【第354話】終わりの話④ 歓迎の宴
皇帝主催の歓迎の宴。皇帝はささやかな物、と言っていたが充分に豪華だ。
食糧不足は徐々に改善されつつあると言っても、他国ではまだまだ節制を強いられている中、料理一つとっても帝国の底力を思い知らされる。
いや、本当に帝国とやり合う事にならなくて良かったよ。
立食形式の会場では、なかなか面白い組み合わせが散見された。
まず特筆すべきはザックハート様とガフォル将軍。巨軀が並ぶと何やら遠近感がおかしくなる。
先ほどまでルファが会話に参加していたのだけど、さながら少女が巨人の国に迷い込んだような見た目だった。
双子に呼ばれたルファと入れ替わるようにして、2人の会話に興味を持った皇帝と第一皇子が加わって、何やら盛り上がっている。
皇帝もそれなりの体格をしているので、あの辺りの物理的な圧がすごい。
その向こうではウィックハルトが同じ大陸十弓の一人、ルアープや帝国の将達と話し込んでいる。
当初ウィックハルトは僕の護衛ですのでとやんわり断った。けれど前回の弓勝負により帝国でも一躍注目を集めていたので、是非に話をと請われて連れて行かれたのである。
さらに視線を移せば、リヴォーテと双子、そこにルファも加わり、いつもの愉快なやりとりをしていた。
僕にとっては大変見慣れた光景であったけれど、帝国の要人がリヴォーテの様子を見てポカンと口を開けて驚いている。
サザビーはルルリアに連れて行かれた。こちらはルルリアが攫われた際にサザビーが救出に向かったことを受けて、ツェツィーの部下の人たちから改めて礼をしたいと呼ばれて行ったのだ。
「いや、俺はロア殿について行っただけで、、、、」と言い訳をしたところで、ルルリアの強引さにサザビーが敵うわけがないのである。
ちなみに僕はといえば、先ほどからもっぱらロカビルの愚痴を聞いていた。何かと仕事を押し付けられるロカビル。色々鬱憤が溜まっていたみたいだ。
まあその仕事の一角はルデクとの折衝だ。元はと言えば僕が持ち込んだ話であるので、せめて愚痴くらいは聞いてあげようと思う。
そんなわけで、華やかな席の中で一際どんよりとした空気を纏っていた僕らの元へ、淀んだ空気をかき乱す御仁が襲来。ロカビルの父、皇帝ドラク陛下である。
「おい、ここだけ妙に辛気臭いぞ。楽しんでおるのか?」
「はい。まあ、それなりに」
愚痴とはいえ、貴重な帝国の裏事情だ。僕としては大変興味深く拝聴させて頂いていた。
「ところでロアよ、今回は新港を見に行く時間はあるのだろうな?」
「ええ、ゼウラシア王からもそのようにと」
「そうか、ドラーゲンはかなり満足のいく出来になったからな、お前に見せるのが楽しみでならん」
新しい港は「ドラーゲン」と名付けられた。この凶作の中で、良くもまあ予定通りに計画が進んだものだ。
皇帝とルルリアの気合いの入れようが違ったという。その分の皺寄せが自分に来ているのだと、先ほどロカビルから聞いたばかりだ。
「僕も楽しみにしています」
新港を確認したら、僕は皇帝に少々頼みたいことがある。そのための最終確認と定めているので、僕としても楽しみなのだ。
「と、そうだそうだ。俺はそんな話をしに来たのではなかった。ラピリアよ」
皇帝は僕の隣で大人しくしていたラピリアに体を向ける。
「なんでしょうか?」特に心当たりのないラピリアは小さく首を傾げた。
「いや、この度はおめでとう」
ああ、それで僕も気づいた。僕とラピリアの婚儀の件だ。
「ありがとうございます。陛下に祝っていただき、嬉しく思います」
無難に返礼するラピリア。
「それで、お前ら、式はいつ行うのだ?」
「いや、しばらく先になると思います。早くても来年、食糧難が完全に解消されてからですね」
僕らの式となると本人達の思惑はともかく、国家規模の一大イベントとなる。流石に食料の節約を民に強いている最中に、豪勢な婚儀などあげられる物ではない。
というか、僕らとしてはそっとしておいてもらいたいのが本当の所なので、むしろ贅沢できない今のうちにひっそりと行いたい。けれどこればかりは王の許可が下りなかった。
「そうか。無難だな。それで、参席者は決めておるのか?」
「いえ、この間ツェツェドラ皇子にお知らせした通り、とりあえず親しい人の参列は願いたいなと思って、ツェツェドラ皇子とルルリア姫は招待しても問題ないですか?」
僕の質問に皇帝はもったいぶって自分を指差す。
「なぜ、俺は呼ばれぬ?」
「なぜって、王族の婚儀ならともかく、流石に皇帝は呼べないでしょう?」
「そんなことはない。言ったであろう。お前は俺の身内みたいな物だと。なら、身内の婚儀に俺が出席するのはおかしなことでもなんでもない」
とんでもないこと言い出したな、この人。
「しかし、政務はどうするんですか?」
「問題ない。統治はビッテガルドに任せるし、仕事はロカビルに押し付ける」
その当人、、、今僕の隣で渋い顔していますけど?
「それとも俺を呼びたくないとでも?」
「いや、それは全然ないというか、出席してくれるなら嬉しいですが、、、、」
「なら決まりだな。ちゃんとゼウラシア王にも伝えておけ。予定に入れておくからな。せっかくだ、ゴルベルの王や、ツァナデフォルの女王も呼んでやったらどうだ? あいつらも喜ぶであろう」
それは一体どんな偉人の婚儀であろうと、僕とラピリアは揃って苦笑するしかなかったのである。




