【第355話】終わりの話⑤ 新港、ドラーゲン
ルデクと帝国が惜しみなく技術と労力を注いだ新港、貿易都市ドラーゲン。
街から少し離れた場所には緩やかで小高い丘があり、ここにはドラーゲンを守るための砦と守備兵が配置されていた。
あまり街中を物々しくしないための配慮であると、皇帝が自慢げに説明する。
砦のある辺りからはドラーゲンの街並みが一望でき、僕らはまず最初に、この場所に連れてこられていた。
「これはまた、すごい形ですね」
サザビーが感心したような、表現に困るような声をあげる。確かにそれほどまでに斬新な形である。
海に面している部分を中心地として、そこから3方向に目抜通りが伸び、それぞれの先端に巨大な門があった。
特徴的なのは、全体的な街の形だ。3つの目抜通りの先端から、それぞれ剣のように尖った形状になっているのだ。
あえて表現するなら、巨大な星が海に突き刺さっているようにも見える。
「、、、、ただ奇を衒ったというわけでは無いようだな」
僕の隣でザックハート様が難しい顔でドラーゲンを睨んでいた。多分だけど、どうやって攻めれば落とせるかを考えているみたいだ。本気で陥落を狙っているのではなく、もはや武人の性みたいなものだ。
「分かるか? ザックハート」
皇帝が気さくにザックハート様へ声をかけながら、ふふん、と胸をはる。
「あれはどこぞのいかれた軍師などが、馬鹿みたいに巨大弓などを打っても対応できるようにしてあるのだ。そして城壁には”帝国製”の巨大弓を配している。そう簡単には落とせん」
そう言いながら、僕に勝ち誇った顔をする。お前でも無理だろうと言いたいのだろうけれど。いや、落とす気はありませんよ?
しかし流石だなぁ。もう巨大弓の再現に成功したのか。リヴォーテ達の報告だけで作り上げたことに帝国という国の底力を感じた。
「、、、確かに攻め手が見つけ辛いですね。海からの方が良いかもしれませんが、、、」ウィックハルトも戦談義に参加して、あれこれと話し合っている。
「形状も面白いけれど、あの中央の建物も気になるわね。宮殿かしら」
ラピリアが言う通り、中心地と思われる辺りには見慣れぬ意匠の建物が確認できた。色合いからしても、大陸の様式ではない。
「おお、あれはな、東方諸島の様式で造った宮殿だ。なかなか面白い形をしているだろう。これは義娘の提案だな」
皇帝の説明でみんなの視線がルルリアに移り、ルルリアはみんなを見渡してから説明を始める。
「そんな大した話じゃ無いけれど、東方諸島の使者や商人は、遠くからグリードルにやってくるわけでしょ? だからせめて、滞在する建物は向こうの様式に寄せたほうが落ち着くかなと思ったのよ」
なるほど、元々南の大陸からやってきたルルリアならではの視点だなぁ。これはゲードランドでも取り入れたい。各国の様式に合わせた宿泊施設を用意したら喜ばれるかな? 持ち帰って王と相談してみよう。
「さて、では、いよいよ街に向かうぞ。今日はあの宮殿に泊まるからな。せいぜい楽しみにしておけ」
その後もご機嫌な皇帝の先導のもと、ドラーゲンを堪能。
南の大陸の商人はもちろんのこと、既に思った以上に東方諸島の衣装を纏った人々が闊歩している。
街には見慣れぬ商品も並び、かなりの賑わいを見せていた。
自分で提案しておいてなんだけど、ゲードランドもうかうかとしていられない活気がある。
「父様! あの屋台を見に行こう!」
真新しい街に、見たこともない品々がならぶ目抜通りに、ルファのテンションは最大だ。
「もちろんだ。さあルファよ、ワシの手を離すのではないぞ!」
完全に義娘との休暇モードに切り替わったザックハート様は、大変しまりのない顔でルファに手を引かれて屋台へ向かってゆく。
「どうだ、街の中もかなりのものであろう?」
自慢げな皇帝。
けれど自慢するだけのことはあると思う。実に洗練された、良い街だと思う。
所々にポージュの専門店があるのはご愛嬌だ。
帝都を見た時からずっと思っていた。皇帝ドラクは街づくりに対して独創的で、それでいて機能的な才能を発揮する人だ。多分、元々そういった作業が好きなのだろう。
僕としては十分に満足だ。
その夜。僕は皇帝にとあるお願いをする。
「ほお、面白そうだな。乗った」
僕の最後の心残りを解消するため、この日僕は、皇帝と密かな約束を結んだのだった。




