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【第48話】漂流船騒動14 手紙と別れ


「何度貴様をこの手で真っ二つにする事を夢見たか、分からんくらいだぞ!!」


 と、非常に剣呑なことを笑顔で言っているのはガフォル将軍で、言われているのはレイズ様だ。ルルリア以下、漂流した船の乗組員の引き渡しが無事に終わり、そのまま第10騎士団は帝国騎士団の歓待を受けている。


 程よくお酒が入り、赤ら顔となったガフォル将軍がレイズ様に絡んでいるが、どうもこの人は元々こういう物言いをする人らしく、ガフォル将軍の側近の人が必死になって説明している。


 ルデクの兵が帝国の民を保護して引き渡すという両軍ともに初めての出来事で、少なからず張り詰めていた緊張がお酒で解放されたのであろう。ガフォル将軍に限らずそこここで敵国の兵同士で盃を酌み交わしている光景が見られた。


 もちろん、やろうとすれば気の緩んだ第10騎士団の寝首をかく事は今なら容易いけれど、人道的な善意を見せたルデクに対してそのような事をすれば、帝国は今後全ての国から信用を失うことになる。


 ゆえに、第10騎士団にとって大変危険な帝国領内ではあるけれど、今このいっときに限っていえば、非常に安全な場所といえる。


 僕は酒宴に程々に付き合って、頃合いを見て席を立つ。一緒に席を立とうとするウィックハルトには疲れたから先に休むと伝えて、その場に留めた。


 それからツェツェドラ皇子とルルリアの元へ向かい、簡単に挨拶を交わす。それからルルリアに、タールの件の手紙についてお願いする。


「出発前までにご用意させていただきますわ」というルルリアに、ツェツェドラ皇子がなんのことか聞き、タールがなんなのかを説明してくれる。


 タール自体は戦争に使用するようなものではないので、ツェツェドラ皇子もうるさい事は言わないだろう。そして、僕がわざわざこのタイミングでルルリアにその話をしたのは、ツェツェドラ皇子に手紙の内容を知ってもらうためだ。


 自分の妻が敵国の相手に手紙を渡すというのは、快くは思わないだろうから。先に知らせておいた方がいい。


 それから僕は「お礼にポージュやその他の料理の作り方を記した手紙を明日までに用意しておくよ」と伝える。これが本題。僕からもルルリアに手紙を渡しても不自然でない状況を作っておきたかったのだ。


 僕の言葉に興味を持ったのはむしろツェツェドラ皇子の方。


「ルルリアは料理をするのか?」


「ええ、ルデク滞在中に、こちらのロア様や、あちらにおられるウィックハルト様、それと同行はされてませんが、ルファという女の子と一緒に料理をして時間を潰していたのです。ツェツェドラ様にもわたくしの手料理を是非お召し上がりいただきたいですわ」


「そうか、楽しみにしておる」と目尻を下げるツェツェドラ皇子。とりあえず目的は達したので、ルルリアがどんな料理を作ったかを説明し始めたのを潮に、天幕へと下がる。


 いくら歓待すると言っても、さすがに敵国の兵を砦に迎え入れるというわけにはいかないので、周辺には帝国の用意した宿泊用の天幕が多数並んでいた。


 あてがわれた天幕に滑り込むと、僕は適当な箱を机がわりにして紙とペンを取り出し、うんうんと唸りながら手紙をしたため始めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「それではみなさま、本当にお世話になりました。帰路のご無事をお祈りいたします」




 翌朝、僕らは帰国の途に着く。昨日同様に整列した帝国騎士団の前で、ルルリアは主だった第10騎士団の将校それぞれと一言挨拶を交わしてゆく。


 最後は僕だ。僕には「お約束した通り」と言って、手紙を渡してくる。事前に話を聞いていたツェツェドラ皇子も黙ってその様子を見ている。


「2通?」


 手紙は2通あった。


「ええ。1通はタールの取引用。もう1通はルファへのお手紙です。ルファに渡していただけますか?」表書きを見れば、南の大陸の言葉で書かれている。


「分かりました。ルファも喜ぶと思います」


「宜しくお願い致します。本当に、ロア様にはお世話になりました」


「それじゃあ、僕の方からも、これを」


「2通?」ルルリアは僕と同じ反応をした。


「1通はレシピです。もう1通は、そうだね、、、ツェツェドラ皇子と2人きりの時にでも、2人で読んでください」


「2人の時に? ツェツェドラ様が読んでも問題ないと」


「もちろん。ちょっとしたお守りみたいなものです。読んだ後に不要だと思ったなら、捨ててくれれば良いです」


「お守り、、、、ですか」訝しげにしながらも、ルルリアは2通の手紙を受け取ってくれる。


 僕ができるのはここまで。


 内容は、第二皇子と大臣の企みについて。ゲードランドに出入りする商人から不穏な噂を聞いた。2人が密かに武器を集めている。近々良くないことが起こるかもしれない。噂の域を出ないけれど、情報筋は確かだ。この情報をどのように扱うかは、君たち夫婦に任せる。


 といった内容を書き記した。


 ゲードランドの港は第三騎士団が管轄しているから、僕にそんな話が入ってくる事はない。そもそもゲードランドの港に行ったのも久しぶりだ。


 けれど、ルルリアは僕が港周辺の出身だということしか知らない。ならば、僕が港を飛び交う情報に精通していると匂わせても素直に信じるだろう。



 手紙を読んだルルリアが、ツェツェドラ皇子がどのような判断を下すかは、分からない。



 ここから先は2人の物語だ。



 せめて、幸福な結果が待っていますように。



 背後に去りゆく帝国の空を見上げながら、僕は密かにそんな風に思っていた。



漂流船騒動と名付けたお話はこれで終了です。予定の倍くらいの文章量になってしまいましたが、書き手としてはまぁ、満足できる形で収まったと思っております。読んでいただいた皆様にも面白かったと思っていただければ嬉しいです。


また、いつもブックマークや評価、いいね、ありがとうございます。とても嬉しいです。

更新の大きな励みになっております。


宜しければ本作を引き続きお楽しみくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一歩一歩少しずつなにがしかの善き変化の兆しが見えますね
[一言] なかなか漂流船騒動の章?は面白かったですね。 スパイが紛れ込んでるとか姫様の暗殺を企む輩の蛮行を阻止するとかその手の類かと思いきや帝国の内乱への序章だったとは流石です。
[一言] 予定の倍になったというのは、ルルリア様関連でしょうか?作者の手を離れて動くキャラ、という奴でしょうか? 破天荒で活動的なお姫様は書いていて楽しい事でしょう。
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