クラザの花の下で
本日はあとがき含め3話更新しております。
読み飛ばしにご注意ください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
よく手入れされたクラザの木の下。2人の人物が盤上遊戯に興じていた。
一方はこの国の王、ゼウラシア=トラド。もう一人は、つい先日もグリードル帝国の侵攻を鮮やかに撃退してみせた、新顔の指揮官。
名を、レイズという。
レイズは帰還して早々、王にこの場所に連れてこられた。拒否権などあろうはずもない。
盤上の形勢はレイズ有利。
ゼウラシア王が盤上を睨む姿を見て、レイズは少し微笑む。
ゼウラシアは名君というほどの人物ではない。時として苛烈、そして冷酷な部分がある。
だがしかし、それを補うほどの長所も持ち合わせていた。
ルデクを豊かな国とたらしめている、商才。そして、他人の才能への寛容さ。
仮にゼウラシアが家格を重視し、下賤な人間の才能を疎んじたのであれば、レイズは今、この場所にいないだろう。
だが、ゼウラシアはレイズを引き立てた。
妙な御仁ではある。だが、レイズにとっては忠誠を捧げるに値する人物なのは間違いない。
「勝てるか?」
不意に、ゼウラシアが言った。
「さて、手は抜きませんが?」
そのように答えるレイズに「盤上遊戯のことではない」と返してくる。
それなら答えはひとつ。
「勝つしかありませんな」
どうか、ではなく勝つのだ。でなければ、ルデクは滅ぶ。
「勝てるか?」
ゼウラシアはもう一度問うた。既に盤上を睨んではいない。ただ真っ直ぐに、レイズを見ていた。
「勝ちましょう」
レイズは答える。
「そうか。しかし、どうも降伏に靡いている貴族もいる。外も、中も、敵ばかりだ」
ゼウラシアの弱音は少し珍しい。
「勝ち続ければ、状況は変わります」
レイズは断言した。勝ち続ければ、潮目は変わる。これは慰めではなく、事実だ。
「帝国は強いぞ」
「ですね。しかし、ルデクの騎士団も弱くはありません」
これも本音。レイズから見ても、騎士団は決して弱くはない。だからこそ、帝国の侵略を弾き返すことが出来ている。
「そうか。なら、お前に全て任せる。好きなようにやれ」
ゼウラシアの言葉を証するものはここにはいない。ただ、レイズと花びらだけが言葉を受け止める。
「宜しいのですか?」
レイズの問いには答えず、ゼウラシアは話題を変えた。
「この場所、良いであろう?」
満開のクラザに包まれ、ともすれば幻想的であるこの場所を、レイズも美しいと思った。
「はい」
レイズは短く答える。
「なら、貴様にやる」
ゼウラシアも短く返した。
「やる、とは?」
「ここはシュタインという、すでに絶えた貴族の館だ。レイズ、お前には貴族格を与える。今日よりレイズ=シュタインを名乗れ」
「、、、、、畏まりました」
深々と頭を下げるレイズに、ゼウラシアは満足げに頷きながら続けた。
「ルデクを平和にするまで、死ぬな」
王に対して、レイズは答えた。
「もし、我が命が尽きようとも、志を継ぐ者が、ルデクに平和をもたらしましょう」と。
レイズの言葉は長き時を経た後、小さな奇跡によって、現実のものとなる。
また、会いましょう!




