【第59話】三度、トランザの宿にて
随分と僕のところも大所帯になってきた。
僕の側近として、蒼弓ウィックハルトと怪力ののんびり屋、ディック。
ロア中隊として、リュゼルとフレイン。
裏方仕事の補佐として、ルファ、ネルフィア、サザビー。
、、、、、、、なんだかえらい事になってきた。
先日瓶詰めのお疲れ様会をやったばかりであるが、今日は三度トランザの宿の食堂でリュゼルとフレインの歓迎会。初対面の組み合わせではないので、結構すぐに場は馴染んだ。
それにしても今日の料理はどれも若干盛りが多い気がするな。宿屋の看板娘、スールさんのご機嫌度合いも高め。
やはりリュゼルとフレインと言う新しいメンツの存在が大きいか。
フレインは貴族らしく整った顔をしているし、リュゼルは切れ長の目が特徴的な、若いのに渋みを感じる男前だ。なぜ僕の周りにはそんな人たちが集まるのか。。。。うん。ディックが僕の心の友だ。
そのディックだけど、しばらくは僕の側近ではなくフレイン隊の預かりとなる。
理由は馬。
ロア隊は騎兵隊となる。元々一角の将だったウィックハルトは問題ないけれど、ディックはその体格もあって騎乗経験はほとんどない。
「ディックは戦場ではロアを近くで守るのが役割だ。とにかく戦場までちゃんとついて来られれば問題ないだろう」との判断で、最低限の騎乗技術をフレインが叩き込んでいる。
ちょうどフレイン隊は歩兵を急ぎ騎兵にしなければならないので、そのついでと、請け負ってくれた。
「騎乗を覚えるのもだが、ディックを乗せる馬を探すのが大変だ」と笑ったのはリュゼル。
リュゼル隊はフレイン隊の騎乗訓練を全面的に手伝ってくれている。同時に第10騎士団はもう一部隊騎馬隊を創設するので、そちらの手伝いもあり大忙しだ。
中でもリュゼルはレイズ様から軍馬の仕入れを一任されたため、フル回転の活躍を見せている。尤も、リュゼルは毎日馬に関する仕事ができてとても楽しそうではある。
「それにしても、本当にロア隊でいいのかなぁ、、」僕はしみじみとため息をつく。
「なんだ、まだ悩んでいたのか? 俺たちがいいと言っているのに、なんの問題があるのだ?」フレインはそう言ってくれるが、責任重大だ。僕の失策はそのままこの気の良い友人達の命の危機につながるのだ。
それにレイズ様が言った通り、僕らは第10騎士団屈指の機動力を誇る部隊となる。当然、ロア隊の判断と速度が第10騎士団に与える影響は小さくないはず。
そう考えると、やはり自然とため息が出る。
「良いじゃないですか。戦場では私たちもできるだけ助けますよ?」と言ってくれるのはネルフィア。。。え? ネルフィア?
「ネルフィア、戦場に出るつもりなの?」
「え? そのつもりでしたけど? 言いましたよね。王の書記官は従軍もするって。手伝いではなく、ちゃんとした仕事ですよ?」
「いや、確かに言っていたけどさ、、、」
「ご安心ください。失礼ながら、ロア様よりも戦場経験は豊富ですから」と言いながらワインを飲み干すネルフィア。前も思ったけれど、王の書記官、過酷すぎる。
「いいな、、、、」と不満そうなのはルファだ。ネルフィアとサザビーが戦場に同行するとなれば、確かにこのメンバーの中で留守番はルファのみとなる。
「いや、ルファ、、、、戦場なんて楽しいものじゃないよ?」本当に、大変なこと、辛いことばかりだ。
「でも、、、」と頬を膨らますルファだが、流石に連れてゆくわけにはいかない。
「ルファ殿がちゃんと在庫管理を請け負ってくれるから、私たちが安心して出陣できるのですよ」そのように、ウィックハルトに諭され、デザートを渡されるとパッと表情が明るくなった。
「それにしても、ロアは裏でも妙なことをしていたんだな」そうリュゼルが言ったのは瓶詰めのことだ。
瓶詰めはもう増産も大詰めになっているため、機密事項ではあるけれど、リュゼルやフレインには話して良い事になった。
瓶詰めの問い合わせがある度に2人を遠ざけるのは芳しくないという判断だ。
もう一月もすれば、王から大々的に発表があるとネルフィアから聞いた。少し楽しみではある。
「うん。別に妙なことではないけどね」
「そうか? お前はいつも妙なことしか考えていないだろう? この間のササールとか」とフレインも絡んでくる。
「ああ、あれは面白い武器でしたね。街にたくさん準備しておけば、民でも戦える事になりますね」というサザビー、詳しく長柄槍の説明をしていないのに、そこに気づいたサザビー、鋭い。
僕から長柄槍について聞いたレイズ様がドリューに相談すると、ドリューの返答はちょっと意外なものだった。
「そのままササールでいいじゃないですか? 先に石でもなんでもちゃんと縛りつければ武器になるんでしょ?」
確かにそれならば経費は最小限で、簡単に準備できる。納得したレイズ様は各砦のみならず、各街村に防衛装備として常備することを王に提案したと聞いた。
結果的にササールの新しい使い道になったのは少し愉快だ。
「今度は何を作るのですか?」と興味深そうに聞いてきたのはネルフィアだ。
実は少し考えているものはあるけれど、お披露目するかはわからない。なので、「そんなにポコポコ思いつかないですよ」と濁しておいた。
楽しそうに笑うみんなを見渡す。
少しずつ、少しずつだけど、ルシファル=ベラスと、リフレア神聖国に抗う手札が増えてきている気がする。
彼らに今、僕が未来からやってきたと言ったらどんな顔をするのだろう?
冗談と笑われるか、、、、それとも、、、、
守りたい人たちがまた増えた。
そう考えれば、中隊程度で迷っている場合ではないのだ。腹を決めて、前に進む。
僕は一人、静かに気持ちに力を入れ直すのだった。




