【第52話】入団式模擬戦① どうしてこうなった
「どうしてこうなった、、、、」
今日は新兵の入団式。その新兵を率いた第10騎士団と第六騎士団の模擬戦の日。
場所は王都からほど近い演習場。指揮官用の人工的に盛られた高台がある程度で、これといって特徴のない平坦地。
王都を背にする東軍は第10騎士団を中心の構成で、率いるは我らが英雄、レイズ様。
対して第六騎士団を中心とした西軍を率いるのは、なにを隠そうこの僕、ロアである。
開戦は昼と定められており、まだしばらく時間があった。
僕らの陣幕には第六騎士団の部隊長と、ディック、それにリュゼルとフレイン、文官のネルフィアとサザビーと個性豊かな面々が揃っていた。
この混沌とした空間にもちゃんとした理由がある。
まず何より僕がなぜ指揮官なのか。
これは第六騎士団に現在、騎士団長がいないことから始まった。僕の配下にはウィックハルトがいるけれど、ウィックハルトははっきりと参加を辞退。今回の模擬戦には参加しないし、影響を考えて見学にも来ていない。
ならば当然、第六騎士団内から仮の指揮官を出せば良いのだけど、現在、スクデリアさんを始め歴戦の将の多くは降格か謹慎に近い状況にある。
何せ勝手な理由で軍全体を危険に晒したばかりだ。よってここで出しゃばるわけにはいかないと、こちらも辞退。
ならばハクシャの戦いで奇襲に反対した若手の将校はどうか? 相手があのレイズ=シュタインである。「無様な戦いをして、第六騎士団を貶めるわけにはいかない」と尻込み。若手の中でもリーダー格だったライマルさんを失った穴は大きい。
こうしてみると第六騎士団はボロボロだな。街道整備に回して良かったのかもしれない。すぐに前線に出せる状態とは思えない。
結果的に第六騎士団から指揮官を出すことが困難となったところで、レイズ様が「ロアがやれば良いだろう」と言い出した。
ハクシャの戦いで第六騎士団から一定の信頼を得ているだろう、というのがその理由だ。
当然僕は断った。レイズ様にはグランツ様とラピリア様という何処かの団長をしていてもおかしくない人材がいる。適任というのであれば、明らかにそちらの方が適任だ。
だけどグランツ様は「模擬戦といえど、レイズ様に剣を捧げた私がレイズ様とやり合うのはあり得ない」ということを、遠回しに言いながら断る。
グランツ様の言葉を聞いたラピリア様は「もちろん私もそうよ!」と宣言したけれど、さっきまでちょっと乗り気だったのを僕は見逃していないからね?
結局レイズ様に押し切られる形で指揮を任されたのが3日前の話。
その上で「確かにいきなり第六騎士団を率いるのは大変だろうから、こちらからも部隊を出そう」と西軍に配属されたのが、僕と親しいリュゼルとフレインだ。
ディックは僕の配下だからこの場にいるのは自然だけど、同じ立場でもネルフィアとサザビーは文官なのでこの場にいる必然性はない。
2人に関しては、元はと言えば先日のトランザの宿での打ち上げの時の会話がきっかけ。
賑やかな食事の席で「私も模擬戦を身近で観戦したいので、ロア様の側で参加して良いですか?」というネルフィアの言葉に、僕は安易に「いいよ」と答えた。
食事会の時は僕は西軍を率いる予定もつもりも微塵もなく、なんなら戦闘には参加しない観客気分であったので、そのように安請け合いしたのだ。
ところがこの始末なので慌ててネルフィアと、その日酔っ払いながらも参加を希望したサザビーに事情を話したところ、返ってきたのは意外な返答。「あ、そうですか。問題ないですよ」だった。
「いや、流石に文官が戦場に出るのは模擬戦とはいえ危ないよ?」と、文官の身でついこの間死地を駆け抜けることになった僕の、気持ちのこもった言葉は2人には響かない。
「王の書記官ともなれば戦場に同行することも普通にありますから。こう見えて私の弓の腕前、それなりなんですよ。サザビーは槍捌きなら、その辺の兵士に負けません」などと言う。
、、、ちょっと過酷すぎじゃない? 王の書記官。
僕は絶対に王の書記官にはなれないなぁと思いながらも、結局ネルフィアやサザビーにも押し切られて、今に至るのである。
とりあえずの顔合わせが終わって、僕が作戦について話そうとすると、第六騎士団の部隊長の中で数少ない年配の将がその前に、と手を上げる。
「ハクシャでも、此度も、ロア様にご迷惑をお掛けし申し訳ございません」老将が頭を下げると、他の第六騎士団の部隊長もそれに倣った。
「や、そんな、頭を上げてください!」僕は恐縮するけれど、部隊長たちはそのままだ。
ただ、僕もそれ以上の言葉を重ねることはできない。
なんと言って良いのかわからないのだ。
ウィックハルトに触れるのも憚られるし、レイズ様に無理やり頼まれた、なんて言うのも違うような気がする。
しばしの沈黙。
それでも顔を上げようとしない第六騎士団の部隊長たちに、僕は少し考えて
「勝てます、、、とはいえませんが。勝てるように全力を尽くします」と言うと、彼らはようやく顔を上げて、顔をクシャりと歪ませながら笑った。




