【第55話】入団式模擬戦④ ロアの狙い
話の区切りの都合で、本日は少し短めです。
「私の相手はリュゼル隊とフレイン隊ね。レイズ様の予想通りになりそう」
ラピリアは楽しそうに馬を走らせる。
「ラピリア様、あれを」
並走していた兵士の言葉に視線を中央に走らせると、第六騎士団は何やらやたらと長い棒のようなものを地面に叩きつけて、グランツの行手を阻んでいた。
「また妙なことを、、、」よくもまぁ、次から次へとおかしなことを思いつくものだと、感心しつつも呆れる。
「こちらも同じものを警戒した方が」という兵に、ラピリアは首を振る。
「多分、こっちじゃ”あれ”、使えないわよ。騎兵が持つには邪魔すぎるもの」
フレイン隊はともかく、リュゼル隊は全員が馬に乗る騎兵部隊だ。あんな長物を持って動くには邪魔すぎる。かといってフレイン隊だけ使ったところで、騎兵の邪魔をするばかりでむしろ足を引っ張ることになる。
「長物は無くても、また妙な物を出してくるかもしれないわ! 警戒は怠らずに、このまま突撃する!」
「はっ!」
長年ラピリアと戦場を共にしてきた部隊長である。それ以上の疑問を呈することはなく、ただ真っ直ぐにリュゼル・フレイン両隊を睨みつけた。
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「面白い武器ですね、あれ」
ササールの棒を叩きつける様を見ながらサザビーは楽しそうに呟く。
「時間があればちゃんとした槍で作りたかったんだけどね」3日間で用意できるのはこれが精一杯だったけれど、それなりに機能しているようで良かった。
さて、予想通り動いてくれるか、、、、
しばし睨み合っていた中央の戦いが、にわかに動き始める。
弓では効果が得られないと判断したグランツ様の率いる部隊が、少しずつ南へ部隊を移動させ始めたのだ。
さすがグランツ様。もう長柄槍の弱点を突き始めた。長柄槍は攻撃範囲で大きな優位性を得るけれど、動きに弱い。
取り回し難い上、普通の武器よりも重い。慣れていなければ尚更だ。相手が移動しながら戦い始めると、追いかけるほどに後手を踏む。
かといって長柄槍を手放せば、距離の優位性は失われる。そうなれば今度はグランツ様の用兵に翻弄され始める。
遅かれ早かれこうなることは予測できた。それでもなるべくギリギリまで時間を稼ぐように言ってある。
それよりも重大なのは、グランツ様が”南”へ移動を始めたことだ。
グランツ様の用兵には一つの癖がある。癖というか、ラピリア様への信頼とも言い換えられる物が。
グランツ様はラピリア様がいる方向には兵を動かさない。
これは様々な第10騎士団の戦闘記録にはっきりと載っている。
レイズ様の最強のカードである2人。特に自由自在に動き回るラピリア様を活かすためか、グランツ様はラピリア様と距離をとりながら、それでいて時にラピリア様の助けになるような動きをする。
多分、グランツ様本人も気づいていないささやかな癖だ。
これで第一段階、クリア。
グランツ様の部隊が完全に南へ動くまでの間、僕は北の動きを確認する。
ラピリア様の部隊と戦闘中のリュゼル、フレインは一進一退、互角に見える。
それからレイズ様のいる本陣。こちらには大きな動きはない。本陣に残された部隊が減ったりしていないか目を凝らすも、少なくとも見た目に変化はなかった。
再び南に視線を戻す。グランツ様の部隊は僕らの中央部隊を睨みながら、完全に南へ軍を移しきった。
今だ!
「ディック! 合図を!」
「おおーう」
ディックが第六騎士団の大旗を振ると、中央の部隊は長柄槍を捨てて、グランツ隊へと襲い掛かった! 元々攻めっ気の強い第六騎士団だ、ようやくとばかりに烈火の如く攻め立てる。
けれどさすがにグランツ様だ。兵の数ではこちらの方が多いのに、全く陣形が崩れることがない。
それでも、こちらの部隊の勢いに少し押されて、徐々に部隊を南へ下げ始める。
そして中央に、レイズ様までの道がポッカリと開く。
「フォガードさん! お願いします!」僕は開戦前に僕に深く頭を下げていた老将へ声を張る。自分でも気づいていなかったけれど、僕自身かなり興奮していたようだ。自然と声が大きくなる。
フォガードさんは大きく頷くと、「出陣!!」と威勢良く宣言すると、僕の陣に残った兵士全てを率いて、中央に開いた道へと突撃を始めたのだった。




