秘密裏に皆殺しという選択肢もリフレアなら平気でやりそうな気がする。神聖国の名前が聞いて呆れる。
なんの根拠もない。全ては僕の妄想かもしれない。けれど、リフレアからの侵攻が異常なほど早かったことだけは、揺るぎない事実だ。なら、裏切った騎士団が、第一騎士団以外にもう一つ、或いは複数いると考えた方が現実的だ。
なら、どの騎士団が怪しいか。裏切っている騎士団がいるものとして考えよう。
まず絶対にあり得ない騎士団がいくつかある。
第三騎士団はあり得ない。王都炎上後も、ザックハート様以下ゲードランドで最後まで戦い全滅している。それに加えて位置関係的に無理だ。
次に第六騎士団も排除していい。こちらは少し未来が変わったけれど、本来であればハクシャの戦いで大きな打撃を受けて、未だリーゼの砦に篭って身動きが取れなくなっていたはず。
それから第八騎士団も除外。騎士団とは言うが実態は諜報部隊だからだ。
というか、ネルフィアとサザビーって、多分、第八騎士団所属だよね? 本人たちが言わない限り聞くつもりもないけれど、いくら王直属の書記官だからって、戦場に頻繁に出る文官なんていない。それに2人の口ぶりからして、僕らが気づいても構わないと思っている節がある。
ま、僕としても王様と直接連絡が取れる人物がいるのは悪くない。2人の狙いが何かは分からないけれど、そこは割り切って付き合っていこうと思う。、、悪意があるようには思えないし。
そうすると第八騎士団というのは、騎士団としてまとまって動いているのではなく、各地に分散していると考えられる。その方が諜報部としては自然だし。第八騎士団の存在がいまいちあやふやなのも理解できる。集団が存在しないのだから。
、、、、ここまでは確実に除外できる騎士団。次に可能性の低い騎士団を考えてみる。
持ち場を離れて北方の砦に出張ってくるのが難しい騎士団。
まずは第五騎士団だ。
帝国と隣接するヨーロース回廊はルデクでも南東にある。王都よりも遠い場所から砦を窺うのは現実的でない。
また、第七騎士団も同様。未来ではリーゼの砦で孤立しがちな第六騎士団を支援しながら、ルデク南西でゴルベルと対峙していた。
残るは第二騎士団、第四騎士団、第九騎士団の3つ。
断言はできないけれど、この中では第四騎士団が一番可能性が低い気がする。
ハクシャの戦いで第六騎士団が敗北を喫した後、ゴルベルの動きは活発だった。僕の知る未来ではルデクが大きく押し返すことになるのだけど、それにしても第四騎士団はゴルベルの対応に追われていたはずだ。
残すは、第二騎士団と、第九騎士団。
全ては僕の妄想で、本当は第一騎士団以外に裏切りはいないのかも知れない。
でも、不安があるなら一つでも潰しておくべきだ。
来るべき時のために。
僕は一度伸びをして窓を開け、室内の空気を入れ替えた。
少しずつ空気が冷たくなってきている。今年の雪は早いかも知れない。今は冷たい空気が有難い。大きく吸い込むと、頭の中がスッキリする気がする。
考えれば良い機会かも知れない。
僕はこの任務のうちに、第二騎士団に会っておくことを決めた。




